テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最後に、私はアレクへ視線を向けた。
「アレク、あなたは警備担当ね」
「……任せろ」
アレクは、いつもの黒い軍服姿のまま、教室入口付近に立っていた。
腕を組み、視線は鋭い。
ただ立っているだけで、周囲の空気が重くなる。
「不審者は、徹底的に排除する」
(もはやお客さんごと排除しそうな勢いなんだけど!)
その時、開店前に教室を覗きに来た女子生徒たちが、入口でぴたりと足を止めた。
「……あの、魔獣カフェ、本当に入っていいの?」
「ベルシュタイン公爵が怖すぎて……」
彼女たちは、入口の手前でそっと引き返していった。
私は、バインダーを握りしめる。
(だめだわ)
(警備力は最高。でも客足が死ぬ……!)
私は真剣な顔でアレクの前に立った。
「アレク」
「なんだ」
「あなたには、親しみやすさが必要よ」
「……なに?」
「具体的には――衣装変更ね」
私が背後に控えていた衣装係の生徒へ目配せすると、待ってましたとばかりに、黒い狼耳と尻尾のついた衣装が差し出された。
アレクの眉間に、深い皺が刻まれる。
「……この俺が? 獣の耳などつけるわけがな――」
「そう。残念だわ……」
私はわざと少しだけ目を伏せ、大きなため息をついた。
「あなたが警備してくれるのは心強いけれど、このままだとお客様が怖がって入れないのよ」
「……」
「アレクが協力してくれないなら、警備計画も客導線も組み直しね。私、とても困るわ……」
次の瞬間。
「着替えてくる」
即答だった。
(早っ!)
数分後。
黒いオオカミ公爵が、そこに立っていた。
黒い衣装に、もふもふの狼耳。
腰には黒い尻尾。
不機嫌そうな表情はそのままなのに、狼耳のせいで威圧感が少しだけ和らいでいる。
いや、和らいでいるというより――。
「……意外と似合うじゃない」
私がそう言った瞬間、アレクが完全に停止した。
「……そ、そうか」
顔を赤くし、俯いて答えた彼の狼耳が、ぴくりと動く。
衣装担当の生徒によると、感情に合わせて自動的に動く魔法演出らしい。
「へえ。耳、動くんだ」
教室前にいたレオンが、それを見て面白そうに笑った。
「黙れ」
アレクが睨む。
けれど、狼耳がまた、ぴくっと動いた。
(なにこれ。怖いのに、ちょっと可愛いわね)
試しに、私は先ほど引き返しかけた女子生徒たちへ声をかけた。
「どうかしら? 警備担当のオオカミ公爵よ」
女子生徒たちは、恐る恐るこちらを眺めている。
「……ちょっと怖いけど、耳が可愛い」
「映像魔石で、記念撮影させてもらってもいいのかしら……?」
(怖さを消すんじゃない。商品価値に変える。これぞブランディングよ!)
こうして、全員がそれぞれの持ち場についた。
(完璧だわ)
(これなら魔獣カフェは成功するはずよ)
そう思った、その時。
コットン・キャンディ・シープの一匹が、ふわふわの身体を揺らしながら、アレクの黒い尻尾へ近づいた。
「めぇ」
ぱくり。
羊が、アレクの尻尾に噛みついた。
「……」
アレクが固まり、レオンが吹き出す。
「……おい、これは衣装の一部だ」
「めぇ」
羊はまったく聞いていない。
魔獣カフェ、開店まであと5分である。