次の朝は、宿屋の食堂で待ち合わせ。
今日も空は晴れ渡っており、食堂までの廊下も歩いていて気持ちが良かった。
「おはよー」
「「おはようございます」」
「おはよー♪」
「あ、ジェラードさんも」
すでにルークとエミリアさんは席に着いており、上機嫌なジェラードも一緒に座っていた。
「たまにはご一緒させてくれるかな。報告もあるからさ」
「どうぞどうぞ。報告がなくてもご一緒しましょう」
「あはは、ありがとね♪」
そんなわけで、今朝はジェラードを含めた四人で朝食をとることになった。
やっぱり仲間が揃うと賑やかで良いね。
五番目の仲間であるアドルフさんには申し訳ないけど。
「――それで、ミスリルの件はどんな感じですか?」
「うん。ターゲットのアーチボルドさんに、1日限定の育毛剤を昨日渡してきたよ。
今日の早朝に様子を見てきたけど、あれはもう驚きの効果だったね!」
「え? 会ってきたんですか?」
「いや、忍び込んでこっそり様子を見てきた♪」
「「「さすがです」」」
「ふふふ、何てことは無いさ。
それでね、アーチボルドさんはめちゃくちゃ喜んでいたよ。
廊下で踊っていたくらいでさ、メイドさんたちも驚いていたね」
「そ、そんなに生えてましたか?」
「そりゃもう、ふっさふっさふっさふっさだったよ!」
ふっさふっさふっさふっさ……。
ちょっとふさふさしすぎじゃない? どれだけなんだろう……。
「でも、それも1日限定なんですよね……。
どう終わるのかは、私も分からないんですけど」
「僕のイメージでは、朝起きたら全部ごっそり抜けてる感じなんだけど……そこも見てくることにするよ。
それで絶望しているときに、本命の育毛剤とミスリルの交渉をしようかと思うんだ」
「なるほど、絶望の中で希望を見せるわけですね。
……ちなみに1日限定のもう1本はどうしたんですか?」
「そっちはね、ハゲ仲間の違う人にあげたよ。
アーチボルドさんと今日会ってもらう流れにしているんだ」
「お互い髪が生えたことを自慢しようと思って会うのに、お互いふっさふっさふっさふっさ……と」
「そうそう。それで、自慢した次の日には元に戻っちゃうからね。
ライバルに見せちゃったからには、これはもう高くてもまた買わざるを得ないはずさ」
「そ、そうですね……。
でもそうすると、ハゲ仲間さんにもちゃんとした育毛剤を売れたり出来ますかね?」
「うん、売れはすると思うよ。
ふふふ、アイナちゃんも|強《したた》かになってきたかな?」
「いえ、何かその人だけ良いところが無いかな……って。
ちょっと可哀そうだなぁ、と……」
「なるほど。でもこっちの人は、あまりお金を持っていないんだよね。
小さい宗教を開いた人なんだけど、どうにもお金の方は疎いみたいで」
「へぇ、教祖様なんですか。
この街って色々な宗教がありますけど、怪しげなところですか?」
「いや、真面目な宗教みたいだよ。
慈善事業を手広くやっているようだし、みんな人が良いというか、無欲でね」
「あるのは教祖様の髪の欲だけ……と」
「確かに。そこだけは悟れていないみたいだ」
「信仰をも上回る髪への執念……恐ろしいことです」
ルークがぼそっとつぶやいた。
それにしても、何があったのかね、君は。
「悪い人じゃないなら、全部が上手くいったあとに何かしてあげても良いかも?
……でもまぁ、それはあとにしますか」
「そうだね、まずは本題をクリアしないと。
ところでアイナちゃんは、アーチボルドさんとコネを作っておきたい? それなら引き合わせておくけど」
「いやー、ミスリルを頂いちゃうわけですからね。
全部もらえるならコネは要らないです。あまりもらえなかったらコネを作って、ゆくゆくは出来るだけ頂戴したい……といった感じでしょうか」
「分かった。それじゃアーチボルドさんから、ミスリルを1回もらうところまでは進めちゃうね。
交渉は髪が戻る明日にするから、また明日の夜にでも報告にくるよ」
「はい、よろしくお願いします。
……あ、そうだ。ジェラードさんにお渡ししたいものがあるんですけど」
「え? もしかして、アイナちゃんからのプレゼントかな?」
「はい、そんな感じです」
「えぇっ!? 本当に!?」
ジェラードは予想外、といった感じで驚いた。……自分から言ったくせに!
そんなことを思いながら、昨晩作ったジェラード用のブレスレットをアイテムボックスから取り出す。
「はい、これです。
アーティファクト錬金で、効果も付けたんですよ」
「それはありがたいな。うん、デザインも良いし!
ちなみにどんなステータスを付けてくれたの?」
「是非、見てください! かんてーっ」
私は鑑定ウィンドウを出して、ジェラードに見せたあげた。
──────────────────
【ブレスレット(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:風刃
※追加効果:素早さが1%増加する
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「――えぇ……っ!?
こ、こんなすごいものをくれるの!?」
「え? すごいんですか?」
「え!?
……そっか、アイナちゃんだもんね」
「「まぁたしかに」」
ジェラードの呟きに、ルークとエミリアさんがとりあえず頷く。
いや、二人とも、本当にとりあえずだったよね!?
「アーティファクトの錬金では、ステータス以外のものが付く場合はあるんだけど……。
僕の記憶が確かなら、1万個に1個くらいの割合……なんだよね」
「あ、そうなんですか……。私はえぇっと、トータルで見れば1割くらいだったかな……?
そのブレスレットを含めて、効果付きのものは6個作りましたし」
「なんということだ……」
「……運が良かった、のかもしれませんね、はい。
あ、風刃の効果がちょっと気になるので、使ってみたらどんな感じだったか教えて頂けますか?」
「うん、分かった。
ちなみにさ、他の効果はどんなものなの?」
「それでは全部、お見せしましょう。
あ、その前にルークにもプレゼントね」
そう言いながら、ルークにもネックレスを渡す。
「――はい、この前選んでもらったやつだよ。
しっかり効果も付けておいたから!」
「おお、ありがとうございます。一生、大切にします!」
「そうしてくれると嬉しいな♪
それじゃ、ジェラードさんのやつ以外を全部鑑定しますね」
えい、かんてーっ
──────────────────
【リング(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:風魔法『クローズ・スタン』使用可
※追加効果:ダメージを1%増加する
──────────────────
【ブレスレット(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:光魔法『バニッシュ・フェイト』使用可
※追加効果:魔力が1%増加する
──────────────────
【イヤリング(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:エコー
※追加効果:精神力が1%増加する
──────────────────
【ネックレス(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:属性統合
※追加効果:ダメージを1%軽減する
──────────────────
【ドクロのネックレス(S+級)】
闇の力を秘めた装身具
※錬金効果:カースLv1
※追加効果:魔力が1.0%増加する
──────────────────
「――はい!
あ、ドクロのネックレスは、預かり物なので返しちゃいますけど」
「……うわぁ、何だこれ……。
アイナちゃん、こんなに付けるのにどれくらい時間が掛かったの……?」
「全部メルタテオスで付けましたよ。それなりにハマったりしましたけど」
「でも、成功率が1割くらいなんだよね……?
普通ならひとつ付与するのにも、半日掛かるって聞いたことがあるけど……。
……それに、個人で持てるレベルじゃないくらいの良い効果だし」
「そ、そうなんですか?」
「バニッシュ・フェイトとエコー、属性統合なんかは国にひとつでもあればすごいレベルだからね?
僕がもらった風刃は初耳だから、ちょっと価値は分からないけど……」
「あれ、属性統合もすごいんですか?」
「これは魔法剣士の憧れさ。
でも、ルーク君は純粋な剣使いだから、使いこなせないと思うよ」
「あ、やっぱり魔法剣用ですよね……」
「それならば努力するのみです。
魔法剣とやらも学んでみせましょう」
力を込めて、ルークが決意した。
でもこれ、属性ひとつじゃ使えないんだよね? 複数属性に対する効果なわけだし。
……いや、本気で学べば無理なんてことも無いのかな。
「うん、ルークも魔法の勉強をする予定だったから、それならちょうど良いかもね。
土属性だけの予定だったけど」
「……それにしてもアイナちゃん。
さすがにこんなものを持ち歩くのは危険だからさ、情報操作の魔法を掛けておいた方が良いよ」
「情報操作、ですか?」
「うん。ほら、前に見せた……僕が騙されて飲んでいた右腕の薬にさ、情報操作の魔法が掛けられていたでしょ?
ミラエルツで鑑定してもらったやつ」
「ああ、ありましたね、鑑定結果をミスリードする魔法……。
……なるほど、確かに鑑定されると希少なものって分かっちゃいますからね」
「しかもこれだけ希少なものなら、信用できる人にお願いしないといけないかな。
下手すると、そこからバレちゃうわけだし」
「なるほど……。
うーん、それにしてもそんな人、どうやって探せば良いんだろう……」
「すぐ見つかるかは分からないけど、僕の方でも探してみるよ。
でも、アイナちゃんの方でも暇があったら探してみてくれる?」
「分かりました、そうします」
「うん、よろしく。
……さて、それじゃ僕はそろそろ寝ることにするね」
「早朝はアーチボルドさんのところに行ってましたもんね。
ゆっくり休んでください!」
「「おやすみなさい」」
「うん、また明日ね♪ おやすみー」
そう言うと、ジェラードは食堂から去っていった。
「さて、私たちも魔法のお店に――
……向かうには、まだ早いか」
「そうですね、まだ開いてませんよ!」
「それじゃ、ルークにアーティファクト錬金の苦労話でもしようかな?」
「え? 何かあったんですか?」
「主には、ジェラードさんのブレスレットでハマった愚痴」
「本当になかなか付きませんでしたからね……。
いや、ジェラードさんの話によれば、あれでもすんなりいったレベルのようですけど」
「ははは。分かりました、とことん伺いましょう!」
……このあと、なかなか良い効果が付かない愚痴を、たっぷりと聞かせてあげた。
愚痴は適度にこぼすのが良いよね。こぼしすぎは、ダメだけど。