蓮が、死んだ。
結月が蓮を殺した。
なんで?
なんで蓮は死んだろう。
なんで、結月は蓮を殺したんだろう。
「悲しい?」
結月はいつものように無表情に戻っていた。そして僕の近くにしゃがみ込んだ。
「…」
「泣いたんだ。そんなにその友達の事気に入ってたの?」
「……」
「あれ、もしかして怒ってる?」
「…ね」
「ん?」
「…死ね」
「!」
分からなかった。自分が何を言っているのか。身体が勝手に動いていた。
「っ…あは。これは予想外だった」
「……」
銀色のナイフが、結月の腹部を突き刺した。
否。僕が刺したんだ。
「…僕を、殺してよ」
「じゃあ、どっちが先に死ぬか試してみる?」
結月は僕の首を両手で掴み、楽しそうにそう言った。
やはり結月は、死ぬことを何とも思っていない。
「……」
息ができない。それでも僕は手を離さなかった。
「っ…あはは」
意識が朦朧とし始め、もうほとんど力を感じなかった。
僕は、何をしているんだろう。
今更、考えた所でもう遅
ドンッ
「ゆき!!」
突然衝撃が走り、一瞬で結月の手が離れた。
この声は。
「っはぁ、っ、げほっ」
途端に喉に鋭い痛みが走り、僕は無我夢中で息をした。
「ゆき、大丈夫か?」
目の前に居たのは、京介だった。
「、きょ、すけ?」
何故京介がここにいるんだろう。
「、よかった」
京介は少しほっとした様な顔をし、僕を抱きしめた。
やっと僕は、我に返った。
「京介、蓮が…」
「……」
僕がそう言うと、京介は蓮を見た。だが、それだけだった。
「ゆき、」
京介は、僕だけを見ていた。
京介には蓮が見えていないかのようだった。
「大丈夫だ」
何で?
人が、死んでいるのに?
京介は蓮を見ても、特に何も思っていないようだった。
なんで、平気で居られるんだろう。
僕は、呆然とするしかなかった。
45話 「碧空」
ーーー
(京介)
「結月、お前なんで…」
こんな事をしているんだ、と結月を睨むと、
「それは、こっちのセリフだって。いいとこ、だったのに」
腹部を抑えながら俺を睨み返した。
「俺はお前を許さない」
「君の邪魔者、俺が消してやったのによく言う」
「っ、俺は頼んでなんかいない」
そう、頼んでなんかいない。
結月が勝手に言い出したんだ。
俺は、悪くない。はずだ。
「ハル、だっけ。君の為に全部壊してあげたのに、結局何もできてなかったじゃん」
「黙れ、」
思い出したくも無い、過去の記憶が鮮明に浮かぶ。
俺はただ、ゆきを守りかっただけなのに。
いつから、歪んでしまったんだろう。
「俺は…」
今も、ゆきに初めて会った日のことを鮮明に覚えている。
それは保育園の時だった。
砂場で、1人で遊んでいる女の子の後ろ姿。ちょうど暇だったので声をかけてみると、その子が振り向いた。
瞬間、可愛い、と思った。
綺麗な黒髪を2つに束ねていて、大きな瞳は蒼く透き通っていた。
初めて、碧眼を見た俺は、
「目、へんないろ」
そう言ってしまった。
するとその子は急にムスッとし、そっぽを向いてしまった。
「あ…ごめん!」
もしかしたら、あの時声をかける事がなければ、俺はこんなにも君を想う事はなかったのだろうか。
「ゆきちゃん、きょうすけくん、そろそろ中で遊ぼうね」
保育園の先生が笑顔でそう言った。
ゆきちゃん、ゆきという名前だとその時初めて知った。
「せんせぇ、こいつにへんっていわれたぁ」
「あら、ゆきちゃんお友達のことをこいつって言ったらだめよ。きょうすけくん、本当?」
「…」
それから、ゆきとは仲が良くなった。
「きょうすけくんのあほ」
「ゆきちゃんのばか」
先生が呼んでいたようにお互い呼び合うようになった。
一緒に遊ぶようになって、色々な事を知った。ゆきは、可愛いと先生達から人気だった。だが、男の子とは喧嘩ばかりしていた。それから俺はその喧嘩によく混ざるようになった。幼いなりにゆきを守ろうとしたんだろう。
それからある日事件が起きた。
「女の子はあっちねー、男の子はみほ先生の所に集まってね」
それを聞いた俺は
「じゃあねゆきちゃん」
とゆきと離れようとしたが、
「なんで?」
「え?」
「おんなのこはあっちってせんせいが」
「ゆきおんなのこじゃないもん」
「え?」
ゆきは、男の子だった。俺は今まで1番の衝撃受けた。
…そんなこんなで幼稚園に上がると、ゆきは長かった髪を短く切っていた。
その時、本当に男の子なんだと俺は知った。
ゆきとは、毎日一緒に遊んだ。小学校に上がると、放課後もずっと一緒だった。
毎日が楽しかった。ゆきといる時間が、俺の全てだった。
それなのに。
「ハル!」
ゆきが笑顔で名前を呼ぶ。
いつの間にか、そいつは俺とゆきに混ざるようになった。ゆきと話すのも、一緒に遊ぶのも全部俺だけの時間だったのに。
3人で並んで歩く帰り道。
「京介!また明日!」
「じゃあなー」
ゆきとハルは笑顔で俺に手を振る。
「ああ。また明日」
俺も笑顔で2人に手を振った。
ゆきとハルは、家が近い。だから、家に帰る時俺だけ違う方向なのだ。
並んで歩く2人は、楽しそうに話をしている。
ゆきの隣にいるのは俺だったはずなのに。
コメント
2件
京介くんの気持ち分かる 蓮くんが死んじゃったのが悔しいっす そして今回も最高でした
これが青春です 長くなっちゃいました… 暇なので更新が速まります