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勇斗(α)side
スマホの振動で、目が覚める。
「……ん」
ぼんやりと手を伸ばす。
画面を開く。
ロック画面。
メンバー全員で撮った写真。
その中心に…仁人。
「……」
自然と、そこに視線が止まる。
他のメンバーもいるのに。
なぜか、そこだけ。
少しだけ、目が柔らぐ。
安心する。
理由なんて、考えたこともないのに。
毎朝見てるはずなのに。
毎回、同じところを見る。
指が、無意識に画面をなぞりかける。
でも、途中で止まる。
「何やってんだ、俺…」
小さく息を吐く。
ロックを解除する。
画面が切り替わる。
もう見えない。
「……」
なのに。
さっきの顔が、頭に残る。
やめなきゃいけない、分かってる。
これ以上、考える必要ない。
ただのメンバー、仲間。
それだけ。
でも、さっきの感覚が、少しだけ残る。
胸の奥が、じんわりと、温かいような。
気づいてる。
ずっと前から。
気づいてないフリしてるだけで。
目を閉じる。
だめだろ、これは、絶対に。
メンバーに向けていい感情じゃない。
軽く息を吐く。
押し込むみたいに。
その感情ごと。
そして、体を起こす。
その瞬間。
「……っ」
胸の奥に、わずかな熱。
さっきとの感情とは別に、抑え込まれているもの。
「ほんと…効き悪くなってきたな」
小さく舌打ち。
でも、慣れてる。
これくらい、問題ない。
立ち上がって、ストレッチを軽くする。
体は動く。
問題ない。
いつも通りに。
何もなかったみたいに。
テーブルの上にある薬。
それを見て、ふと。
「……同じだな」
少し滑稽に思えて、口角が緩む。
本能を抑えるのも。
この気持ちを抑えるのも。
やってることは、同じ。
どっちも。
“なかったことにする”だけ。
錠剤を手に取る。
そして、迷いなく、口に入れる。
水で流し込む。
……これでいい。
本能も。
感情も。
全部、抑えて。
全部、隠して。
その上で、 舞台に立つ。
もう一度、スマホを見る。
さっきのロック画面。
メンバーの笑顔。
「……守りたいな」
ふと、そう思って、口にする。
そのためにも、余計なものはいらない。
本能とか…
欲とか…
“番”とか…
一瞬、頭に浮かぶ。
誰かと結ばれて。
独占して、されて。
全部、埋められるような存在。
一人の存在が頭に浮かぶ。
「くそっ…」
軽く首を振る。
そんなのいらない。
今は。
選ばない。
選べない。
「……仕事行くか」
小さく呟く。
そのまま、立ち上がり、ドアに向かう。
手をかける前に、一瞬だけ、止まる。
でも、もし、彼がそうだったら…
「…いや…」
すぐに打ち消す。
ない、な。
そんな都合いい話。
あるわけない。
ドアを開ける。
外の空気。
そのまま、一歩踏み出す。
恋も、本能も、全部置いて。
今日も、“アイドル”として生きるために。
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