『』叶
「」葛葉
-天界- 叶side
大天使『お前の今日の仕事はこれだ』
『はい!、、え、これって、、』
大天使『お前も十分学んだだろう、今日はお前が魔界を見回ってくるのだ』
『は、はい!わかりました!』
大天使『ふふ、何度も言うが飛んでいる最中によそ見をするんじゃないぞ、奴らはそこにつけこんでくるからな』
『はい、悪魔ですね、、もちろんわかっています』
大天使『さぁ、お前の初の魔界任務だ、任せたぞ、叶』
『はい!行ってまいります!!』
バサッバサッ
大天使様に任務を仰せつかり、僕は期待を抱きながら翼を広げて大空を飛ぶ。
-魔界の見回り-
これは限られた天使にしか許されない任務だ。なぜなら魔界はその名の通り危険だからだ。
名の知れた天使たちでさえ、悪魔に隙をつかれて帰ってこれなくなったものたちもいた。
悪魔たちは飛んでいる僕達の気をそらそうと甘い囁き声をかけてくると言う。
・・そんなもの、きくわけない、、
僕は自分に言い聞かせ、空を飛び続ける。
どれくらいそうしていただろうか。
これまで絶対に入ってはいけないといわれてきた羽の装飾のついた門の前で一度止まる。
門番の天使が小さく頷き、僕のために門を開ける。僕は身震いしながら中へ進む。
先ほどまでと違い、一気に暗闇が僕を襲う。光など一筋もない空間に気色の悪いひそひそ声がかすかに聴こえる。
・・耳を貸すな、聞くな、、
自分に言い聞かせながら目を一度ぎゅっと瞑り、暗闇を翼で切り裂いて進む。
その時だった。
「ってぇ、、、」
かすかに聞こえた痛みを耐えるような声。
だめだと言う頭とは裏腹に顔は勝手に声の方を向いていた。
そこには岩陰に隠れながら片足を抑えているやつがいた。赤い翼を持っているから、悪魔なのだろう、よく見ると左足から血を流している。
-悪魔たちは僕たちの気をそらそうと甘い声をかけてくる-
ふと大天使様の教えを思い出す。しかしなぜか僕はさっきの声が僕を騙すような演技だとは思えなかった。
僕は暫く空中を迂回しながら声の主の上空をふわふわと飛び回る。向こうはまだこちらの存在に気づいていないようだ。
「くそっ、、あいつら、、」
『・・それ、仲間にやられたのか?』
「っ?!?!」
『あ、急に声をかけてすまない、大丈夫か?その足、、』
いてもたってもいられなくなった僕は気づけばそいつに声をかけていた。
突然上空から、しかも天敵である天使に話しかけられたのだ、驚くのも無理はない。
そいつは涙の滲む赤い瞳で僕を睨みつける。
「・・あんまり、見るな」
『すまない、、つい、、』
「・・さっさとどっか行け」
『・・少しだけそっち行ってもいいか?』
「はぁ?どっか行けっつってんだろ」
『そんなこと言ったって、そんな足でお前どうやって動くんだ』
「・・・」
『折れてるだろ、それ、、』
「・・・」
僕はなるべく相手が怯えないように迂回しながらゆっくり近づく。
赤い瞳の悪魔はまだ眼はぎらついているものの、襲ってきたりはしない。僕はそいつの横に降りたち、怪我をしている左足にそっと右手をかざす。そいつは黙って不思議そうに首を傾げながら僕を見ている。
暫くそうしてかざしていた手を退けると、怪我が無くなっていた。
「・・?!」
『・・よし』
「お前、、これ、、」
『これで動けるだろう』
「・・痛くない」
『当たり前だろ、治したんだから』
「お前、、すげーな」
そいつはニカッと笑って僕を見る。
天使界では新米な僕が、すごいなんて言われて少し照れてしまう。
『・・仲間に、やられたのか?』
「・・・」
『あ、言いたくなければ別にいい』
「・・あいつら、卑怯なんだ」
『・・・』
「・・ここじゃみんなこうして仲間を蹴落として上に上がっていくらしい」
『・・魔界も天界と一緒なんだな』
「・・は?」
『天界だってそうさ、今日ここに来る時だって何人僕の邪魔をしてきたかわからない』
「・・・」
『みんな、僕の任務の失敗を願ってる。天使なんて、名前だけだ』
-魔界- 葛葉side
目の前の白い羽の生えた天使がそんな言葉を言いながらふわりと笑う。
『お前、名前は?』
「・・言うと思うか?」
『あ、そうか、そうだったな』
-悪魔の名前-
悪魔の本名が天使にばれた場合、、その名を天使が呼べばその悪魔は消失する。だから、悪魔は死んでも自分の名前を言わない、そう天界で教わった。
『あれ、本当なのか、、』
「・・お前信じてないのかよ」
『どうせ大天使様の虚言だと思っていた』
「・・ぷっ、あははははは」
『何がおかしい』
「お前、本当に天使なのか?とてもそうは見えないが、、」
『はぁ?見えないのか?ついてるだろう、翼が』
「だってお前、、言動が似つかわしくねーよ、その翼も作りものなんじゃないか?」
『・・いっそのこと、そうなら良いのにな』
「・・え?」
『いや、なんでもない、じゃあ僕はこれで』
バサッバサッ
そう言うと先程の天使は翼の音を響かせながら飛んで行った。
『・・いっそのこと、そうなら良いのにな』
先程の天使の言葉が妙に頭にこだまし、俺はしばらくそこから動けなかった。
-天界- 叶side
『ただいま戻りました!』
大天使『無事に戻ってきたな、特に問題はなかったか?』
『はい、問題ありませんでした!』
大天使『念の為聞くが、悪魔の囁きに耳を貸すことなどしていないだろうな?』
『・・そのようなことは、もちろんありません』
大天使『よし、それなら今日はもう休め』
『失礼致します』
大天使様への報告を終え、考え事をしながら天界の空を飛び回る。
・・明日もまたあいつに会えるだろうか。あの赤い瞳の悪魔に。
天使として一番禁忌とされている悪魔との接触。僕はなぜかあの悪魔が気になってしょうがなかった、悪いことをしているのが楽しいとか、そんなしょうもない理由じゃない。
本能なのか、なんなのか、あの赤い瞳の悪魔に僕の心は惹かれてしまうのだ。
-魔界- 葛葉side
?「・・おい、お前それどうやった」
「・・・」
?「なんで足治ってんだって聞いてんだよ」
「・・・」
?「お前、まさか、、てんs」
「お前、自分の怪我もろくに治せねぇのか?ザコが、、」
?「あ?!お前、口の利き方には気をつけろよ、、おいお前ら、やれ」
・・・
?「・・よし、今回は両足だからもうお前歩けねぇなぁ!自慢の翼もボロボロで、、今度こそもうお前は終わりだ、、」
「・・・」
気色悪い甲高い笑い声を響かせながら俺を襲った悪魔たちが飛んでいく。
魔界では生まれ持った瞳の色がステータスの1つになる。俺のような赤い瞳を持った悪魔はそれだけで優遇される。あいつらはそれが気に食わないから襲ってくるのだろう。
ここは魔界だ、襲われたからと言って同情するような奴はいない。襲われるのが悪い、そういう考えだ、、、こないだのあいつ以外は、、、
俺は折れた両足を引きずりながら這ってまた岩陰に身を隠す。今回は翼も片方傷ついており、飛ぶこともできない。
俺は痛みに顔を歪ませながら無理矢理目を瞑った。
・・・
バサッバサッ
どこかで聞いたことのある翼の音。痛みで意識が朦朧とし、夢か現実かわからなくなっていた俺はうっすら目を開ける。
目の前には昨日会った天使がいる。
『・・これはまた、酷いな、、』
夢の中であいつがそう呟き、俺の足にまた手をかざす。
あいつの手がかざされたところがまた暖かくなって、、、
・・・
「・・っ?!」
『あ、起きたか』
「・・・」
『・・大丈夫か?』
「・・夢、か?」
『・・何を言っている?』
「・・・」
『おい、僕はここにいる、お前は夢の中じゃない、現実だ』
「・・また、来てくれた、のか」
『・・来てくれただなんて悪魔らしくない、最初の威勢はどこに行った?』
「・・はは、それもそうだな」
『もう痛みは無いだろう?この赤い翼もあと少しで治るから待ってろ』
「・・お前、いいのかこんなことして」
『・・・』
「・・ダメなんだろ?悪魔と関わるの、」
『・・・』
「・・掟を破った天使は処刑、、違うのか?」
『・・・』
「・・もうお前、ここには来るな」
『・・・』
「2回も助けてもらって有難いと思ってる、だからお前は俺にとって間違いなく救いの天使だ、だから、俺のせいでお前が処刑なんて嫌なんだ」
『・・・お前、瞳が赤いからこんな仕打ち受けてるのか』
「・・誰から聞いた」
『飛んでいる時に汚い囁き声がたくさん耳に入った、みんなお前の眼の色を僻んでいた』
「・・・」
『お前だって何の罪も無いじゃあないか、たかが瞳の色でなんでこんな目に合わないといけないんだよ、、』
「・・お前変わってるな」
『?』
「天使っつーのは俺たち悪魔の命をなんとも思ってない冷酷で残虐なやつだと思っていた」
『いや、あながちそれは間違っていない、僕も、、例えばあそこの岩の上にいるあいつ、あの悪魔の命なんかはどうでもいい、今すぐに下の溶岩に落ちてしまえばいいとすら思う』
「・・・怖いなお前」
『そんな顔するなよ、仕方ないだろ天使の性なんだから、、でもお前だけはなぜかそう思えない、理由はわからないが、、』
「・・・葛葉」
『・・え?』
「俺の名前だ」
『は?えっ?お前、もちろん、本当の名前じゃないよな?』
「・・当たり前だろう、」
『あ、あぁびっくりした、、葛葉って呼べばいいんだな、わかった』
「ぷっwビビりすぎだろw」
『そんなに笑うなよ』
「お前は?」
『え?あ、叶だ』
「叶、、いい名前だな」
『そうか?』
「うん、意味はわからんが」
『・・わからないのかよ』
そう言いながら隣の天使はまたふわりと笑った。
そんな俺たちを上空から眺めている奴がいたとも知らずに、、、
-天界- 叶side
僕は他の天使たちに拘束され、無理矢理大天使様の前に跪いていた。
大天使『お前には、失望したよ』
『・・仰っていることの意味がわからないのですが?』
大天使『叶、お前が1人の悪魔と仲良く喋っているのを見た仲間がいる』
『馬鹿な、、魔界の見回りは僕1人でしょう、、』
大天使『・・我々の仲間の中には悪魔も数人いるのだ』
『?!、、大天使様、それは、、天使の禁忌ではないのですか?!』
大天使『うるさい!!悪魔と必要以上に関係を築いたお前は許される存在ではない!!』
『・・・』
大天使『と言ってもここでお前を簡単に処刑しても、お前が顔色1つ変えないことくらいわかっている』
『・・・』
大天使『だから、こいつを連れてきた』
『・・?!』
「やめろ!!離せよ!!!」
拘束された僕の視線の先には何重もの鎖で首と四肢を繋がれた赤い翼、赤い瞳の悪魔がいた。
大天使『こいつだろう、お前が同情している悪魔は、、』
『ち、ちがいます!こいつではありません!』
大天使『・・やれ』
大天使様の一声で天使の1人が刃で悪魔の足を切りつける。
「う”ぁああああ!!!!」
『っ!!葛葉っ!!!!』
大天使『・・本性を現したな、叶。お前には失望したよ、さぁ、選べ。お前が1人で拷問を受けながら死に絶えるか、こいつが苦しむ様を見るか、あぁそれか、お前がこいつを消してもいい、3つからだ。』
『・・・』
大天使『・・私のことを非道だと思うか?仕方ないんだよ、大勢を管理するってのはこういうことなんだ、そんな目で見ないでくれ』
『・・・』
大天使『さぁはやく!!!』
『・・ぼ、僕が!!!』
大天使『・・ほう?』
『僕が1人で、死にます、だから、、だからはやくそいつを、、葛葉を、、離して、、、』
「っ?!叶、だめだ!!!!!」
大天使『いいのか?言っておくが、お前は単なる処刑では無い、最大まで痛みを受けながらゆっくりゆっくり死に向かうのだぞ』
『っ、、』
「叶!!!!」
大声で自分の名を呼ぶ葛葉の方を見ると、鎖で引っ張られながら、切られた足から血を流しながら、涙の滲む赤い大きな瞳でこちらを凝視している。
『葛葉、、、』
「叶!!お前が1人で死ぬなんて、俺は許さない!!お前は俺の天使なんだろ?!だから、、」
大天使『はははははは!!!!みんな聞いたか?叶は悪魔の天使だそうだ、やっぱりこいつは裏切り者だな!!』
天使たちがけたたましく気色悪い声色で笑う。
「叶!!!・・ラグーザ、、ラグーザだ!!!俺の名前!!はやく!!」
『っ?!?!』
大天使『あぁなんて美しい友情だ!後はその名前をお前が口にするだけだ、、私もお前のような頭の切れる天使を失うのは惜しい、、さぁはやく!!!!』
『・・・』
「叶!!はやくしろ!!俺はもう、お前に助けてもらったから、もういいんだ、だから早く!!」
『・・・』
周りの喧騒を聞きながら、僕はふと昔本で読んだことを思い出す。
-堕天使-
天使と悪魔がお互いを想いながら同時に死に至った場合、天使にも悪魔にも分類されない存在となる。天使からも悪魔からも迫害されるため、その存在や能力についてはほとんどわかっていない。
『・・お前がいない世界じゃ、、意味がないんだ』
僕は小声でぼそっと呟き、僕の手を拘束している天使の腰から短剣を抜き、もう片方の手を掴む天使の腕を切りつけ自由の身になる。
周りの音は聞こえず、まるで世界がスローモーションになったようだった。大きな目をさらに大きく開けて僕を見る葛葉に向かって一直線で走った。手を伸ばし、葛葉を抱きしめ、逆の手で自分の胸を短剣で刺した。
一瞬の鋭い痛みの後に生暖かい自分の血液が滴り落ちる感覚が残る。
葛葉は僕の考えていることを理解したのか、ハッとした顔で頷き、僕を強く抱きしめる。
『・・ラグーザ、、』
遠のく意識の中で僕はしっかり愛しい悪魔の名前を呟き、その瞬間抱きしめていた感触が無くなる。
暗闇の中で一筋の光が見え、だんだんその光が大きくなっていく。
腕にはまた何かを抱きしめている感触が戻り、僕はゆっくり目を開ける。
目の前には黒い翼を生やした葛葉が泣きながら僕を抱きしめている。
痛みは消え、自身にも葛葉と同じ黒い翼が生えているのが見える。
僕は葛葉の手を取り羽ばたく。
『・・ごめんね、葛葉、、なんか付き合わせちゃって』
「・・・今言うことか?それ」
『これって堕天使だよね?たぶん、この先大変だと思うけど』
「・・お前が選んだんだから俺は別にいいけど」
『ふふ、ありがと』
「・・とりあえず逃げよう、なんか石とか飛んできてる」
『・・あぁそうだね、とりあえず飛ぼっか』
嘘のように自分と葛葉の声しか聞こえない世界で、黒い翼を音を立てて羽ばたかせながら僕達は並んで飛び立つ。
「・・なぁ、なんでお前こんなことしたの、俺を消した方が早かったじゃん、」
『・・わかんない』
「・・は?」
『けど、お前がいなきゃ、つまんないよ』
「・・・」
『ていうか、これどこ行ったらいい?天界にも魔界にも行けないよね?僕達』
「・・あぁ、適当にあっち行ってみよーぜ」
そう言う葛葉の手をぎゅっと握りながら僕は翼を力強く羽ばたかせた。葛葉はそんな僕を笑いながらも僕の手をさらに強く握り、高く高く飛び上がった。
おしまい
コメント
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あなた様の書くknkzがものすごくドタイプでずっとwebから見させて頂いていました…!最近やっとアプリをいれれたのでフォロー失礼します…!!!センシティブなのはアプリだと見れないのでwebで見て楽しませて頂いてます!でもwebからだといいねが出来ないのでそれがとても苦しいです…。本当に全部のお話が性癖という性癖に刺さりまくって恐ろしいくらい大好きです!!次回作も楽しみにして正座待機してます!!
天才だ🎓✨神だ!!!!! フォロー失礼します!