「おはようございまーす!」
 「ひぇっひぇっひぇっ……。いらっしゃいませ……。
おっと、お前さんたちかい。朝早くからご苦労様だねぇ……」
 お昼前、私たちは魔法のお店を訪れた。
お店の中にいたのは、例の個性的な店員のお婆さんだけだ。
 「――今日は確かに約束をした日だけど……こんな朝っぱらからどうしたんだい?
まぁ、音を上げたとしてもアタシは責めたりしないから安心しなねぇ……」
 「あ、いえ。完成したのでお渡ししようと思いまして」
 「ひぇっ!? も、もうできたのかい?」
 「はい、どうぞ!」
 私はドクロのネックレスをアイテムボックスから取り出して、お婆さんに渡した。
 「ふむ、確かに預けていたネックレスだねぇ……」
 「はい。鑑定もしましょうか?」
 「なんのなんの、アタシだって鑑定くらいはできるのさ。
それじゃ、鑑定させて頂こうかねぇ……」
 そう言うと、お婆さんは何やら呪文を唱え始めた。
 ……あれ?
 「エミリアさん、鑑定スキルって呪文が要るものだったんですか?」
 「えっと、あれは鑑定スキルではなくて鑑定魔法ですね。
アイナさんのは鑑定スキルなので、呪文は要らないんです」
 「ふーん?」
 なるほど。同じ結果を求めるにしても、やり方って色々とあるんだね。
でもまぁ、結果が同じならどっちでも――
 「キェェーイッ!!」
 ……あ、鑑定魔法ってあの掛け声が要るの?
鑑定スキルで良かった……。
 「ふぅ、どんなもんだい……。
折角だし、みんなに見えるようにウィンドウに出してあげたよ……」
 お婆さんが指し示す場所には、ウィンドウが出ていた。
私のものと、特に違いは無いようだ。
 「ありがとうございます」
 私たちはもう見てきたけどね。
でもそうは言えない雰囲気だし、一緒に見ることにしよう。
 「ふぅむ、どれどれ……?」
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【ドクロのネックレス(S+級)】
闇の力を秘めた装身具
※錬金効果:カースLv1
※追加効果:魔力が1.0%増加する
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 うん、私たちが見てきた結果と同じだね。
 「――ひぇ……?」
 「いかがでしょう?
錬金効果が物足りないかもしれませんが、せっかく付いたので持ってきました」
 「ままま? えぇ……? これ、お前さんが……?」
 「はい、昨晩やってみました」
 「ま、まさかそんな短時間で……効果付きを……?
それに、何だかS+級だし……ねぇ?」
 あ、そうか。普通はそこからが驚くポイントだったね。
私たちは正直、S+級に慣れ過ぎてしまっているのかもしれない。
 「いやぁ、昨日は調子が良くて!」
 あまり誤魔化すつもりもないけど、一応こういうことも言っておこう。
何があるか分からないし、予防線、予防線っと。
 「調子って……。いや、それにしてもこれは凄い……。
うん、さすがは姉さんが認めただけはあるねぇ……。アタシもサービスさせてもらうとしようかねぇ……」
 「それじゃ、売って頂けるんですか?」
 「もちろんさ……。
さて、『光の魔導石』は全部で32個あるんだけどねぇ……本当に、全部必要かい?」
 「はい、値段次第ですが全部欲しいです!」
 「それじゃ、ひとつ金貨20枚として金貨640枚……。
まとめてだったら大サービスで金貨620枚で良いけど……どうするね?」
 「むぅ、なかなか高いですね」
 ……思ったよりも、高かった。
さすがにこれだけ高いのだから、鑑定くらいはしておこうかな。はい、かんてーっ!
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【光の魔導石】
光の力を秘めた結晶体。高度な魔法や製造で使用する
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 かーらーのー 再かんてーっ!
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【光の魔導石】
光の力を秘めた結晶体。高度な魔法や製造で使用する。
金貨25枚くらいの価値がある
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 お気付きだろうか。
実は鑑定スキルは大体の相場も知ることができるのだ!
 ……クレントスでスキルをいろいろ試していたときに見つけた小技なんだけどね。
時価のものは調べられないけど、ある程度相場があるものは大体で把握できる優れものだ。
 さて、相場は大体金貨25枚くらいらしい。
それなら、金貨20枚はお安い方だよね。
 「――というわけで、全部ください」
 「ひぇっ!? ど、どういうわけだい……!?」
「うおぉ、アイナさん、いっちゃいましたね!」
「怯みませんね。いや実に凄い迫力です……」
 ふふふ、お金はあるのだー!
 ……でも、そろそろセーブしないといけないような気はする。
うん、明日から気を付けよう。
 「それじゃ、お支払いをしても大丈夫ですか?
量が多いですけど、ここで出しちゃっても良いです?」
 「ああ、そうだねぇ……。ちょっと一時閉店してこようかねぇ……?」
 そう言うとお婆さんは、入口の鍵を閉めてからゆっくりと戻って来た。
 「……はぁ、それにしても思い切りの良いお嬢さんだねぇ……。
何だか凄いものを作ってくるし……どういった御人なんだい?」
 「あはは、ただの旅の錬金術師ですよ」
 「ただの……ねぇ?
お前さんたちは旅の途中なんだろう? どこに向かっているんだい?」
 「はい、今は王都に向かっています。
もう何日かすれば、メルタテオスは発ってしまうと思いますけど」
 「ふぅむ、そうなのかい。王都は物も人も集まる場所だからねぇ……。
お前さんたちはそこで何をするのやら……」
 「私は錬金術の情報収集ですね」
 「私はアイナ様の護衛です」
 「わたしは王都の聖堂に仕えてますので、戻ってるところですー」
 「なるほど?
そうかいそうかい、護衛を付けるほどの御人なんだねぇ……」
 まぁ、ルークは勝手に付いてきちゃっただけなんだけど、今となってはありがたい存在だよね。
 「あはは、それほどのものでも」
 「ひぇっひぇっひぇっ。凄い人はみんなそう言うのさ……。
……そうだ、これも何かの縁だからねぇ。私の秘蔵の本をあげようじゃないか……」
 「え? 良いんですか?」
 「ああ、良いとも。その本を手に入れてから、どうにも身体の調子が悪くてねぇ……。
どうか、もらっていっておくれ……」
 「いやいや!? それって呪いの本とかじゃないですか!?」
 「まぁまぁ……。
古いものだし、価値はあると思うんだけどねぇ……、多分」
 「多分! 今、多分って言いましたね!?」
 私がツッコミを入れている間に、お婆さんはお店の奥に行って、分厚い本を持ってきた。
 「これなんだけどねぇ……。私の鑑定魔法も効かないんだよ……。
知り合いにも頼んでみたけど、誰も上手くいかなくてねぇ……」
 「はぁ……。
でも、私ももらっても困りますし――」
 「それならさっきの代金、金貨2枚まけてあげるねぇ……はいよ」
 お婆さんはそう言いながら、金貨2枚と分厚い本を渡してくれた。
 「それじゃ、毎度あり!!」
 「ちょちょちょ――!?」
 心なしか元気になったお婆さんに促され、私たちはお店の外に出された。
そう、まるで追い出されるかのように……。
 
 「む、むぅ? 本を押し付けられたよ……!?」
 「アイナ様、大丈夫ですか?
まさか力技で追い出されるとは……」
 「お元気なお婆さんだったんですね……。ところでその本、どういったものなんでしょうか。
アイナさんなら鑑定できそうですし、ちょっと見てみませんか?」
 「そうですね。まぁ呪いとはいっても、アイテムボックスにしまっておけば問題ありませんから。
それじゃ早速、かんてーっ」
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【神魔の書・漆】
第七神が創造した魔法を記した書。
魔法暗号文字によって記され、誰も読むことができない
※付与効果:情報操作Lv98
※付与効果:呪いLv10
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 「――うわぁ? なにこれ……」
「え? 第七神……? 七……?」
「魔法……暗号……? すいません、私にはさっぱりです……」
 よく分からないけど、凄そうな本を手に入れてしまった!
 パラパラと中身を見ても文字からして初めて見るものだった。
理解できない分、どこか恐ろしさがあるというか……。
 ……うん、とりあえずこれはアイテムボックスに投げ入れておこう。
読めないんじゃ、どうしようもないし……。
 まぁ、金貨2枚分だけ得したと思っておこうかな。
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