テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
鷹槻れん/鷹槻うなの

35,460
鷹槻れん/鷹槻うなの

21,373
臣桜
51,196
#恋愛
水無月 京
1,300
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
暖房のおかげか部屋が徐々に暖かくなり、体も温まってくる。ふわ、と思わずあくびが漏れる。
一連の話はずいぶん刺激的だけど、逆に現実味に欠けていて自分が映画の中にいるようで、逆に眠たくなってくる。
「だから、そういうことを言うなっつの」
苦笑いしながら豆さんは、ちょっと待ってね、とソファから立ち上がる。ぼうっとその動きを目で追っていれば、隣の部屋から戻ってきた彼は手にブランケットを持っていた。
「掛けときな」
「すみません」
ブランケットをふわりと肩から掛けられて、すぐに生まれてくる暖かさに心が解ける。彼のお馴染みの苦味のあるシトラスの香りが強く香り、まるで豆さんに抱きしめられているような…
って。
自分の変態じみた思考に少しだけ目が覚めて身震いする。
「え、まだ寒い?」
「いえいえいえいえいえ、全然」
この話題へのこれ以上のツッコミだけは避けねばなるまい。
「さっきの音声、どうするんですか。本当に売るんですか」
「ねー、どうしようかなー。流石に何の段取りもなく持っていくのはヤバそうだし…とりあえず明日の朝イチに取った人事との面談で相談かなぁ」
そう言えば、行きがけのタクシーで彼が直談判して確保していた面談枠があった。
「それ、私も出るんでしたっけ」
「辛かったら出なくていい。いてくれると助かる」
「いえ、それは別に大丈夫なんですが」
気遣わしげな豆さんの顔を見つつ、私の気になるところは別にある。
「私家に帰らないと会議間に合わないなって」
「そんなん、一緒の画面から出たらよくない?」
「…多分ダメでしょう」
「つれないね」
頬を膨らませる仕草は可愛いけれど、私はそれには騙されないからね!?あの人事のパートナー、妙に鋭いんだから無傷では済まない。
「別の部屋から参加させていただくということで、理解しました」
「ちぇ」
何がちぇだ。
「まだ気になることある?」
「もう…大丈夫です…」
「眠そう。弓家さんだいぶ飲んでたもんね」
あなた飲むと隙だらけになるからほんと心配になる。
大きくため息をつく豆さんは、慈しむような視線でこちらを見るから背筋がくすぐったくなるけれど。
「だって、それは飲んで紛らわすしかなかったからじゃないですか」
くすぐったさのあまり、自分がとんでもない発言をしていることに気づく。発言取り消しなどできるはずもなく、
「え、どう言うこと?」
ときょとんと首を傾げる豆さんに、その意図を問われる。いえ、気になさらずにと言っても「それは生殺しじゃない?」と数度の応酬を経て観念する。
「…豆さん、若かりし頃は遊んでたって言ってました」
「あー?伊藤のアレか」
「その話、ホントですか?」
別にはるか昔のことなんだから、遊んでようとなかろうと。どっちでもいい話なんだけど。
「うーん、あんまり記憶ないのよなぁ」
首を傾げる豆さんは、狼狽えることもなく、言い逃れをしているわけではなさそうだった。
「まあ、俺パートナーになったのぶっちぎりで若かったし」
「そうらしいですね」
「だから、普通に同期とか大学時代の友達とかに飲みに誘われる年齢ではあったのよね」
「なるほど」
37歳は、まあまあ落ち着く歳ではと思うけれど。豆さんの周りの人なら、彼と同じぐらいエネルギッシュな人が多かったのかもしれない。
「飲み会と言われて出かけたら、不意打ちの合コンだったことはあるかな」
「…あるんですか」
「2、3回ね」
大学の同期が勝手に気を回してセットしてたことあったなあ。
懐かしむような視線と声に、今は知り得ない、昔の彼をリアルタイムでみてみたかったな、と思ってしまう。
「でもまあ、いつか言った通り恋人は仕事でしたのでね」
ワンナイトすらなかったはずだけど…ん、あったか?
要らないことを思い出そうとし始めるので
「わ、わかりましたもういいです」
「あ、そう?」
勝手ながらこの話題は終了とさせていただく。
「で?」
「え?」
「この話題が弓家さんの酒の量となんの関係があるの?」
うわぁ。これだから頭のいい人は。
全然流されてくれない。
「それは…」
「うん」
「察してくれませんか?」
自分の醜い心情を言語化することほど恥ずかしいことはなくて。思わずブランケットに埋もれてモゴモゴ言えば、少しの静寂が訪れた。
「弓家さん」
「…はい」
「察しろと言うなら、顔をあげてもらえませんか」
表情が見えないと分かりにくいんで、と柔らかい声が耳を撫でる。
「ちょっとそれはお恥ずかしく…」
「顔あげるのと、自分でちゃんと説明するの、えらぼっか」
少しだけイタズラ心の乗った声に、観念せざるを得なくなって。
ゆっくりと、ブランケットを持ったまま目だけ動かす。目の前で笑う彼と視線がバッチリ合って、一層恥ずかしくなって。
私の羞恥心に気づいているのかいないのか、ソファの背面に腕を引っ掛けて鷹揚にこちらを見る様は余裕に満ち溢れていてずるい。
「よくできました」
「もう察せました?」
「もうちょっと時間欲しいかな」
あっさりと拒否され、そのままの姿勢で豆さんは私のことをじっと眺める。観察されて、流石に沸騰しそう。
「ああ…」
観察が終わったらしい。何かを遠慮がちに言いかけ、ふと言葉を止める豆さん。何を言おうとしたのだろう。
「今日はここまでにしとこうか」
「え?」
「酔った弓家さんから回答を引き出してもちょっと違う気がして」
「…」
「酔ってない時に、答え合わせしよう」
穏やかに微笑んで、私の頬にそっと指を滑らせる彼はひどく妖艶で。沸騰した体温がなかなか下がらなくて茹ってしまいそうだ。
「はは、やっぱかわいいね弓家さん」
「…だから、全然可愛くなんか」