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一応のわんく
z「えみさ〜ん、飯行こうや〜」
いつもの聞き慣れた声が、私を呼び留める。ギザギザとした歯を剥き出しにして、優しくも元気の良さそうな笑顔をこちらに向ける。
e「良いですね、外で食べます?」
z「いや、今日は食堂でええわ〜」
そんな会話をしながら、組織内にある食堂へと足を進めた。そして各々好きな定食を頼み、席へついた。元気よく食らいつく彼の横姿を見て、思わず私は笑みを溢した。
z「うまぁ〜、今日は当たりやな!」
e「ふふ、それは良かったですね」
軽い雑談を交わしながら、食事を終える。今日は珍しく午後の仕事はないようで、皆各自好きなことをし始める。そんな中、私は喫煙所へ足を運んだ。
e「ふー…、」
電子タバコを手に持ち、灰色の煙を口から吐き出す。すると喫煙部屋の扉が数回程ノックされた直後に、扉がゆっくりと開いた。するとそこには、鼻を押さえたゾムさんの姿が見えた。
z「お、やっぱここに居った。」
e「あれ…ゾムさん?どうしました?」
z「いや〜、エミさんこの後暇やったらゲームせぇへん?」
そんな誘いを私に振って、優しく微笑み掛ける彼。私は彼からの誘いに乗って、彼に先に準備をしておくように伝えた。すると彼はそれに従い、喫煙所から姿を消した。
e「…。」
…今日、彼の部屋にチョコレートを持っていこう、手ブラで向かうのは少し申し訳ない。 そう思いながら、私は自室に一旦戻って紅茶の茶葉と一口サイズのチョコをいくつか持って彼の部屋へと急いだ。
e「ゾムさ〜ん、入りますよ〜」
z「あーい、鍵開いてんで〜。」
扉をノックして、部屋にいる彼に声を掛ける。すると部屋の奥から彼の声が聞こえた、そんな言葉を耳にしてから私は扉を開けて彼の部屋へ入る。
z「エミさんこっち〜、」
e「は〜い、」
私に向かって手招きする彼に相槌を打ち、私はソファに座る彼の隣に腰掛けた。そして私達の前にある机にチョコを並べる、そして茶葉の入った小さめの箱を端に置く。すると直様彼が口を開いた。
z「ん、エミさんお菓子持ってきてくれたん?」
e「えぇ、小腹が空いた用に。」
z「わざわざありがとうな〜、一個食うてええ?」
私はどうぞ、と合図するかのように微笑んだ。すると彼は銀紙に包まれたチョコを手に取り、それを開封して口に含んだ。すると彼はニンマリ笑って、呟くようにして言う。
z「あんま〜…、、俺こーゆーん好きやから助かるわぁ…」
e「…そうですか、それは良かったです。」
z「ん…、じゃあゲームしようや。これエミさんのな」
そう言って、彼はゲーム機を私に差し出した。私はそれをただ見詰めるだけで、特に行動を起こそうとはしなかった。そんな私のことを不思議に思ったのか、ゾムさんは私に尋ねる。
z「えみさん?ゲーム…しやんの?それともちゃうゲームの方がええ?」
e「…ゾムさん、前の休み…どこに行ったんでしたっけ。」
z「え?」
彼の質問を遮るかのように、私は彼に質問を投げ掛けた。彼は少し動揺しながらも、私の質問に答えてくれた。
z「前の休み?…んと、ショッピと飯行っただけやけど…。」
e「…、」
そんな彼の言葉に、私は何も反応しなかった。そして少し彼との距離を離しながら、ゆっくりと彼の方に視線を向けた。目を見開かせ、私を不思議そうに見詰める彼と目が合う。
z「…え、エミさん?そんなことよりも、げーむ」
e「つかぬことをお伺いしますが、」
e「どちら様でしょうか。」
z「…え、」
彼の言葉を遮って、私は先程の崩した口調とは一変した口調で発した。そんな私の発言に、彼は困惑しながらも私に話しかけ続ける。
z「な、何言うとん?俺やで?ゾム、エミさん遂に可笑しなってもうたん?」
e「…、」
z「な、なぁ?エミさん?やから、俺やってば」
e「やめて下さい」
そう言って、私の肩に置こうとする彼の手を振り払った。すると彼はその場で硬直し、少しの間が置かれる。そんな微妙な静寂の中、私は口を開いた。
e「あなたは、ホンマのゾムさんじゃない。」
z「っな、なんでそんなコト言うん…。なぁ…えみさ」
e「ゾムさんはそんなに感情を表に出しません。それにゾムさんは私の事を “お前” や “エーミール” 等で呼ぶ時もあります。何度も”エミさん”と声掛けることはあまりありません。」
z「っな、は…、、」
目に薄っすらと膜を張る彼に、私の心が少し痛むのを感じた。だが私はそんな自分を抑えつけて、彼に話し続ける。
e「ゾムさんは私以外の二人で食事に行くことはあまりないです、だって沈黙が苦手で場の空気に繊細な人だから。」
z「…っ、」
e「…それと、ゾムさんはチョコレートが苦手です。口にすることはあっても、”美味しい” だなんて言うことはない。」
そんな私の発言に、目の前に居る彼は目を見開いた。そして、また二人の間に短い沈黙が走った。彼の綺麗に光る緑色の瞳が、やけに冷めて見えた。釣り上がった目尻に、鋭い目線。緊迫した空気が流れ続ける中、彼は口を開いた。
z「ホンマ、何でこういう時だけ勘ええねん。クソが」
そんな彼の言葉の直後、私の視点は天を向いた。…いや、向かせられたが正しいのかもしれない。
続く。