乙原と無事に会った薬師は頭に叩き込んだマップと乙原のナビを元に廊下を走る。
“じゃあまずは今いる廊下を真っ直ぐ進んで、2つ目の角を曲がって!”
“了解ですぅ…そのぉ…鳥飼さん?の様子はどうですかぁ…?”
“さっきよりも酷くなってる。かなりボロボロな状態だと思う…”
“生きてるなら問題ないですねぇ…俺の能力的にも瀕死の方が精度は上がるんでぇ…”
“うん…!ありがとう!”
思わぬ出会いだったが鳴海の紹介とあってか乙原の表情は和らいだ。
華厳の滝からさほど遠くない位置に八咫烏隊員2名が闇に紛れて息を潜めていた。
「全員の位置を確認。隊長は交戦中の模様」
「え、まじぃ?…うーわ、ホントだ。あれ身内じゃねー?」
「恐らくな。そうなった場合、回収する様に連絡が来るはずだから頃合いを見て中に移動した方がいいな。薬師の方も上手くいってるようだ」
「あんなに脅したらそりゃ上手くやるでしょうよ…」
あの脅し方、というのは乙原と合流した時の事である。
「あのぅ…乙原響太郎さん…ですかぁ…?」
「!」
「ぁ…その…えっと…ぼ、僕、援軍の…その…」
「(誰だ…?鬼機関の人、だよね…腕についてる腕章から見て質が高い鬼の集まる事で有名な “八咫烏” のメンバー…)」
意外にも部隊の事は広まっているらしくちょっとした有名人という事を本人達は知らない。
「違ってたらごめんなさぃ…」
「あ、いや!当たってるよ!八咫烏の人…だよね?なんの用かな?今忙しくてさ」
「忙しい?」
「仲間が大怪我してて鳴海に助けて欲しいんだけどさっきから連絡が取れないんだ」
「あ、あの…その件でお話が…」
薬師は鳴海に言われた通り、鳥飼の元に行けない事とその代わりに自分が行く事を伝えた。
「有難いけど見ず知らずの人を向かわせるなんて無理だよ。君たちが本当に鳴海の知り合いなのかも分からないのに」
「そ、そうですよね…すいません…でも…」
「うわっ!」
薬師は乙原は押し倒してその首にナイフを突きつけた。
「はっきり言って僕たちはあなた達を助ける義理も義務も持ち合わせてはいない…手荒な真似をしてごめんなさい…でもこれは隊長命令…あなたを多少脅してもいいと許しが下りていますので…」
「(この見た目でとんでもない力…一瞬でも気を抜けば殺される…!!)」
あと数cmとなった所で突然、ナイフの刃先が綺麗に折れた。
「折れた…!?」
「あぅ…遠野さん…相変わらず気味の悪い狙撃技術ですねぇ…死ねばいいのにぃ…悲しいですぅ…」
「狙撃!?ここは四方を壁に囲まれた場所なのに…」
乙原の言う通り2人のいる場所は人気のない廊下。四方はコンクリの壁なので狙撃など出来るはずも無い…のだがナイフを折った弾は壁を貫通して2人の元へ飛んできたようだった。
「噂通りの…化け物集団だね…っ!!」
「……褒め言葉として受け取っておきますぅ…時間も無いので早くお仲間に連絡してください…さもなくば今の狙撃があなたの頭に向かって飛んできますよぉ…」
「………分かった。」
こうして鳴海の抜けた穴を埋めるべく薬師が一時的に援護に入る方にとなった。
「あっはは!なぁに?その体たらくは?無様〜!」
「あ”ァッ!クソ…痛ってぇなぁ!!」
姉・結莉乃と交戦していた鳴海は何枚かの壁を破壊して外に放り出されていた。
壊れた所から結莉乃が見下ろしてる姿はかつて、実家にいた頃を彷彿とさせる。
“隊長ご無事ですか?ここからなら狙撃出来ますが”
「要らない!!邪魔しないで!!」
“……了解しました”
遠野からの通信を切ると傷口を乱暴に縛り止血をした。
「血が止まらない…?」
「私の能力には通常の数倍、出血毒が含まれてるの。掠っただけで即アウト!アンタの体格なら持って5分ね」
「持って5分…それだけあれば充分だよ」
「!?」
次の瞬間、ゆっくり結莉乃の足元にあった血溜まりが結莉乃を覆い簡易的な水槽になった。
「っ!?(なにこれ…血の水槽…!?醜男の能力!?)」
「よーやっと捕まってくれたね。姉さん」
鳴海は水槽に近付くと一方的に話し始めた。
「その水槽は俺の能力で作った。まぁ言わなくても分かるよね?俺が解除しない限りその場に残り続けるし内部からの破壊は不可能。出して欲しかったらあの質問に答えること。」
しかし結莉乃も一端の桃太郎。仲間や家族を売る精神など持ち合わせてはいなかった。
「話す気は無いのね…ま、期待はしてなかったけどさ。じゃあそのままそこで窒息しちゃいなよ。」
水泳選手でもない結莉乃。息を止めていられる時間はたかが知れている。
徐々に苦しくなっていきこのままでは溺死することは間違いないだろうと確信した結莉乃は賭けに出た。
「話すの?」
「ん”ー!!!」
賭けとは、この水槽が解除されたタイミングで鳴海を始末することだった。
「(勝負は1回きり…絶対に外せない!)」
「……ま、いいか。」
そして能力が解除された瞬間、結莉乃の菌が鳴海の右腕を身体から切り離した。
「い”っ…!」
「(外した…っ!!でもこのまま追撃すれば…!)」
追撃しようとしたが次の瞬間にはまた水槽に入れられていた。
「(しくじった!しくじった!これは間違いなく殺される…!)」
「おい、このクソ女…下手に出てやればこの仕打ちか?はぁ…期待した俺が馬鹿だった。」
吹っ飛んだ腕を拾い上げると水槽に投げ入れた鳴海。
「(何するつもり…?)」
「死なない程度拷問してゲロったら生かしてやるつもりだったけどそんな慈悲は要らないようだな」
「っ」
「血蝕解放…」
血蝕解放の言葉と共に水槽の中には一匹の鮫が生成された。
「(鮫………!)」
「可愛いでしょ?その子。ここ1年はまともにご飯あげてないからお腹ペコペコなんだよね」
恐怖に染る結莉乃の顔を愉しそうに見つめる鳴海。
「色んな奴喰わせてきて1番食い付きが良かったのが桃原家の人間なんだよね。」
「……」
「ってもう聞いてないか」
酸欠と恐怖により失神した姉を水槽から引き摺り出すと雑に床へ投げ捨てた。
「うわ、鮫…」
「現ちゃん遅いよ〜」
「とりあえずこの鮫どっかやってくださいよ。俺の事食べようとしてます」
「食べないよう躾てるから大丈夫だって!それにほら!桃原結莉乃!酸欠で意識無いだけだから手足縛って運んで」
「りょーかいでーす…うぉいサメぇ!こっち寄ってくんな!」
結莉乃を背負って自身の能力で作ったワープゲートに足を向けた隠世現世。
「んじゃ、こいつは筺行きって事で?」
「そーして。他の兄妹もいるし仲良く出来るでしょ」
「(あんな場所に半月もいたら人格破綻も良いとこだよ…)隊長の怪我は?腕、無いっすよ」
「腕はあっちにある」
「も〜ちゃんとくっ付けてくださいね!!食らった毒もさっさと解毒して!!これ解毒剤です!!しっかりやらないと怒られるの隊長なんですから!!」
「はいはい…またね “お姉ちゃん”」
その言葉と共に姉はワープゲートへ消えていった。
「…さてさて結莉乃を捕まえたから〜」
写真を取りだし結莉乃の所に×印を付けた。
写真に写る人物の3分の1にはこの印が付いていた。
「やっと3分の1か〜先は長いな〜…っと、腕腕…あった」
瓦礫の中から腕を見つけ拾い上げるとその場で縫おうとしたが道具が無いことに気が付いた。
「医務室に行ったらあるかな…ていうかめっちゃ痛い…アドレナリン切れた‥?」
大怪我したことを無陀野に怒られるまであと数時間なのを鳴海は知る由もない
桃原結莉乃VS無陀野鳴海
____________勝者 無陀野鳴海
「待って片手じゃ縫えない」
「あっ、隊長ぉここですぅ〜!」
「やっと見つけた…ここ広すぎ」
死闘を終えた後、出来る限りの治療をした鳴海は薬師からの要請を受け鳥飼の元に来ていた。(腕は止血してぶっ飛んだのは小脇に抱えてる)
「鳴海…どうしたのその怪我…」
「あ〜、殺りあってた?大丈夫だよ勝ったから」
「勝ったならいいけど…腕やばいね」
「あ、見る?ほら」
「見せるな!!!」
断面を見せて悲鳴を上げる鳥飼を他所に薬師はとあるUSBを鳴海に手渡した。
「これなに」
「USBですぅ」
「USB」
「ここに来る前の研究所で見つけて中身はまだ確認出来てない。」
「出来てない」
「生きてるPC見つけてきましたから見ましょぉ」
3人で顔をくっ付けて画面を覗き込む
「…このUSBの中に何か情報があれば…あっ。」
「うわ、何これ…全然読めない」
「外部流出防止で暗号化されてる…このマークは鬼だよな…?」
「確かにぃ…角みたいなのありますもんねぇ」
「じゃあこっちはなんだ…?」
「う~ん…でも何だか分かんないこれが、100個必要だってことは分かる」
「100個…てことは、数えられるもの?ダメだ…解読できねぇ…」
「他の階の研究室にヒントがあるかもですぅ」
「だな。そもそもここはもう使われてねぇ研究室だから、どっちにしても上に行かないと情報は得られそうにねぇ。」
ノートパソコンを覗き込みながら、USBの中身についてあれこれと意見を交わす鳴海と鳥飼。
だが収穫は少なく、結局桃太郎側の計画は分からずじまいだった。
フーっと息を吐いた鳥飼は、不意にゴソゴソとポケットを漁る鳴海に声をかけた。
「なにしてんの」
「あったUSB!」
「待って何するつもり?」
「コピー!」
「出来るの?」
「知らん!」
持ってきていたUSBをノートパソコンに繋げるとキーボードを打ち始めた。
「多分、桃太郎機関の機密情報だからそれなりの地位を持つ桃太郎にしか解読出来ないだろうけどコピーしといて損は無いからね〜!」
「鳴海って機械できるの?」
「普通の人よりかは出来ると思いますぅ…隊員の給料担当もこの人なんでぇ…」
「すげぇな…」
「よし、これでいいかな。藍ちゃん、これ持って避難ね。原本は俺が持つ。前話した場所に現世来てるから」
「了解ですぅ…」
コピーしたUSBを持たせ薬師を避難させた鳴海は鳥飼の方に向き直ると切れた腕を差し出した。
「?」
「腕縫ってくんない?」
「は?」
「片腕じゃ針に糸通せないからさ。はい」
「やるけどさ…不格好でも怒んなよ」
「怒んないよ」
鳴海の腕を縫合する鳥飼と鉄分サプリやらなんやらを飲み始めた鳴海。
乙原から通信が来るまで、あと5分。
「あと服着てよ。何したらそんな北斗の拳みたいな破れ方するの」
「さすがに上裸はやばいか…替えのインナー着たらマシになるかな…」
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