テラーノベル
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42
・BEAST軸
・多分太中
・キャラ崩壊!!
BEASTの4巻だけ読んでないので結末が詳しく分っていません。
夜の首領室は、静かだった。 窓の外には横浜の灯り、 机の上には、開いたままの書類。 そして、空きかけの酒瓶。 中原はソファへ深く腰掛け、グラスを傾けていた。 向かいにはポートマフィア首領 太宰治。 いつもなら太宰はもっと煩い。 人を小馬鹿にしたみたいに笑って、 どうでもいい話を延々続けて、中原 を苛立たせる。だが、 今日は、静かだった。 酒を飲むペースも何時もより早く、最上階の首領室から見える横浜の街よりずっと遠くを見ていた。
「⋯⋯おい」
中原が呼びかけると遠くを見ていた太宰が漸く此方を向く。
「ん?」
「今日は随分と辛気臭れてるじゃねぇか」
「そう?中也は何時もに増してジメジメしているね。蛞蝓みたいだ。」
口調はいつも通りだが、中原は 七年も太宰の相棒で居れば分かった。 太宰はもう直ぐで居なくなるのだろう。 喉の奥が熱い、 嫌な予感がずっとしていた。 最近の太宰は、時々酷く静かだった。 まるで役目を果たした人造人間のような目をしていた。太宰が首領になる四年前までのサボり癖や自殺趣味も無くなった。酒の入ったグラスを見つめて、 酒を煽る。 アルコールが胃を焼くのに、全然足りない。 太宰は窓の外を見つめ直し、中原を呼ぶと、中原も此方を向き直した。
「君は、私が居なくても生きていけるかい?」
中原は飲もうと口に運んでいたグラスが止まる。 部屋が静かになり、少しの静寂が響いた。すると 太宰は冗談っぽく笑った。
「いやぁ、ほら。首領の仕事って大変だからさ」
中原は答えず、 ただ、じっと太宰を見つめる。 その横顔。 太宰は酒で少し赤くなっている顔に少しの哀しみが混ざっていた。中原 は再度グラスを持ち上げる。 それから、低く言った。
「⋯⋯心配すんなよ」
太宰の視線が動き、中原 はグラスを見たまま続けた。
「組織は俺が導いてやるよ」
太宰の目が、ほんの僅かに見開かれる。中原 は笑わない。 ただ、 震えそうになる喉を無理矢理押さえ込んでいた。
「全て上手くやっといてやる」
何故か太宰にはそんな顔をして欲しく無い中原は気を遣った。 太宰は此方を見つめたまま数秒黙って、小さく笑った。
「⋯⋯何の話?」
中原は舌打ちをする。
「手前、そういう所ほんっとクソだな」
声が掠れているが、 太宰は何も言わない。 部屋の静けさが痛い。中原は 俯く。今、 分かってしまった。 此奴は本気なんだと。 もう戻って来ないつもりだ。 今の太宰は、役目を果たした人間の顔をしている。恐らく、今日が最後なのだろう。 中也はグラスを強く握る。 力を入れ過ぎて、革手袋がギチギチと音を立てている。
「⋯⋯なぁ」
掠れた声で太宰を呼ぶと 太宰も此方を見る。中原 は顔を上げないまま言った。
「今日くらい、感情ぶつけろよ」
その言葉で、今まで苦笑いをしていた 太宰の表情が止まる。 中也は唇を噛み泣くのを誤魔化していた。 怒鳴りたい。 殴りたい。 死ぬなと言いたい。だが、 太宰が何の為にここまで来たのか、少し分かってしまうから。 全部飲み込むしかない。
「一人で勝手に哀しんでる顔してんじゃねぇよ⋯⋯」
先程よりも震える声に気付いているはずなのに 太宰は、黙ったままだった。中原 は俯いたまま続ける。
「手前が何抱えてるかなんか、俺には検討も着きやしねぇ⋯」
「だが⋯⋯」
喉が詰まる。 それでも無理矢理、言葉を押し出した。
「七年も手前の相棒として隣に居たんだぞ⋯⋯」
声が、崩れる。
「そのくらい⋯⋯分かるに決まってんだろ⋯⋯」
太宰は、しばらく何も言わなかった。 首領室には時計の音だけが響いている。中原 は俯いたまま、グラスを握っていた。 震える指を見られたくなかったが、 太宰にこんな顔を見せたくなかった。 なのに喉の奥が熱くて仕方がなかった
「⋯⋯中也」
静かな声。中原 は顔を上げない。 上げてしまえば涙が重力に倣って落ちてしまいそうだった。 太宰は困ったみたいに笑う。
「君って時々、変な所で鋭いよね」
「うるせぇ⋯⋯」
太宰はグラスを手に持ち中の酒を揺らす。 臙脂色が静かに波打つ。
「私はね」
ぽつりと落ちる声。
「最初から、こうする為に生きてきたんだ」
中原の肩が揺れる。
「織田作が生きて、小説を書く世界」
太宰は再び窓の外を見る。
「それだけが、私の願いだった」
静かな声だった。 あまりにも静かで、 もうすぐいくのが嫌でも分かる。中原は 奥歯を噛む。 嫌だった。 その声が。 太宰は薄く笑う。
「だから、後悔はしてないよ」
その瞬間。中原 が顔を上げる。 碧い瞳が揺れていた。
「嘘つけ」
太宰の動きが止まる。中原 は睨む。 でもその目は、今にも泣きそうだった。
「後悔してねぇ奴が、そんな顔で酒なんか飲むかよ⋯⋯」
部屋が静まる。 太宰は目を逸らした。 初めてだった、中原の前で逃げるみたいに視線を外した。中原 はそれを見てしまった。 だから分かってしまう。 太宰も、苦しいのだと。 全部割り切っている訳じゃないのだと。中原 は立ち上がり、 ふらつきながら太宰の前へ行く。 それから乱暴に、太宰の胸倉を掴んだ。
「だったら⋯⋯っ」
「だったら、そんな顔すんじゃねぇよ⋯⋯!」
太宰の目が僅かに見開かれる。中原 はもう止まれなかった。
「俺ァ、手前が全て置いていくの見て、素直に納得出来るほど出来た人間じゃねぇんだよ⋯⋯!」
二人の目が滲む。だか拭わなかった。
「織田の為だとか、世界の為だとか⋯⋯そんなの知るか⋯⋯!」
胸倉を掴む手に力が入る。
「俺はっ⋯⋯」
そこで声が崩れた。 中原は唇を噛む。 泣くな。そう自分に言い聞かせる だが、そう思えば思うほど目には涙が溜まる。
「⋯⋯俺は、手前に生きててほしいんだよ⋯⋯」
太宰は何も言わない。 ただ中原を見る。 泣きそうな顔で、 怒って、 縋るみたいに自分を掴んでいる中原を見て、 平行世界の記憶が、脳裏を過る。 どの世界でも。 中原は、自分へこんな顔をしていたのだろうか。 太宰はゆっくり目を伏せる。 そして小さく笑った。ひどく、苦しそうに。
「⋯⋯ずるいなぁ、中也は」
その声が今にも泣きそうだった。 太宰の胸倉を掴んだまま、中原は俯いた。 指が震えている。泣きたくない。 でも、もう喉の奥が限界だった。 太宰は何も言わない。 ただ静かに、中原を見ている。 その視線が中原には痛かった。 優しい訳でもないのに。 これが最後だと思うと涙が出そうになる。 中也は唇を噛む。 それから、掠れた声で呟いた。
「⋯⋯でも」
息が詰まる。
「手前が、そう決めたんだろ⋯⋯」
太宰の瞳が揺れる。中原 は笑おうとした が、失敗して 歪な顔になる。
「なら⋯⋯俺には止められねぇよ⋯⋯」
その言葉は諦めではなく、理解だった。 太宰が、どれだけのものを捨ててここまで来たのか。 どれだけ苦しんで。 どれだけ削って。 それでも此れが選んだ道だった。 七年隣にいたら嫌でも分かってしまう。 だから「死ぬな」と言言ってしまえば、今迄の太宰の頑張りが無駄になってしまう。そしたら屹度、 太宰はもっと苦しそうに笑う。 中原はそれが嫌だった。 太宰はゆっくり、中原の胸倉を掴む手に触れる。 昔なら振り払っていたかもしれない。 でも今はそっと包むみたいに握った。
「⋯⋯中也」
ひどく静かな声。 中原は俯いたまま、小さく首を振る。
「喋んな⋯⋯」
「今、手前の声聞くと⋯⋯」
駄目だ。我慢が出来なくなる。 太宰は黙る。 中原の肩が、小さく上下している。 必死に堪えているのが分かる。 太宰は、その姿を見つめる。 胸が痛かった。 自分は、またこの子を傷付けている。 最後の最後まで。 太宰は苦しそうに目を細めた。
「⋯⋯ごめんね」
中原の肩が跳ねる。 太宰は続ける。
「君を、一人にしてしまう。」
その瞬間、中原の顔が歪んだ。 とうとう耐え切れず、涙が零れる。 ぽた、と太宰の手へ落ちた。 中原は俯いたまま笑う。 酷く、弱い笑いだった。
「⋯⋯今更だろ」
「手前、ずっと勝手じゃねぇか⋯⋯」
太宰が小さく息を呑む。 中原は涙を拭わない。 もう隠す余裕も無かった。
「俺の事勝手に拾って、勝手に利用して⋯⋯」
喉が震える。
「勝手に傍置いて⋯⋯」
そこで声が崩れた。
「何時も勝手だった癖によ⋯」
太宰は、何も返せなかった。 返せる言葉なんて、持っていなかった。 ただ中原の涙を見る事しか出来なかった。 それが、あまりにも苦しかった。 太宰は中原の涙を手で拭うが、中原の涙は、止まらなかった。 ぽた、ぽた、と 太宰の手へ落ちていく。 それなのに中原は、声を上げて泣かなかった。 ただ俯いたまま、歯を食い縛っている。 その姿が太宰には、たまらなく苦しかった。
「⋯⋯中也」
呼ぶ声が掠れる。 中原は首を振った。
「だから⋯⋯喋んなっつってんだろ⋯⋯」
震える声。でも 突き放せていない。 太宰は目を伏せる。 平行世界の記憶が、また脳裏を過る。 喧嘩する二人。 悪戯をして笑い合う二人。 互いの隣へ立つ中原二人。 どの世界でもこんな風に泣かせたりしなかった。 少なくとも自分が死ぬせいで、こんな顔はさせなかった。 太宰はゆっくり口を開く。
「中也は、優しいね」
中原がぴくりと肩を揺らす。
「何処がだよ⋯⋯」
中原は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、笑う。
「優しかったら⋯⋯手前を殴ってでも止めてるさ⋯⋯」
その言葉に太宰の胸が軋む。 中原は俯いたまま続けた。
「でも、止められねェ⋯⋯」
喉が震える。
「それが手前の出した物なんだろ⋯⋯」
静かな部屋に、その声だけが落ちる。 太宰は何も言えない。 中原は、全部分かってしまう。 ずっとそうだった。 自分が隠したい所ばかり、見抜いてくる。 太宰は丁寧に中原の涙を拭っている。 でも次から次へ溢れる。
「⋯⋯クソ」
小さく悪態を吐く。
「こんな顔、見せたくなかったのに⋯⋯」
太宰の喉が詰まる。 本当に最後までこの子は、自分の前で格好つけたがる。 太宰は苦しそうに笑った。
「中也」
「⋯⋯あ?」
「君、今すごく酷い顔してるよ」
中也が涙目のまま睨む。
「うるせぇ⋯⋯」
でもその声で、太宰は少しだけ安心してしまった。 太宰はそっと手を伸ばし、中原の頬へ触れる。 中原は逃げなかった。 ただ、太宰を受け入れるように目を閉じる。 太宰は、そのまま親指で涙を拭った。
「⋯⋯ごめんね」
また謝る。それと一緒に中原の眉が歪む。
「謝んな」
「でも⋯」
「謝られっと⋯⋯許さなきゃいけねぇみてぇだろ⋯⋯」
その言葉で、 太宰の呼吸が止まった。中原 は震える声で続ける。
「俺ァ、まだ手前に腹立ってんだよ⋯⋯」
「仕事を放り出して何処かへ逃げ回ったことも」
「勝手に全部背負って、勝手に死のうとしてる事も⋯⋯」
声が掠れる。
「全部、許してねぇ⋯⋯」
太宰は目を見開く。中原 は泣きながら笑った。
「だから⋯⋯」
「次は勝手な真似するんじゃねぇぞ⋯糞太宰⋯⋯」
二人は夜明けまでお互いの涙を拭い、お別れの言葉を言っていた。 その夜、太宰はポートマフィア最上階から飛び降り、この世を去った。
その後、中原はポートマフィア首領となり、太宰と交わした約束を守りながら組織を纏めていた。
疲れました。二度とこんな長文なんて書いてやるか。
2026/05/24 23:55
2026/07/23 05:47 リメイク
計4,638文字
コメント
2件
こんな長いの久しぶりに書いた。 殆ど改行のせいだけど。