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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「夏海…やる気ないなら部活辞めれば?」

玲美は心底興味無さそうにちらと目の端で私のことを見る。


念願の吹奏楽部に小学生の頃から友達である玲美と入部し、同じトランペットとして軽く口喧嘩をしながらも良きライバルとしてソロを勝ち取るため切磋琢磨した。部活帰りはいつも私たちのパートを口ずさみながら帰るのが日課となっていた。

中2になり、私は志望校合格に向けて本格的に塾に行くようになった。段々と部活に顔を出すことが減ってきて、ソロを目指すどころか自分の旋律も満足に吹けなくなってしまった。そんな私を見て玲美は「忙しいんだからしょうがない。私が教えるから安心して」と笑って許してくれた。

1日、また1日と部活にいる時間が減っていく。それと共に私のトランペットの腕も衰えていった。初めの方こそ優しく教えてくれた玲美だったが、ある日を境に教え方が雑になっていき、最終的には話しかけてすらくれなくなっていた。


とうとう辞めろと言われてしまったか。私はへらへらと笑うことしかできなかった。

「は?私は夏海が本気で部活しないんならみんなに迷惑だから親切心で指摘してるのに何その態度。やっぱ入部したときから思ってたけどあんた音楽向いてないわ。」

玲美の目がきりりと私を睨む。

「ごめん。練習なるべく参加する。」

「しっかりしなよ。夏の大会で3年引退しちゃうかもなんだよ?」

「……うん。」


心に黒くて分厚い雲がずっと居続ける。もう何もかもどうでも良くなってしまった。

志望校に合格することも、みんなと行きたかったはずの全国大会も。全てが憧れであって現実ではない。頑張ったって現実にならない。

いつからか車通りの多い暗い夜道をひとりで歩くようになった。参考書やノートで重くなった鞄を背負い直し、重たい足をあげる。後ろから甲高い玲美の笑い声が聞こえる。今頃私の悪口でも言って笑っているのだろう。


ぎゅっと目を瞑り数秒の間自分から視覚を奪う。誰も何も見なくて済むからとても落ち着く。

ゆっくりとまぶたを開けると同時に背中にどん、と強い衝撃が走った。


何が起こっているのか分からない。ストップモーションのように私の体はゆっくりと落ちていく。

あぁ、私は死ぬのか。神様はこの世界と私が繋がっている糸をようやく切ってくださった。


ごろごろと転がる私の体から赤黒いものが流れ出る。不思議と痛みは感じなかった。

終わりだ。一般的には短いが、私にとってはだらだらと意味もなく地獄の日々が続いていた13年間がやっと終わる。


でもひとつだけ未練があるとすれば。届かなくてもいいから、憧れに近づく権利が欲しかった。

そして、もう一度玲美と──────

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