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ついに、この時を迎えてしまった。
“30歳”という壁を、乗り越えてしまった。
まだまだ先だと思ってた自分が馬鹿みたい。
…それにしても、一年って早いな。
この一年で、すとぷりは変わった。変わりすぎた。
人数のことはもちろんだけど、世間からの目だったり、とにかく全てが今まで通りではなくなった。
今まで通りにはいかなくなった、という方が正しいのかもしれない。
すとぷりが変わるということは、俺に対する目も変わるということ。
メンバーが欠けた分、俺に向く目も増えて、でも、すとぷりに対する期待とか、好きでいてくれる気持ちの大きさ自体は変わってなかったりして。
今まで通りの部分と、そうでない部分のギャップに苦しんだ。
いくら裏から支えてくれていても、表向きにはリーダーがいない状態となれば、自然と“年齢”で見られることになる。
どんな仕事も、必ず誰かのサポートが必要で、自分たちだけで何かを成し遂げるなんて、到底出来ない。
ライブ、冠番組、アルバムの制作…。
枠を超えて仕事をしていく中で、“年齢”を気にせず活動することは、正直無理だった。
“最年長だから”。
少しでも前に立って、他のメンバーを引っ張っていかなくちゃいけない。少しでも、大人な対応をとらなくちゃいけない。
そうやって、自分を追い詰めたりして。
少し、苦しかった。
気負う必要はないってわかってるからこそ、苦しかった。
だけど、あんなにいつも年上いじりしてくるメンバーは、誰一人、“最年長だから”なんて言わなかった。
まあ、普段もいじっているだけで、俺に本気で嫌がらせしたいわけじゃないのはわかってるけど、潜在意識として“年上”っていうのはあったと思う。
そんな中で、本当に困ったときには助け合って、年齢関係なく一緒に進んで来てくれたメンバーには、感謝しかない。
一年前のあの時、29歳なりたてでリーダーに頼り切ってた俺が、もう30歳。
ここまで来ると、“最年長だから”って言葉もなんとなくしっくり来てしまう自分もいる。
一年に一度、ピンク色で埋め尽くされるこの瞬間が嬉しくて、でも歳を重ねることが少し後ろめたく感じて、複雑な気持ちになったり。
それでもやっぱり嬉しいな…と考えていると、黄から一件、LINEが来ていることに気づく。
なんだろ…。
そう思いつつLINEを開いた。
黄 『桃くん!お誕生日おめでとうございます。今日、12時に僕の家に来てください。』
桃 『黄の家…?』
カレンダーでスケジュールを確認すると、確かにその時間だけが不自然に空いていた。
もう一度スマホに視線を落とす。
絵文字もないし、素っ気ないのに温かさを感じる黄のその文に、「了解」と一言返して、その時を待つことにした。
桃 『…はぁ、はぁ』
なぜこんなことに。
誕生日くらいゆっくり歩かせてくれ。
黄の家は少し俺の家からは遠いので、11時くらいに出れば良いだろう、と思い、のんびりしていたら、気づいた頃には11時半。
ということで、現在小走りで黄の家に向かっている。
桃 『くそ…』
少し走っただけでこれとは…。
体力が落ちていることを身に染みて感じる。
…まあ、そんな大事なやつじゃないと思うし、走らなくても良いか。それに誕生日だし。
そんな気持ちになってきて、途中からはゆっくり歩いて行くことにした。
黄 『…遅いですね』
現在、12時10分。
まだ今日の主役は来ていない。
青 『ねえ、桃くんまだ〜?』
黄 『知りません!僕はちゃんと12時って言いました!』
赤 『寝坊なんてことある〜?さっきまで起きてたのに』
黄 『せっかく橙くんも来てくれてるのに』
僕はこの日のために、大阪にいた橙くんが来れるように日程を調整してきた。
それなのに…
紫 『まあ、桃くんらしいんじゃない?笑』
怒っているのを感じ取ったのか、紫ーくんに諭される。ちなみに、紫ーくんにも無理を言ってこの時間を空けてもらった。
橙 『別に俺は何時でも大丈夫やし気にせんといて』
黄 『はあ…』
橙くんの優しさに甘えてはいけない。
全く、何をやってるんだ。あの三十路は。
少し空気が悪くなりつつあった頃、インターホンが鳴った。
桃 『疲れた…』
ゆっくり歩いてきたとはいえ、やはり歩くのには体力がいる。
俺はやっとの思いでインターホンを押した。
桃 『来たよ〜』
黄 『…入ってください』
桃 『お、おう…』
少し怒った口調の黄に圧倒されつつ、言われた通りドアを開けた。
桃 『…失礼しま〜す』
靴はたくさんあるのに、物音がしない。
なんだ…?
不思議に思いながらも、リビングに足を踏み込んだ、その瞬間。
全 『桃くん、お誕生日、おめでと〜!』
という言葉と共に、クラッカーが弾ける音が部屋中に響き渡った。
桃 『うわっ!何!?』
状況が理解できない俺。
笑顔の…5人。
え…?5人…?
青 『ちょっと来るの遅いよ〜』
赤 『寝てたんか?』
黄 『ほんっとにありえないです!30分も遅刻だなんて!ちゃんと12時って伝えたのに…』
そんなメンバーの声を無視して、俺は彼らの元にまっすぐ向かった。
桃 『紫ーくんに…橙…!』
橙 『桃ちゃんおめでと〜!』
桃 『おめでとうじゃなくて…』
橙 『いやいや、「おめでとう」やんなあ』
紫 『うん!おめでと〜!』
桃 『いやっ…紫ーくんはまだしも…橙はなんで…』
橙 『桃ちゃんの誕生日やから来ちゃった』
桃 『来ちゃった…?』
黄 『ふふ笑』
桃 『紫ーくんだって…この前会ったときにお仕事だよって…』
紫 『あーあれ?これのことだよ』
桃 『え…?』
赤 『困惑してるw』
黄 『桃くんのために、みんな予定を合わせてくれたんですよ』
黄 『それなのに遅刻なん…』
赤 『まあまあまあ!落ち着いて黄ちゃん!』
青 『よっ!今日の主役!』
橙 『今じゃないやろw』
桃 『…ありがとう』
感動と申し訳ない気持ちが同時に込み上げてきたせいか、少し震えた声で言うと、黄は慌てたように「す、すみません!そんなに怒ってないですからっ!」と言いながらこちらに寄ってきた。
黄 『改めて、おめでとうございます』
黄 『僕にとってはお兄ちゃんのような存在で、本当にいつも頼りにしてます』
黄 『何歳になっても、お兄ちゃんでいてほしいなって思います』
黄 『いつもありがとう』
桃 『黄…ポロ』
青 『あ!泣いてる〜!』
桃 『うるせえ!wポロ』
赤 『桃くん、お誕生日おめでとう!』
赤 『メンバーとしても、良き友達としても、これからも仲良くしてね』
赤 『年齢関係なく、支え合おう』
赤 『絶対だよ!』
桃 『うん…!ポロ』
青 『42歳おめでと〜!w』
桃 『42っていうのやめろw』
青 『くふ笑』
青 『年齢とか気にしていつも頑張ってくれてるなって思ってて、だけど一人で頑張りすぎてはほしくないから、頼りないかもしれないけどたくさん頼ってほしい』
青 『一緒に頑張ろ!』
桃 『青…ありがとな』
橙 『桃ちゃん』
橙 『お誕生日、おめでとう』
橙 『この一年で、すごく迷惑かけてしまってごめんな』
桃 『迷惑じゃないよ』
橙 『たった数年の差なのか、その差は大きいのかわからないけど、桃ちゃんはいつも大人になって前に立って頑張ってくれて』
橙 『そういう前に立つのとか、ほんまは嫌なんやろなって思いながらも頼ってしまってたなって思う』
橙 『本当にありがとう』
橙 『…桃ちゃんにはありがとうしか出て来ないな…』
橙 『30歳っていう節目を祝わせてくれてありがとう』
橙 『体力的にも色々きつい部分とか出てくると思うけど、ストイックに頑張る桃ちゃんを応援してるから』
橙 『頑張ってな』
橙 『本当におめでとう!』
桃 『橙…ポロポロ』
桃 『ありがとう!ポロ』
反射的に橙に抱きつくと、橙は少し驚いた表情をして、「こちらこそ」と優しい口調で言った。
橙の声だけで泣ける自分は涙腺が弱っているのだろうか。
橙 『なんで泣いてんのw』
橙 『せっかくの誕生日なんやから笑ってや』
桃 『…うん!ニコ』
一言で笑顔になれるのも、橙のすごいところなんだよな…。
青 『社長!出番ですよ!』
紫 『社長呼びやめて笑』
桃 『ふはw』
紫 『桃くん』
紫 『お誕生日、おめでとう!』
桃 『ありがとう…!』
紫 『30歳の桃くんを見る時が来るなんてね…』
紫 『結成した時は考えもしなかったな』
桃 『…そうだね』
紫 『もう30いじりが通用しないじゃん笑』
桃 『本気で30だからなw』
桃 『去年が一番いじられたな笑』
紫 『一年前…か』
桃 『……』
紫 『…たくさん迷惑かけて本当にごめん』
紫 『俺のせいで、年齢を気にすることが増えちゃったと思う』
紫 『もちろん、その前から気にしてはいたと思うんだけど、さらに余計な負担をかけちゃって…本当にごめん』
桃 『……』
紫 『俺が言うのもおかしいけど、あの時、一番冷静に、大人な対応をとってくれて本当にありがとう』
紫 『でもきっと、桃くんはずっとそうやって対応してきてくれてたんだと思う』
紫 『俺が気づけてなかっただけ…』
桃 『紫ーくんは紫ーくんで頑張ってるんだから、それで良いんだよ』
紫 『…ありがとう』
紫 『30歳の桃くんを、裏からたくさん支えたい』
紫 『輝けるようにお手伝いさせてもらっても良いかな』
桃 『もちろん…!いつもありがとう』
紫 『こちらこそありがとう』
紫 『これからもよろしくね』
桃 『うん!』
青 『感動的…』
黄 『静かにしてください!』
青 『すみません』
桃 『ふはww』
黄 『僕はとっても偉いので、桃くんにケーキを買ってきました』
桃 『マジで!?やった〜!』
橙 『俺も食べてええの?』
黄 『もちろんですよ!橙くんにはたくさん食べてほしいですから!』
桃 『なんでだよw俺だろw』
橙 『ははw』
こうして笑顔でいられることの幸せを噛み締めながら、俺は甘いケーキを一口頬張った。
…ありがとう。これからもよろしくね。
______明日に向かって「ヨーイドン」。