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「―一旦、お前のことを整理しよう。水無瀬音、19歳」
「うん」
「美凪服飾専門学校2年生で、デザイナー志望」
「うん」
「俺と付き合っていて、女子から物凄いモテる」
「そりゃどーも」
「…3日前、学校からの帰り道で、子供を庇って死んだ」
「うん」
「そして、今、幽霊になって戻ってきた…」
こうして並べてみても、未だに夢なんじゃないかと疑ってしまう。でも、夢じゃない。
「…なぁ音、なんで幽霊なんかになって俺のところに来たんだ?」
「あっ、そうそう。お前に頼みたいことがあってさ」
「俺に頼みたいこと?」
首を傾げる。音はんん″っと咳払いをした。
「俺と、死神になってくんない?」
「……は?」
ちょっと待て。死神?魂を刈り取る、あの?
混乱している俺を他所に、音は説明を始める。
「まぁ死神になるっつっても、陽詩がアシスタントで、俺が刈り取るって感じだな。俺は死んでるからいいけど、陽詩はまだ生きてるから魂に触れちゃ駄目なんだ。それから―」
「待て待て待て。死神って、あれだろ?あのー、人を殺して、魂を抜き取る…」
「んー、ちょっとちげーな」
「え?」
よっ、と向かいのソファに音が腰かける。幽霊だからといってものに触れないことはないようだ。
「俺らの場合、導くって言い方の方が正しいかな。殺しはしねーよ」
「導く?」
「そ。死んだ奴の魂って、この世を彷徨い続けることがよくあるんだ。特に事故とか事件とかに巻き込まれた奴って、自分を死に追いやった人間や対象を同じ目にあわせようとする。それが悪霊だ。で、そいつらを駆除して、黄泉の国に導くのが俺らってわけ」
「なるほど…」
つまり、俺たちが思い描いてるような死神ではなく、悪霊を駆除、黄泉へと導く死神ということだ。
「信じらんないんなら、これみせちゃおっかな」
「?」
パンッと音が手を叩く。瞬間、音の手には大きな鎌、背中には黒い羽根、頭には金色の輪が現れた。
「ど?神様がくれたんだぜ、その鴉くん」
「え?…っうわ!」
指をさされ、横を見てみると、隣に真っ黒な鴉がちょこんと立っていた。思わず飛びのく。
「これが任務の時の正装だってさ。鴉くんが神様との伝達役って感じ」
「へ、へぇ…」
鴉が羽ばたき、音の肩に乗る。…おい、距離が近くないか?
不満そうにしていると、音が鴉に「お前、陽詩に恨まれてんぞ」と笑った。いくら動物でも、距離が近いものは距離が近い。
「で、俺と一緒に来るの?来ないの?」
音が試すように言う。
もし俺がここで断った場合、音は多分鴉と一緒に死神になってどこかに行く。それは絶対に嫌だ。そうなったら死神を辞めさせればいい。あ、でも神様とか言ってたよな。…神様?神様ってすごい偉い人じゃん。それはつまり…?え??
「あぁもう、よくわからん…」
「あ、陽詩がパンクした」
「…よくわかんないけど、俺は音と一緒にいたい。だから」
「よし、決まり!」
言い終える前に音が立ち上がり、俺の方に駆け寄ってくる。
「おい、まだ何も言ってな」
「改めてよろしくなっ、陽詩!」
にっと音が笑う。…音が嬉しいなら、まあいいか。
「そうだな。よろしく、音」
恋人と、死神をすることになりました。