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63 ◇調査続行
とても気が進まなかったけれど、いろいろな選択肢を考えるには
やはり情報が必要だと思い、相手の女性のことをその筋のプロに
頼んで調べることにした。
彼女は藤原紀子と言い、当時30才だった私より2つ年下の28才で
驚いたことに結婚して夫もいる既婚者だった。
頼んだ調査会社はとても有能だったようで、藤原の夫に愛人が
いること、その夫との離婚話が進んでいることまで突き止めてきた。
自分も夫に浮気されているというのに、淋しさからとはいえ今度は
私の夫と関係を持つなんて。
人にされて嫌なことは自分も人にしてはいけないのよ、藤原さん!
調査会社から書類があがった時にはすでに彼女は会社に出社しておらず
数日後には退職が決まっていた。
スタッフの追記として、おそらく近々彼女たち夫婦の離婚が決まる
のではないかと思われると記されていた。
私は調査依頼をここで止めず、この先の彼女の動向が知りたくて
調査続行をお願いしていた。
そしてその後の調査報告書から藤原紀子が本当に離婚し旧姓の
大宅紀子(おおやのりこ)に戻り郷里へ帰って行ったことを知った。
これで夫と女の繋がりが本当になくなった。
あの騒動から2か月が過ぎていた。
たった2か月の間のことなのに1年とまでは言わなくとも、もっともっと
長い時間に感じたのだった。
この間の夫のこと娘のことそして調査結果と、自分の精神状態を鑑みて
私は自分の進むべき道を決めた。
そのまま、それまで通り3人の暮らしを続けていこうと。
夫から娘への愛情は深くて大きい。
傍目で見ていても痛いほどよく分かる。
夫の娘を見る眼差し、娘に対する所作と声音、どれひとつ取ってみても
溺愛という言葉がこれほど当てはまる事象もあるまい。
もちろん私への接し方も以前と変わらず丁寧でやさしい。
不穏な種は遠い地へと飛び去って行った。
おそらくは夫と彼女との関係がその後復活することはないと思われる。
私は夫との婚姻関係を続けることにした。
分かっていた。
これまでのような一途な気持ちで夫に向かっていけないであろうことは。
けれどいろいろなモノを天秤にかけ、私はこの道を選ぶことにした。
おそらくは夫もそして私もできるものならと、第2子を望んでいたが
結局子供は娘の眞奈1人で終わってしまった。
原因ははっきりしていて、私がどうしても夫を受け入れることが
できなかったから。
いつかはと、私こそが望みをかけていたけれど
今日までそんな日は来なかった。
気持ちでは許しているつもりでも身体が夫を受け付けないのだから
どうしようもない。
64 ◇墓参り
産後しばらくして落ち着いた頃に、私は蓮さんのお墓参りに出掛けた。
彼の墓は彼が勤めていたお寺に建っていた。
しばらく手を合わせ、立ち上がると馴染みの顔である住職の奥さんの
小夜さんから声を掛けられた。
「どうです、お子さんは元気ですか?」
「はい、お陰様で元気に育ってます」
「あなたの元の旦那さんと上手くいってますか?」
小夜さんの質問に私は心底ビックリしてしまった。
「あのぉ、どういうことでしょうか?
何故小夜さんが元夫のことを……」
「実は樋口さん、このところちょくちょく蓮さんのお墓参りに来てますよ」
私は小夜さんの言葉に驚くしかなかった。
瑛士さんが私たちを訪ねたばかりかよもや蓮さんの墓参りまでしていたなんて、
誰が想像できただろう。
はぁ~、一体ほんとにもうどういうつもりなんだか。
「あの人ね、あなたの元旦那さん、とっても本心から反省していると
思いますよ。
私のほうから声をかけてお話させていただいたのだけれども彼、かなり
憔悴してましてね。
まぁ、その姿を見てきっとあなたと今もあまり上手くいってないのだろうと思いましたが」
「実は数日前に私とやり直したいと私の実家に彼が来ました。
母が間に入りまして、返事はひとまず保留という形になっておりますが
私はもう断るつもりでいます。
だって私にとつて彼はもう過去の忘れてしまいたい存在でしかないんです」
「そうでしたか。
あなたの気持ちを察して、蓮さんにあなたとの復縁が上手くいくよう
お願いするためもあってああやって頻繁に蓮さんのお墓にいらしてたのかも
しれませんね。
何かいじらしいわね。あっ、ごめんなさい。
あなたから見ればこんなこと言うと不謹慎かもしれないのに。
でも、どうしてかしら?
あの人を見ていると応援してあげたくなっちゃって。
蓮さんもなかなかいい男振りだったけど、あれね、あなたの元の旦那さんも
とってもカッコよくてチャーミングな人ね。
見た目だけじゃなくてすごく人を惹きつける雰囲気も持っていて」
はぁ、イケメンでチャーミングでってどうでもいいんですけどぉ~。
浮気するような人間はいらないんですぅ。
観賞用っていうか、自分の夫でなければそういうのもいいのかも
しれないけど、こと自分の夫となればそういう良い見かけと魅力的な性格で
余所の女性たちに魅力アピール振りまいて粉掛けるような男は困るんですよねぇ~。
私の心の叫びなどお構いなしに更に小夜さんが話を続けた。
#夫婦
コメント
1件
第22話、読み終わりました。調査会社のプロっぽさと、感情的にならず淡々と進める主人公の強さが印象的でした。「身体が夫を受け付けない」という一文に、理屈じゃない心の傷の深さが感じられて胸が痛みました。そして小夜さんの「いじらしい」発言には思わず苦笑。第三者から見た元夫の印象が、また複雑な気持ちにさせますね。次も続きが気になります。