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保健室へ向かう廊下の途中で、紗良がふいに立ち止まった。
「……茅野さん、いや……泉」
呼び方を変えた声は、どこか震えていた。
泉が振り返ると、紗良はぎゅっと拳を握りしめていた。
「助けてくれて……ありがとう。泉、水かけられちゃったね、ごめん」
「全然大丈夫だよ」
泉が笑って返すと、紗良は一瞬だけ目を伏せた。
「なんで……助けてくれたの?」
その問いは、強がりでも疑いでもなくて、“信じたいのに信じきれない自分” を責めるような声だった。
泉はゆっくり言葉を選んだ。
「……なんか、抱えてるように見えたから。過去のことは知らないけど、住田さん……誤解だって言ってたじゃん」
紗良の肩が小さく揺れる。
「私はあの二人組より、住田さんを信じたいなって」
その瞬間。
紗良は何も言わず、泉をぎゅっと抱きしめた。
「えっ……!」
突然の温もりに、泉の心臓が跳ねる。
紗良の声が、泉の肩に落ちた。
「……ありがとう。私のこと、紗良って呼んで」
泉は少し驚きながらも、そっと腕を回した。
「こちらこそ。よろしくね、紗良」
二人の距離が、確かに近づいた瞬間だった。