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「行くわよ……ナオト」
「来いよ……『|純潔の救世主《クリアセイバー》』」
その二つ名は『五帝龍』を追い払った者に与えられたものである。ナオトは彼女がそれらを追い払った者だと思ったから、そう呼んだ。
そうじゃないと、こんな幼女がこんなところにいるわけがないと思ったからだ。
しかし、意外にも彼の予想は当たっていた。そう、彼女こそが『五帝龍』を追い払い、それらのウロコと『あるもの』を入れて作った薬を使ってモンスターチルドレンという存在を創造した『|純潔の救世主《クリアセイバー》』……【アイ】だ。
「『|純潔の救世主《クリアセイバー》』? 私が? 冗談はそのダサい翼とシッポだけにしてほしいわね」
「そうか……お前が異常なほどに強いから、てっきりそうだと思ったのだが……俺の勘違いだったみたいだな」
「……! あなた、私をなんだと思っているの?」
「別に俺は、お前のことをなんとも思っちゃいないさ。俺はただ、強さだけじゃなくて、容姿・口調・筋肉のつき方に至るまで完璧なお前が羨ましいだけだ」
「……! こ、この変態! 私のどこを見ているのよ!」
「敵のことを知るために、そいつをよーく観察するのは当然だろう?」
「……! そ、そう。なら、あなたの観察眼がどれほどのものか、私が調べてあげるわ! それじゃあ、試しに私の誕生日を当ててみなさい!」
「誕生日? 俺の予想だとあんたは俺たちよりずっと昔に生まれてるはずだから、訊《き》かれても困る」
さ、さすがはナオトね。記憶を操作して私のことを忘れさせても、私のことをよく見ている。
それじゃあ、これなら、どうかしら。
「じ、じゃあ、私の好きな食べ物は?」
「スイートポテト」
「な……! ど、どうして分かったの!」
「いや、俺たちって、なんとなく似てるから、スイートポテトかなーって、思っただけだ」
「そ、そう。なら、最後の質問よ」
「え? もう最後なのか? 早いな」
「う、うるさい! 私に逆らう気?」
「いや、別に……。好きにしてくれ」
「そう……なら、いいわ。コホン、じゃあ、最後の質問よ」
これはさすがに分からないはずよ。だって、今からする質問は……。
「わ、私が心に決めた生涯のパートナーがどんな人か言ってみなさい。それが最後の質問よ」
「そんなのが最後の質問で本当にいいのか?」
「い、いいから、早く答えなさい!」
「はいはい、分かった、分かった。うーん、そうだな」
これが分かったら、もうナオトは超能力者よ。相手を見ただけで相手のことが分かるなんてこと、ありえな。
「こういうのって案外、近くのやつだったりするよな」
「……! ダ、ダメよ! ちゃんとその人の特徴を言いなさい!」
「ああ、分かった。うーん、特徴ねー」
び、びっくりした。しばらく見ないうちにナオトがまた成長してるなんて思いもしなかったわ。これはちょっとまずいかもしれないわね。
「そうだなー、お前みたいな完璧なやつほど、マイペースっていうか、ちょっと変わったやつがそうなのかもしれないなー」
ええ、そうよ! その通りよ! 私はあなたのそういうところが好きなのよ! ま、まあ、私は絶対にそのことは言わないけどね!
「うーん、あとは……お前のことを幼女扱いせずに一人の女の子として見てくれるやつ……とかかな?」
あー! もう! 今すぐナオトを押し倒して、一生消えない傷をつけたい! そして、私にも一生消えない傷をつけてほしい!
でも、そんなこと言えるわけないじゃない! 私はナオトの高校時代の先生で、ナオトの記憶を操作して私のことを忘れさせたのよ!
こんなひどい女があなたに本当の気持ちを伝えられるわけないじゃない!!
「なあ、こんなもんでいいか?」
「……え? あー、えーっと、そうね。ま、まあ、そうね。だいたい合っているわ」
「そっかー、よかったー。もし間違ってたら、ここでお前と戦って負けても、悔やんじまうからな」
「……じ、じゃあ、あなたが挙げた条件に当てはまる人が、この世界にいるかどうか言ってみなさい!」
「唐突だな。まあ、いいけど。うーん、そうだな。口調から察するに多分いるんだろうけど、どこにいるのかまでは分からないな。でも……」
「でも?」
「それが俺とかだったら、笑っちまうなー」
あー! もう! 大正解よ! 私が好きなのは、あなただけよ! ナオト!
今すぐ、あなたの全てを私のものにしたいのに、それができない私の気持ちが分かる? ねえ、分かる?
「さてと、それじゃあ、やるか」
「………………」
「どうした? 俺が怖いのか?」
「いいえ、あなたなんて、ちっとも怖くないわ」
「そうかよ。じゃあ、気を取り直して、やるとするか!」
「ええ、そうね。お互いの未来をかけた最強同士の戦いを!!」
両者が戦いを始めようとした、その時……。
「はい! そこまで!!」
ミノリ(吸血鬼)が他のみんなと共に、先ほど自分が壊したところから現れ、二人の戦いを中断させた。
ミノリはナオトの方へ、つかつかと歩いていくと思い切り顔面を殴った。
ナオトの鎧はヒビ一つ入らなかったが、ミノリの真剣な眼差しと体重の乗った拳から、もう戦いはやめなさいという気迫が伝わってきた。
「はぁ……分かったよ。もう戦わないから、そんな怖い目で俺を見ないでくれ」
ミノリはナオトの顔面に打ち込んだ拳を開くと、頭を撫でながら。
「はい、よくできました! えらい、えらい」
笑顔でそう言った。
「子ども扱いするなよ。まったく、お前ってやつは」
「よーしよし、ナオトはいい子ねー♪」
「……もうやめてくれないか? 恥ずかしいから」
「ダメよ、あたしたちを心配させた罰なんだから」
「……罰……ねえ」
ミノリは急に俺の頭を撫でるのをやめると、アイの方へ、つかつかと歩いていった。
ミノリはアイの目の前で止まると、こう言った。
「先生には、とても感謝しているけど、ナオトはもう先生だけのものじゃないの。だから、ナオトを独り占めしたいのなら、あたしたち全員を倒してからにしてくれない?」
「……はぁ……分かったわ。今回はあなたのその度胸に免じて、ナオトを私のものにするのは諦めましょう。けど、私はしつこいわよ?」
「ふん! 何度でもぶっ飛ばしてあげるわ!」
ミノリはそう言うとナオトのところへ急いで行き、ナオトの手を引っ張って、アイのところへ連れていった。
「ほら、仲直り!」
「え? あー、うん」
「早くしなさい!」
「わ、分かったから、そんなに怒るなよ、ミノリ」
「ふん! 怒ってないもん!」
「あー、よしよし。ごめんなー」
「あ、頭を撫でられたぐらいで……ふにゃ〜」
ミノリの顔は一気にふにゃふにゃになった。なんか猫みたいだな……。
ナオトはミノリの頭を撫でるのをやめるとアイのところへ行き。
「その……すまなかった。頭に血が上っちまって」
「いいえ、こちらこそ。私も冷静さを失っていたわ」
「いや、俺の方が……」
「いいえ、私の方が……」
二人は、そのやりとりがおかしかったのか、ほんの少しの間、笑い合った。
二人はその直後、ほぼ同時に手を出して(アイはちゃんと白い手袋を外している)握手をした。
ミノリはいつもの顔に戻ると、ナオトにこう言った。
「それで? これからどうするの? ナオト」
ナオトはミノリの方を向くと。
「うーん、そうだなー。とりあえず、この鎧を外すところからだな」
「え? 外せないの?」
「今までは自分の意思で外せてたんだけど、今回は『ミカン』と無理やり合体したから、それができないみたいだ」
「そうなの? じゃあ、先生に頼めば?」
「え? 先生って……」
「今さっき、あんたが握手した人よ」
「そ、そうか。それじゃあ……」
ナオトは先生の方を向くと。
「すまないが、鎧を外すのを手伝ってくれないか?」
申し訳なさそうにそう言った。アイは、ふっ……と笑うと。
「ええ、もちろんよ。任せなさい」
あっさり承諾してくれた。こうして、ナオトたちは『モンスターチルドレン育成所』にしばらく居座ることになった。