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仁人(Ω)side
アラームが鳴る。
少し前に 目が覚める。
「……っん、はっ……」
浅く、息を吐く。
天井を見たまま、しばらく動けない。
今日も、 体の奥に、わずかな違和感。
熱とまではいかない。
でも、完全に“何もない”わけでもない。
じんわりとした、落ち着かない感覚。
「………っ」
目を閉じる。 無視するみたいに。
大丈夫。
まだ、平気だ。
そう自分に言い聞かせて、 ゆっくりと状態を起こす。
足を床につけた瞬間、少しだけ力が抜ける。
「んぐっ……」
すぐに、踏ん張る。
平気だ、 いつも通り。
いつも通りでいればいい。
そう言い聞かせて、洗面所に向かう。
顔を洗うと、 冷たい水が、少しだけ意識を引き戻す。
顔を上げて、鏡を見る。
少しだけ、目が赤い。
寝不足でもないのに。
「……やだな」
小さくため息をつく。
でも、 すぐに表情を整える。
“吉田仁人”の顔に。
キッチンに立ち、 コーヒーを淹れる。
いつもの流れ。
手慣れた動き。
湯気が上がる。
その匂いで、少しだけ落ち着く。
マグカップを持つ手が、 ほんの少しだけ震えている。
誰にもバレない、 大丈夫。
カップを口に運ぶ。
……苦い。
でも、それがいい。
この苦さが、現実に引き戻してくれる。
テーブルの上にある 小さなケースに目を向ける。
そこに入ってる錠剤。
一瞬だけ、視線を逸らす。
「……飲まなきゃ…」
分かってる。
分かってるけど。
ほんの少しだけ、迷う。
もし、 これがなかったら…
抑えなくてよかったら…
“番”とか…
そういうの…
そんな考えが、一瞬、頭をよぎる。
誰かに触れられて、 求められて。
全部、委ねて。
そんなことを考えて、カップを強く握る。
「バカみたいだ…」
そんなの、無理に決まってる。
アイドルが、Ωなんて。
知られたら終わり。
選べない。
そんなの。
「……っ」
薬を取り出す。
そのまま、口に入れる。
コーヒーで流し込む。
苦さが、喉に残る。
これでいい。
これが、自分の選択。
「……行こ」
小さく呟く。
そのまま立ち上がる。
ドアを開ける前に、一度だけ深呼吸。
大丈夫。
舞台に立てば。
全部、消える。
熱も、違和感も、全部。
必要なのは…
完璧な自分だけ。
「いってきます…」
誰もいない部屋に、そう言って。
今日も、外に出る。
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