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深夜23時前。駅前の大通り、塾帰りの高峯理央は人影の少ない歩道を歩いていた。
街灯の明かりに照らされたその前方、ベンチにもたれかかるようにうずくまっている男が一人。
「……酔っ払い、ですか……?」
塾の帰りに面倒なことに巻き込まれるのはごめんだったが、無視できるほど冷たい人間でもなかった。
男に近づき、顔を覗き込む。
「大丈夫ですか。…駅員を呼びましょうか?」
すると、男――蓮が顔を上げた。
「ん……あ、ごめん。だいじょぶ……ちょっと、力入らないだけで」
へらりと笑う蓮は、見たところ酔っているようにも見えるが、どこか様子が違った。
その顔色の悪さと、異様に体温が低そうな雰囲気に、理央は訝しげに目を細める。
「……駅員を呼びます。放っておけませんし、何かあっても困るので」
「え、やだ、そんな大ごとにしないでよ……。ね、ちょっとだけ、支えてくれる?」
「……は?」
言うが早いか、蓮はゆっくりと立ち上がり、ふらりと理央に体重を預けてくる。
「ちょっと……っ、何してるんですか……!?」
肩を抱かれる格好になった瞬間――
「……ごめん、ちょっとだけ。マジで限界なんだ」
その囁きとともに、蓮の唇が理央の首筋に触れた。
「……っ、えっ……?」
次の瞬間、ズキッという痛みとともに、肌を割るような鋭い感覚が理央の首に走る。
「い、っ……!? ちょ……っ、何して、っ、やめ……やめてくださ……っ」
理央の身体がビクリと跳ねる。けれど、その場を離れようとする力は思うように入らない。
吸われている――血を。
しかし、それだけではなかった。
「ん……うん、やっぱ美味しい。すごい……理央の血……」
耳元で、熱っぽく囁かれるたびに、ぞくりと背筋を走る快感。
理央の足元から力が抜けていく。心臓が異様に早く脈打ち、頭がぼうっとする。
「なっ……なんなんですか……っ……!」
必死に抗議する声は、震えて掠れていた。
「んふふ……理央、かわいい」
蓮が甘ったるい声で言う。吸血が続くたびに、理央の呼吸はどんどん荒くなっていき――
「ひゃ、っ……あ……や、め…く、っ……!」
吐息が漏れた。理央の頬は赤く染まり、目元には涙が浮かぶ。
腰が砕けそうになる。だめだ、これ以上は……。
「も……もう……いい加減に……してください……っ」
ようやく蓮が口を離すと、理央の首には赤く滲む痕が残り、彼はその場にへたり込んだ。
蓮は理央を抱きとめながら、申し訳なさそうに笑った。
「ごめんね……止まんなかった。だって、理央の血……マジで、すごく美味しかったから」
「…はあっ…はあっ…最低です……あなた……っ」
理央の頬を伝う涙と、潤んだ瞳の奥に燃えるような怒り。
だけど――その瞳は、もう少しだけ、蓮のことを追っていた。