テラーノベル
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声が聞きたい。
返信が来なくなって、
丸一日と、少し。
私の身体は休憩室にある。
椅子に座っているのに、
心だけが、ここにいなかった。
それまで、
テンポは悪くなかった。
遅すぎず、
早すぎず。
生活の隙間に、
ちゃんと入り込んでくるやりとり。
それが、
あのメッセージを境に、
止まった。
スカイツリーの話。
一人で登ったこと。
埋めてきたこと。
送ったあと、
画面を閉じて、
しばらくしてから、
また開いた。
――既読。
時間が経つ。
でも、返信はない。
それなのに、
最終ログインだけは、
更新されている。
浅い時間。
何度も。
見ている。
――彼は、
ちゃんと読んでいる。
それが、
逆に胸に刺さる。
終わったかな。
いや、
でも。
打ち明けて、
よかったのかな。
あんな話、
重すぎた?
言わない方が、
よかった?
好きなものを聞かれたとき、
もっと、
軽い話をすればよかった?
映画とか。
音楽とか。
――back numberが好きです。
そんな、
何でもない一文から、
会話を広げるべきだった?
考えれば考えるほど、
正解が、
後ろにずれていく。
あの日から、
通勤中も。
仕事中も。
スマートフォンが、
気になって仕方がない。
それでも、
自分からは、
送らなかった。
送れなかった。
画面が、
ふっと光る。
一瞬、
呼吸を忘れる。
――大和。
指先が、
少し震える。
開く。
そこにあったのは、
今までにない内容だった。
共感の言葉。
重さを受け止めようとする文。
そして、
最後の一行。
――もしよかったら、
いつか一緒に行きませんか。
高揚が、
一気に込み上げる。
胸の奥が、
熱くなる。
嬉しい。
間違いなく、
嬉しい。
でも、
同時に、
罪悪感も湧く。
守ってきたもの。
守っているはずのもの。
そして、
捨ててきたもの。
埋めてきたもの。
それを、
思い出してしまう。
それでも。
次に浮かんだ考えは、
あまりにも自然だった。
順序なんて、
関係なかった。
会う前に。
答える前に。
ただ、
思ってしまった。
――彼の、
声が、
聞きたい。
文字じゃない。
写真でもない。
この人の声を。
その願いが、
どれほど危ういかを、
ちゃんと分かったまま。
菜月は、
画面を見つめ続けていた。
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