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俺は「ノア」と呼ばれている。

レオンとは、幼い頃にとあるお茶会で知り合い、学園時代はずっと一緒だったから、レオンのことはよく知っているつもりだ。

昨夕の騎士団の仕事が終わって夕食までの時間のことだ。

俺は寮の裏でこっそり餌をやっている猫の世話をしてから食堂に行ったら、レオンはまだ来ていなかった。

いつもならこの時間は図書室に行くことの多いレオンが珍しく、部屋のベットで寝ていた。

起こすと、どうやら寝ぼけているのか「俺はこれからしばらく変だけど気にしないでくれ」と真剣に話す親友に少しだけ違和感を覚えるが、それほど気に留めなかった。

でも、これが最初の違和感だった。

俺が夕食に手をつけようとしたときは、「お祈りをしなくてはならない」という。

まだ、寝ぼけているのか?

そう思って、さほど気にしなかったのだが…


食事がはじまるとレオンは生野菜が嫌いで口にすることはあまりなかったのに、もりもりと生野菜を食べる。しかも微笑みながら!

トマトを食べているときなんて、美味しそうに涙をうっすら浮かべながら食べている。

今日の俺の目はだいぶ調子が悪いらしい。生野菜を食べるレオンという幻が見える。


そのあとも、恥ずかしそうに風呂に入るレオン。やたらと人を観察しているのが目につく。レオンって、そんなに男の裸に興味あったのか?

おまけに本人は他人にはバレていないと思っているのだろうけど、脱衣場や風呂で小さな悲鳴を上げている。一体、なにを見たらそんな「ヒッィ」とか「ギャッ」とか小さな悲鳴というか、驚きの声をあげられるんだ?レオンの目にはなにが映っているんだ?

寝るまで調子の悪そうなレオンに俺はますます違和感しかない。


翌朝も夜が明ける前に起きだしたレオン。今まで、こんな時間に起きることはなかったよな。

なにをするのかと寝たふりをしながらレオンを見ていたが、机の引き出しを開けてなにかをしきりに探している。

そして、窓の外を見て落ち着いたのか、指を摩りながら再び机で二度寝をしだした。

正直、レオンが薄気味悪い。


気持ちよさそうに机に突っ伏して寝るレオンが先ほどまで指を気にしていたので、なにがあるのかと何度も摩っていた指先を見ると、左手の人差し指に銀の指輪が嵌められていた。

婚約者との指輪か?恋人同士なら右手の薬指だろ?そこに嵌めるのか?

浮気を疑われ、喧嘩をしたと漏らしていたのは先日の話だ。もう、仲直りしたのか?仲直りをして、その指輪なのか?

いつもなら、優しそうな瞳で照れながらも俺に報告してくるが、今回はまだ報告を聞いてない。


明らかにレオンの様子がおかしい。

脳裏に昨夕のレオンの言葉「俺はこれからしばらく変だけど気にしないでくれ」が思い出された。


それからは、俺はレオンを監視することにした。

見ていれば見ているほど、疑念を抱く。

こいつはレオンなのか?


普段の仕事ぶりは丁寧で速いが、ひとつひとつの嘆願書には気持ちは入れず、必要なことだけを見極めて淡々とこなしていくのにだ。

それが、たっぷりと嘆願書に気持ちが入り「祈る」のだ。しかも息をするように自然に。

これはレオンではない。

そう確信したのが、酒場での飲み物の注文だった。

明らかに酒の注文にレオンは戸惑っていた。どうも何を注文すればいいのかわからないようだ。

レオンはビールを普段から苦いと言って滅多に飲まないことを知っている。

悪いが俺はレオンに鎌をかけビールを勧めたところ、あっさりとビールを注文した。

明らかにおかしい。

その後もずっと、出てくる料理ひとつひとつに感動している。誰も気に留めることもなく、今日のレオンは可愛いだと。

そして、レオンはまた人に自分の願いは何かを聞いている。これで2回目だ。なにを考えている?

なぜ、誰もレオンの異変に気づかない。俺がレオンの親友だから気づけるだけなのか?


一体、お前は誰なんだ?



酔いつぶれたレオンを寮に連れて帰ろうとして、ようやく意識を取り戻したレオンの様子がおかしい。

まず、こんなになるまで酒を煽るような奴ではない。

いつもなら腹が立つぐらい葡萄酒を上品に嗜む男だ。


そして、このレオンはこの王都でほとんど暮らしたことがないと言い切った。

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