テラーノベル
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僕の世界は至って普通だった。
両親には一人っ子だからかなり愛情を注いで貰ったし、成績は中の上、運動神経も同じくらい。「良い子」を演じて先生にはよく褒められ、友達も少なくないし、人並みに告白された。趣味も許されて、やる事全て反対されることなくに穏便に過ごしていた。一つだけ違うとすれば僕は男だが男が好きだ。でもそんなのは誤差に過ぎなかった。カミングアウトしなければいいだけの話。
子供ながらに、平凡だがこの平凡さは壊しちゃいけないと思っていた。劣等感はないが、承認欲求も無い。陽と陰の狭間でどちらとも仲良くして、たまに委員会で人前に立つ程度の、普通の幸せというやつだ。いつも僕の世界は凪いでいた。高校では夢が固まり、将来像もあった。
これ以上、望むものなんてないと思っていたのに。
お前は、僕の世界の輪郭をぶっ壊した。手を差し伸べ、さあ平穏なんておさらばしようとでも言いたげにこちらを満面の笑みで見つめている。ずっと作り上げてきたものをかき乱された気分だった。呆然として何も言わない僕に嫌気が差したのか、ついにお前は鼻息荒く喋りだした。
「僕と、バンド組みませんか…!99%デビューして、大物になる予定なんで!あなた、ピアノ引けるんですよね!?」
だいぶ幼い顔立ちで、少し癖のある黒髪、僕より小さい身長。1人で作詞作曲していて歌も上手いと色々噂を聞いていたが、第一印象はなんだか小動物みたい。もし厳つい見た目でこう言われたなら、いつもの穏便センサーで断って事なきを得ていただろう。ところが僕の「良心」だか何だかが疼いた。まあこんなに熱心に誘ってくるわけだしお遊び程度なら付き合ってあげよう。嫌われないことも平穏さの大前提だし。そんな軽い感覚で手を取ったのを今でも覚えている。
もしあのとき握手しなければ。後悔に苛まれた。憎くて、煩わしくて、怒りから腹の底がふつふつと煮える感じになることもある。こんな劣等感も、消失感も、孤独もお前が居なければ知る事すら無かった。
そんな自分勝手で、全部きっかけのお前が大っ嫌いだ。
…でも同時に、あの高揚感、褒め言葉達、ファンの笑顔も知らなかった。努力してそれに伴って結果が付いてくる達成感も知った。一生の仲間も出来た。全部全部隣で僕に教えてくれた。平穏な世界の倍以上辛いけど、5倍10倍幸せだった。お前が舵取りをするバンドは常に遠く先まで見据えられていて、不安定に見えて土台や道はしっかり安定していることも後々気付いた。
ふと、お前は僕を見て笑っていた。お前は才能をたっぷり持っているからこだわり強く、厳しい言葉も沢山かけられるけど、その分上手くできたら沢山褒めて認めてくれた。僕が喜ぶと、まるで自分のことのように嬉しそうだった。
どくんっ、と。
鼓動が、変な動きをした。
大嫌いなのに、虫唾が走るし、殺意が芽生えた事もあるけど。
ある意味、今まで僕も僕を取り巻く周りも一線を引いてお互い無関心だったのに、こんなに僕に興味を持ってくれた人は初めてだ。人生で初めて心を開けたのかもしれない。
単純に、嬉しかった。
俺は君に恋をしたんだ。初恋だった。
◻︎◻︎◻︎
読んでくださりありがとうございます!
新連載です〜今回は短めの予定では、あります()ちょっとキャラ崩壊気味になるかもしれません。一応涼ちゃんの荒い口調注意の警告を出しておきます⚠️
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
コメント
4件
新連載、楽しみにしてます❣️ いつもと違う💛ちゃんにもワクワクです🫣✨
初コメ失礼します&新連載ありがとうございます😭 みたらしさんの作品を以前から拝読させていただいていたのですが、ミセスで1番好きな曲だったので嬉しすぎてコメントさせていただきました。もうプロローグからワクワクしちゃってます🤭本編も楽しみにしています!!