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65 ◇ 眞奈の葛藤
「そんなにあなたとこの先も一緒にいたいと言っているのなら、どうかしらねぇ、
もう許してあげることはできませんか?」
もうほんとっ、信じらんない。瑛士ったらこんなアラ還の女性まで
自分の味方につけるなんて、なんて人なの。
変な言い方だけど改めて瑛士の雄としての魅力に脱帽するしかなかった。
「私はもう昔の私ではないんです。
今は蓮さんとの息子もいますし、そう簡単にはいきません。
息子と元夫はなさぬ仲という間柄になります」
「世間ではちょくちょくあるようだけど、子供への虐待だとか?」
「そうですね、オオバーに言うとそういうことも含めて彼が息子にとって
障壁になる可能性を危惧しています」
「彼がお子さんのことを溺愛することまでは何とも、流石の私にも
判断しかねますが、あなたと離れていたくないこの先ずっと一緒にいたい
という意志を持っていることは強く伝わってきましたよ。
今このまま突き放してしまえばどうでしょうね、彼は生きてはいないかも
しれませんね。
こんなことを常人のあなたに言うのは憚られますが、もしそんなことに
なれば因を作ることになり、それはあなたにとってもよくないですからね」
小夜さんはそんな恐ろしいことを私に話してきた。
愛のなくなった相手とこの先も一緒に暮らせと?
ぐらっと眩暈がした。
私は恐れていたのだ。
私への復讐を元夫が子にするのではないかという恐れ。
そんな私の恐れをこの人には理解できないのかもしれない。
だからといって彼の死を願うほどまでは元夫のことが憎いわけでもない。
彼に話を保留にしていた母。
父と話し合った結果、父も母と同じ意見らしい。
まぁ、父は直接私に何も言ってはこないけれど。
母からそのように聞かされたのだ。
けれど、最終判断は私に任すと母は、言ってくれた。
そして今回の小夜さんからの話。
私は結局両親の勧める意見を聞いてもやはり気持ちは変わらないで
いたのだが。
どちらにしても一度瑛士さんに会わなければならない、と思った。
66 ◇瑛士の涙
私は元夫に連絡を入れ、ひとりで会いに行った。
話し合いにそんな時間は掛からなかった。
最初から話すことはそう多くはないと分かっていたので、以前ふたりで
行ったことのある、前に暮らしていた家からも比較的近場の大きな公園で
会った。
広い駐車場があるのときれいなトイレがあって、喉が渇けば自販機もある。
疲れたらテーブル付きの椅子だって広場にある。
お腹がすいたらちょっと軽食を食べられる喫茶までそこにはあった。
お茶するような時間もいらないと私は考え、広場のテーブルを挟んで
話すことにした。
「来てくれてありがとう」
「ごめん、両親はやり直してみたらっていう意見だったんだけど、
それで私も私なりによくよく考えて、やっぱり再婚は無理かな。
あはっ、答えが出てるのに長居もなんだから私帰ります」
さっき座ったばかりだったけど、気まずいのは嫌い。
だから、私は躊躇せず、さっさと帰ることに決めた。
私が帰ろうとすると元夫は切なくギリギリの声音で私の背に向けて叫んだ。
「俺を捨てないでくれ!俺の側にいてほしい!
大きな保険に入る。
俺が死んだら巨額の保険金が君に入るようにする。
この先、小遣いもいらない、一生懸命働いて金を溜める。
貯金の名義は君と子供にしてくれていい。
一切遊びには行かない。
この先の俺の時間は君と子供に捧げるよ。
だから……だから、考え直してほしい」
「……さよなら」
それだけ言って私は一度も振り向かずその場を後にした。
最後の瑛士の切羽詰まった振り絞るような声音が頭に残っていた。
しようがないじゃない、いくらお願いされても今更なのよ。
67 ◇もう駄目かもしれない
眞奈が、これほどまでに拒否るなんて。
もうこれで完全に詰んだんだと思う。
どう言っても、何を言っても彼女の耳には心には響かないのだ。
もう俺、駄目かもしれない。
公園にひとり取り残されていた俺は心の中でこのセリフを
何度も何度もリフレインさせていた。
そんな俺は気がつくと、自分の家のリビングで呆けていた。
何か、もうこれで俺の人生そのものも詰んだような気がして
抜け殻の俺がそこにいた。
ピンポーン♪ ピンボーン♪
出たくない、今の俺には人と対面する気力なんかない。
インターホンに出ないで放置していたら聞き覚えのある声が耳に届いた。
「瑛士さぁ~ん、いないの? 私よ、わたし!」
それは義母の声だった。
急いで玄関に走る。
ガチャリ。
「ねぇ、今日どうだったの?」
入って来るなり義母は俺にそう聞いてきた。
眞奈はとっくに家に着いてるはずだから娘に聞いてくれよ、
なんて憎たらしいことを思った。
◇ ◇ ◇ ◇
眞奈は私たちの意見も聞いた上で、やっぱり瑛士さんとの再婚は考えられ
そうもないので断るつもりだと言って出かけて行った。
そしてあっという間に帰ってきた。
だけど様子がおかしい。
全然すっきりした様子をしておらず、将大の顔をじっと見つめたまま
落ち込んでる風なのだ。
断って瑛士さんに何か言われたのか?
それとも断ったことを後悔しているとか?
「眞奈、どうだったの?やっぱりお断りしちゃった?」
「瑛士さん、めちゃくちゃ痩せててびっくりしたわ。
私のせいなのかなぁ。
私のせいであんなにガリガリになられたら、どうしていいのかもうほんとっ」
眞奈は寝ている将大の手に触れたり、頭に触れたりしながら
ずっと心ここにあらず状態で物思いに耽っている。
そんな娘の様子を見ているうちに矢も楯もたまらなくなって
私は瑛士さんの家に向かった。
コメント
1件
設楽理沙さん、こんにちは、みぅです🌙 第23話、読み終わりました……。公園での瑛士さんの「俺を捨てないでくれ」、胸に来るものがありました。保険や貯金、自分の時間を全部捧げるって、もうほんと必死なんだなって伝わってきて。でも眞奈が「しようがないじゃない、今更なのよ」と背を向けるシーン、そこにはちゃんと線引きがあるのが切なかったです。ラスト、お母さんが瑛士さんの家に向かうところで物語が動きそうな予感がして、続きがすごく気になります。