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「…ん」
カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。寝返りを打とうとして、ふと何かにあたる。目を開くと、長い睫毛をふせた音が横で眠っていた。
―…夢じゃなかった。
起こさないようにゆっくりと体を起こし、ベッドから降りる。ぐーっと伸びをすると、眠気が引いていく気がした。
顔を洗って、朝食を作り始める。…そういえば3日ぶりの朝飯だったな。幽霊ってごはん食べれるのかな、なんて考えながら目玉焼きとトーストとサラダをテーブルに並べていると、いつの間に起きたのか音がベッドからこちらを見ていた。
「おはよう」
「……」
挨拶をしても、音はじっとこちらを眺めている。
「…何?」
「いや、なんか同棲してるみたいだなって」
不意打ちにどきっとする。よく考えれば、そう見えないこともなかった。
「お、お前、家帰んないの?」
「だって俺の事見えるの陽詩だけだし」
「…ふーん」
それは、音の家族には見えないということになる。少し寂しく感じた。
「ごはんは?」
「んー、食べなくても別にいいっぽいけど、陽詩と食べたいから食べる」
「っ…そ、そうか」
ずるい。色々とずるい。なんだ俺と食べたいから食べるって。かわいいにも程があるだろ!
「?何照れてんの、陽詩」
そして本人は自覚なし。俺の彼女世界一可愛い。
「な、何でもない!それより、早くごはん食べよ!」
「はーい」
二人で向かい合うように座り、「いただきます」と声を合わせる。久しぶりの食事は、いつも以上に美味しかった。
「そーいえば、鴉は?あの後どっか行っちゃったけど…」
「ああ、神様のとこ帰ったっぽい。で、任務伝えにきて、任務が完了したのを見届けたら帰るんだってさ」
「パシリじゃん…」
「鴉にパシリとかあんの?」
「いやあるでしょ」
何の変哲もない、くだらない会話。でも片方は既に死んでいると思うと、不思議に思えた。
食べ終わり、一緒に皿を洗っていると、不意にコンコンと窓がノックされる音がした。―鴉だ。
窓を開けると、丸められた神を咥えていることに気づく。しゃがんでそれを受け取った。
「うわ、紙で伝える系?神様アナログだな」
皿洗いを終えた音が後ろから覗き込んでくる。逆に神様がラ〇ンとかSNS使ってたらどうなんだ…?
「えーと、…”任務を伝達する。〇県△△市の××ビル付近にて、悪霊の目撃情報多数。至急現場に向かい駆除せよ″だって」
「げ、初任務から遠出じゃん…めんどくさい、陽詩だけで行ってきてくんない?」
「お前が死神だろーが」
ツッコむと、音は「はいはい」と仕方なさそうに返事をした。俺を誘ってきたくせにやる気はないらしい。
「じゃ、すぐに向かおう。今日は学校もないし、結構遠いからな」
「うわぁ、いかにもって感じ…」
三本電車を乗り継いだ先にあったのは、さびれた廃ビルだった。周辺は普通の市街地なのに、ここだけ明らかに雰囲気が違う。
「お、鍵開いてる」
音がドアを引くと、壊れているのか、簡単に開いた。
「おい、勝手に…」
「だって入らねーと駆除できねーじゃん。それに俺死んでるし」
「俺は生きてるんですけど…?」
文句を言いつつ、恐る恐る足を踏み入れる。中は至る所に亀裂が入っていて、酷いところは崩れ落ちて穴が開いていた。
「…陽詩、これ見てみろよ」
「え?」
指を差された先を見てみると、黒い液体のようなものが壁に張り付いていた。音が呟く。
「これ、悪霊の一部だ」
「悪霊の一部?」
「そ。悪霊は住み着いている場所に自分の一部を置いたりして、他の悪霊が寄ってこないようにすんだ。動物の縄張りみたいなもんかな」
「へぇ…。ていうか、お前はなんでそんなこと知ってるんだ?」
「あの3日間の間に、神様から色々教わったんだよ」
「そ、そっか…」
今更だけれど、音がこの世のものではなくなってしまった実感がして胸が痛む。
「ま、多分そんな手強い奴ではねーだろ。神様もその辺は考慮してくれ、」
音の声が止まる。不審に思っていると、奥の方から気配がした。
「お、音、」
「わかってる」
ずる、ずる、と何かを引きずるような音が近づいてくる。音が俺の前に立ち、身構える。
「…来たな」
暗闇が薄れ、段々と姿が見えてくる。そして現れたのは、
異様に髪が長い女だった。