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黄色い少年の備忘録(前編)──────────────────
◇ワンクッション◇
キャプション必読。
こちらはとある戦/争.屋実況者様のキャラをお借りした二次創作です。
ご本人様とは一切関係ございません。
・作品内に登場するすべては誹謗中傷/政治的プロパガンダの目的で作られたものではありません。
・公共機関では読まないようにご配慮下さい。
・あくまで一つの読み物としての世界観をお楽しみください。
・作品/注意書きを読んだ上での内容や解釈違いなどといった誹謗中傷は受け付けません。
──────────────────
s h a 視点
今日も今日とて元気に拳を奮われていたこの頃。
化粧の濃いおばさんとも呼ばれる女が、部屋から愉快な音を鳴らしながら、襖を開けたところだった。
傷を庇うように起き上がると、家の裏口からバレないよう、こっそりと出ていった。
家にいても、飯はやってこない。
普通の子どもならば柔らかく白い米と、暖かく優しい味のする味噌汁が出てくるだろう。
生憎ながら俺は普通の子どもではないので、自分の飯は自分で調達しなければならない。
飯は出てくると言えど、何日も経って黄色くなってしまった米で作った握り飯に、茶色く変色した漬物くらいしか出てこない。
そんなものを食べていては、厠とお友達になってしまうだろう。(胃は強くなるだろうが。)
そんな飯を食いたくなければ、自分で調達するしかないのである。
一度、いや何度かあるか、その飯を食した時、腹を壊し嘔吐のしすぎで吐血したことを思い出す。
あの時は割と本気で死ぬかもしれないと思ったのはここだけの話である。
という訳があって飯を調達しなくてはならない。
裏口から出て、家の敷地から退散するには、草が生い茂った、手入れされていない裏庭を通る必要があった。
ぼうぼうに生い茂った草は足を切り、毒虫やら毒蛇やら、襲いかかってくる。
素足にはちと、キツイものがある。
だが、ここを素足で通るのは何十回とあるのだ、こんもの、慣れてしまえばどうということは無い。
そう思い、早速足を一歩、出したところで、どこからか声が聞こえた。
くぐもった吐息に、殺した声、水音も聞こえる。
その音楽は聞くに絶えないほど下手くそだったので、楽器を奏でるその音を止めようと近づくと、瞳と共に零れ落ちそうなほど目を見開くと、その子どもは固まった。
何故か瞳がとても潤んでいた。
「お前、ここで何しとんの?」
「ここおったら蛇やら虫やら…噛まれんで」
「俺も一回噛まれたことあんねんけどな、そん時めっちゃしんどかったわ」
「そないな事なりたくないんやったらはよ帰り」
「っ…、…い、嫌やっ…!」
「帰りとうない…!帰ったら訓練や、って言うて魔法の練習いっぱいして、上手く出来んかったら殴られるっ……!」
よく見ると、少年の身体には鞭で打たれたような傷があった。
しかし、それだけである。
毎日、日常と化した理不尽な暴力を受けてきたシャオロンからすれば、何がくるしいのか、何が辛いのか、何が悲しいのか、分からなかった。
わかる事は、ただ涙を流していたとしても、現状は変わらないということだけ。
だが、こうやって目の前で泣かれてしまうと、少々罪悪感が湧く。
仕方なく少年にシャオロンは寄り添った。
ここまで人に近づくのは、殴られる事を除いて、初めての事だった。
「はぁ?痛いからなんやねん」
「やっ、やから…!痛いのもう嫌や…、…!!」
「痛くても俺は泣かへんけど?」
「泣いてても、なんも変わらんやんけ」
「泣いとる暇あるんやったら今動いて頑張って変えるしかないやん」
「っ…、…!」
この小さな少年は俯いていた顔を上げる。
マゼンタ色の美しい瞳をした、端正な顔立ちだった。
その瞳は、キラキラと輝いていて、お星様のよう。
「俺はお前のことが羨ましいけどな」
「?なんで」
「魔法教えて貰ってんねやろ?」
「俺はなんも教えて貰えんし、精々使えるんは固有魔法くらいやで」
「俺は魔法のこともっと知りたいねん」
「…ほんなら、俺が教えたろか?」
「え?」
這ってきた蛇を素手で持ち、引きちぎって頭を捨てた。
まだ意識が残っていたのか、べちべちと尻尾で地を叩いて、肉片を飛び散らせる。
そんな様子を眺めていた俺は、視線を蛇からその少年の方に向け、話を聞いた。
「え、ホンマ!?」
「ホンマに言うてるんよな!??」
「ホンマやで」
「俺、さっきも言うたけど、魔法の訓練してるしとるねん」
「やからある程度教えられる」
「なら頼むわ!!」
「俺な、魔法がめっちゃ好きやねん!やってさ、魔法ってな?めっちゃ辛くて苦しいとき、その苦しみを和らげてくれるやん!」
「…?それは俺にはわからんけど、魔法が好きなことだけはわかったわ」
「明日、またこの時間にこの場所に来れる?」
「おん!撃たれても刺されても行くわ!」
「いやそれは来んといてくれ」
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s h a 視点
という事があった。
それからというもの、ロボロはこうやって俺のことを助けてくれている。
透明になれる魔法を使って、ここ、宗家の家までやってくる。
コイツは魔力の量が多く、分家にも宗家にも期待されている。
その期待が、コイツにとっては重荷だったのだろう。
期待されているからこそ、資質があるからこそ、魔法の訓練を行い、将来への投資をする。
期待というものは、時には毒にも、薬にも成るのである。
「ありがとうな、ロボロ」
「ん、どういたしまして」
救急箱に消毒駅やら、包帯やら、ガーゼやら、何やらを閉まっていく。
ものの数分で俺は白色の布に巻かれた包帯人間が完成した。
毎日拳を振るわれれば、そうなってもおかしくはないが。
「な、なぁ!ロボロ!」
「はよ魔法教えてや!」
「今日は身体能力の強化魔法、教えてくれるんやろ!?」
「俺元々身体だけは強いから、たのしみやねん!」
「はいはい、ほなあっこ行こか」
俺とロボロはこっそり抜け出し、裏庭へと続く道を歩む。
”あっこ”とは、俺たちが初めて会った場所、俺が外に出るために通る裏庭のことである。
裏庭と口に出してしまえば、宗家の人間が訝しむなんてことは目に見えていた。
要するに、隠語なのだ。
この半年間、魔法を教えて貰い、俺はある程度魔法を使えるようになってきた。
最初は指先から炎を出すだけの魔法を小さな風を起こすだけの魔法を教えて貰った。
今では業火を出す魔法だったり、嵐を吹かせる魔法を使えるようになった。
だが、やはり俺は細かい魔力の操作に向かないのか、攻撃魔法くらいしか覚えられなかった。
防御魔法も一応覚えたと言えば覚えたが、簡単な基礎のもののみ。
その状態をみて、ロボロは俺に魔法での戦いは合わないことがわかったのだろう、接近戦をやってみたら、と言っていた。
魔法士同士の戦いは基本的に遠距離で戦う。
魔法は、言わばライフル銃や弓みたいなもの。
魔力はその弾丸や矢のようなもの。
だから魔法士同士の戦いは遠距離での戦いになる。
今回教えて貰うは身体能力の強化魔法。
俺は身体を動かす方が好きだし、得意なので、会うのではないか、という判断だ。
そうこうしている内に裏庭へと着いたので、さっそく魔法を受講してもらう。
「身体強化」
淡い光を放ちロボロの身体を覆ったと思うと、光は時間をかけて収まっていき、馴染むように身体に魔力が染み込んで行った。
ロボロは、足で蹴るようなモーションをすると、風圧で木が何本か折れて倒れていく。
木が倒れた振動で身体に鈍い音が伝わる。
「こんな感じやな!」
「俺はこういう接近戦があんまり得意やないから、これくらいしかでけへんけどな…」
「本来の威力やったら地面叩き割れるレベルらしいで!」
「へー!そうなんや!」
「ロボロ!はよ教えてや!」
「まあまあ、そんな焦らんといてや!」
「この魔法はな、魔力をエネルギーに変換してそのエネルギーを使って身体能力を引き上げんねん」
「人間がこれだけ動けるようにするとなると、莫大なエネルギーが必要になる」
「そのエネルギーの変換効率が良ければ良くなるほど身体能力は引き上がる」
「俺はそのエネルギーの変換効率がめっちゃ悪くてな、こんくらいしか出来へん」
「本来なら俺はこの魔法を使えへんねん」
「え?でも使えとるやん」
「なんでなん?」
「俺の強みはなんやと思う?」
ロボロは俺の方を振り返り、初めて会った時、着けてはいなかった”天”と書かれた布面を靡かせて、そう問うた。
布面の隙間から垣間見る瞳は、ぎらぎらと燦めいている。
「魔力…?」
「そう!」
「俺はエネルギー変換効率が低い、けど、魔力が多いから変換効率が低くても使える、ってわけや」
「使えると言ってもエネルギー変換効率が変わるわけやないから、こうやって本来の魔法には劣るけどな」
「なるほどな」
「で、お前は俺とは違って魔力がそんなに多くない」
「一言腹立つな」
「やけど、その代わりに」
「身体能力の強化魔法に関してだけは、お前はエネルギーの変換効率が高い」
「ほーん?」
「例えば、俺が魔力10でこの魔法を使えたとして、お前はざっと魔力100でしか使えん…って感じ?」
「そう言うことや」
ロボロはヤンキー座りのようにしてしゃがむと、石を持って地面に絵を描いていた。
「まあ取り敢えずやってみ」
「うい」
俺は魔力を練ると、ゆっくりと、布が水を吸うように、魔力を身体全体に染み込ませる。
身体から漏れ出た魔力が、たんぽぽの綿毛のようにして中に浮かぶ。
すると、浮いていた魔力が吹き上げる嵐のようにして俺を中心に周り、ぎゅっ、と身体に集まった。
「身体強化」
「…おん、ええ感じやん」
「そのままそこの木、蹴ってみ」
ロボロの言われた通りにして近くにあった木を蹴ってみると、木がばっきりと折れ、風圧で髪が揺れるのを感じる。
「初めてにしては凄いな」
「一言余計や」
「その調子で魔法を使い続けたらもっとエネルギー変換効率が上がってとんでもないくらい身体能力が引き上げられるはずや」
「やから、これからはその魔法をひたすら使ってみ」
「そしたら…お前めっちゃ強い魔法士になると思うで」
「わかったわ!」
「ありがとうな!」
「んふふ、どういたしまして」
「ほな俺は魔法の訓練あるから帰るわ」
「今日は短くてすまんな」
「別に大丈夫やで!」
「また明日な!」
背を向けて、振り返らず手だけ振り返すと、歩を早めた。
俺はロボロを見送ると、もう一度魔力を込める。
そして、息を吐いた。
「身体強化」
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s h a 視点
あれから更に一年半が経ち、ようやくロボロと同じくらい強くなった。
最近の組手ではロボロから何本も取れるようになったし、近接戦では俺の方が強くなった。
遠距離戦ではボコボコにやられているのはここだけの秘密である。
「ふっ!!」
「今のも避けるんか…!」
足払いからの上段蹴り。
ぶおん、と風音を鳴らし空を蹴ると、今度は俺が蹴りをかました。
顔面を狙ったが、しゃがんで避けられると、拳が飛んできた。
ロボロは俺よりも小さいので、拳が低いところにくるから地味に避けにくい。
この一年半、俺は身体能力の強化をメインにし、ロボロと組手をして体を慣らしてきた。
「ふ、はっ!お前ホンマに強なったよな!」
「おかげさまで、な!!」
真正面から戦っても十分勝機はあるが、どうせなら新しい方法で勝ちたい。
組手終わり、ロボロがぽつりと零した事なのだが、一流の魔法士はフェイントも入れて戦うと聞いた。
そのフェイントを試してみたかった。
腹の辺りにくる拳を避け、ロボロの目(布面で隠されているが)を見て、右の拳をぎゅっと握る。
右から拳がくると思わせてからの下段蹴り。
よっしゃいけるぞこれ、と思ったところで、視界が反転した。
「え───?」
気付いたらロボロに転がされていて、なにがどういうことかわからなかった。
ロボロに負けた事だけはわかった。
「んふふ、あんさんフェイント入れよったやろ」
「めっちゃ上手かったで?」
「けど俺には通用せえへんな」
「もう二年くらいお前とおんねんから、、お前の癖くらいわかる」
「は?癖?」
「そ」
ロボロは俺の目の前に手を差し出すと、俺はその手を取りぐっと掴む。
立ち上がって土を払うと、木の下に置いてあったタオルと水を取って片方をロボロに渡す。
「お前、嘘とかつく時目ぇバカみたいに見て合わせてくるやん」
「話するときは普通に目ぇ合わせるだけやねんけど、嘘つく時は合わせる+見るやからな」
「え、ガチ?」
「ガチ」
「普通は目ぇ合わせへんのやろうけど、お前はその逆やな」
「目合わせて信じ込ませようとしてくる」
「ま、普通の人やったらわからんやろうけどな」
「うわめっちゃ悔しい…!」
「ロボロに一枚やられたわ……!」
「んふ、最近お前に負けてたこと多かったから嬉しいわ」
「次も負かしたるからな」
「次”も”なくて次”は”お前が負けるんやろ?」
「ふっ、負け犬の遠吠えやな」
「なんやと!?」
* * *
「ゔぁっ!!んぐっ…!え゛ほっ”!」
「私はあんたなんて大っ嫌いよ!!」
「何故あの女からこんなのしか…!気色悪い!!!」
「とっとと死んでしまえばいいのにっ…!!」
四つん這いになった状態で、無防備な腹を蹴られ、軽い身体は吹き飛んでいく。
襖をぶち破り床に転がると、今度は襖をぶち破ったことに腹を立てたのか、もう一度足が飛んできた。
顔面にヒットすると、鼻から熱いものが垂れてくる。
腕に赤い液体が掛かると、拳が飛んで来る。
子供が駄々を捏ねるような動きで頬を殴り、腕に当たる。
その一連の流れに飽きたのか、髪を掴んで下がっていた顔を無理やり持ち上げられる。
ぼやける視界で化粧の濃い顔を見ると、頬に椛が咲いた。
「相変わらず不細工な顔ね…あの女にそっくり」
「まあでも、あの女がこんな顔をしていたと思うと嬉しいわね」
「今日はこのくらいにしといてあげる」
臭い口を閉じると、ドスドス、と鈍く低い音を立てながら奥の部屋へと戻っていく。
濃い紫を視界に収め、やっと消えたところで、起き上がる。
起き上がった拍子に肋が音を立て、呼吸が荒くなる。
痛みを必死に逃がし、治まってきたところで、立ち上がる。
ロボロはおそらく、今の時間は訓練中だろう。
ロボロの方も細菌は理不尽なことで殴られるようになり、身体中に痣が彩っている。
俺とお揃いやな、と言ったら、こんな嫌なお揃い中々ないで、と返されて二人で笑ったことを思い出す。
そんな事を頭の中に情景を描いていると、新たな決意が浮かんでくる。
この家を出よう。
ロボロも誘って。
ロボロと二人で、家を出るんだ。
そう思った。
こんな地獄みたいな所にいても、俺たちは自由になれない。
まるで、人間に捕まり籠に入れられた鳥のよう。
このままじゃロボロ共々壊れてしまう。
「はぁっ、はぁっ…ふぅ……」
傷を庇いながら立ち上がると、いつもの裏庭の方へ足を向ける。
その前に少し寄り道をして、救急箱を手に入れる。
きっとロボロも傷だらけだろうから、手当てしてやるのだ。
靴も履かぬまま外へ飛び出すと、ロボろのいる訓練場の方向へいつの間にか変えていた。
おそらく、ロボロがどんな感じか確認しようとしたのだろう。
丸い金属で出来た屋根に、薄い木出来た壁。
出来た隙間から覗くと、組手をしていた。
何度も何度も容赦なく投げられたのだろう、首や手には新しい青あざが出来て、口の端が切れていて、血が顎を伝う。
それでもロボロは必死に食らいついては投げられ、食らいついては投げられている。
やがて体力が尽き、限界を迎えたのか、床に伏してから動かない。
「今日の訓練は終わりだ」
「きちんと身体を休めるように」
「は゛い…」
ぜぇ、ぜぇ、と引き攣った呼吸がマシになってくると、のそのそと起き上がる。
首筋に汗が添えられ、幾度となく相手の襟を掴み投げようとしてし損ねた手の平は、赤くなっている。
足を立て、力を入れて重力に逆らうと、膝に手を付き、汗を拭う。
口元に付いた血を指で軽く取る。
くるりと出口の方へ身体を向けると、スタスタと歩いていった。
俺は急いでいつもの場所に戻り、何食わぬ顔をしていよう。
勢いよく走り出すと、鋭利な草が足を切って、枝が足の裏を突き刺す。
もう何年もここに通っているのだ、こんなこと屁でもない、と言いたいがやはり痛いものは痛い。
やっとの思いでいつもの場所に辿り着くと、息を整え、救急箱を地へと下ろす。
ロボロもこの場所に着くと、怪訝そうな顔をして、俺の隣に座った。
「なんかオマエ息荒いけどどしたん?」
「蛇出てきたから全力で逃げてきただけや…」
「お前めっちゃ蛇嫌いやもんな」
「蛇出てきた瞬間飛び跳ねて逃げてった時はおもろかったな」
「それ言うなや…!!」
蛇がいたのは嘘だが、なんとか誤魔化せたようだ。
俺は蛇が嫌い。
何故なら、一度蛇に噛まれた時、死を覚悟したからである。
俺に噛んだのは毒蛇だったのだろう、噛まれたその晩、血反吐を吐き、頭がハンマーで殴られたように痛み、視界がぐるぐる回って、全身が鉛のように重く動けなかった。
しかも、手や足は痙攣し、身体は小刻みに揺れるだけ。
そんな思いをしては、蛇が嫌いになることも仕方がないと思うのだが。
「お前、手当てまだやろ?」
「なら俺が先にしたるからそのあとしてや」
「ありがと」
手に持っていた包帯を手渡すと、後ろを向いて服を脱ぐ。
顎と肩の中間くらいの髪を持ち上げて軟膏を塗りやすくする。
ぺた、ぺた、と温い感覚。
冷やされていない湿布が背中に貼られ、血のにじむ腕にガーゼを当て包帯を巻く。
一通り手当てし終わったら、服を着る。
今度はロボロが服を脱ぎ、背中をこちら側に向ける。
青あざと打撲痕だらけの痛々しい背中。
湿布を貼って包帯を巻く。ここに保冷剤があったらいいのだが、そんなもんは家にないので専ら諦めている。
手当てが終わると、いつもは二人で組手をしたり、魔法を教わったりするのだが、今日は二人とも怪我が酷かった。
それに、今日は何だか二人だけの特訓をする気分になれなかった。
だから、二人で座って空を眺めていた。
沈黙が続く中、先に破るは、俺だった。
「なあ、ロボロ」
「なに?」
「もし家から出られるとしたら、お前は出る?」
「え、急にどしたん…?」
「まぁせやな…俺は出えへんかな」
俺は驚いてロボロを見た。
いつもと変わらない表情で、そこにいた。
「前まではそう思ってたけどな」
「家、出たいって」
「なら、なんで…」
「この訓練も最初はキツイとも思ったし、逃げ出してまいたいとも思ったけど、最近はこの訓練をし続ける意味も出てきたしな!」
「やから、大人になる…そこまでは言わんけどもうちょっとおりたいなとは思う」
そこまでの言葉を聞いていた。
その後に続く言葉を、シャオロンは聞いていなかった。
ロボロが家を出ない、と言ったことに驚いたのだ。
その衝撃から、未だに抜け出せてはいなかった。
もしその言葉を聞いていたなら、この先の未来は、違っていたのかもしれない。
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s h a 視点
ロボロは家を出ないと言った。
なら、無理強いする事は出来ない。
ロボロはああ行ったが、俺はやっぱり家を出たい。
ロボロと一緒なら、この生活に耐えられたかもしれない。
だが、やっぱり俺は耐えられない。
この理不尽に負け続ける生活は嫌だと心が叫んでいた。
俺はこの家を出る。
その為に作戦や必要なものを揃えてきた。
全て揃い終わって、あとは決行日を決めるだけ、の状況まで持っていった。
ロボロさえ”出たい”と言ってくれれば、あとは一緒に出るだけだったのに。
まあ、そんな夢はもう叶わなくなってしまったわけだが。
決行日は二週間後の日曜日。
家族の集まりのようなものがあって、丁度その日だったから。
その名の通り、宗家、分家、その両家が集まって報告会という名の宴会をする。
本来なら、次期当主をお披露目する場でもあるのだが、当主を受け継ぐ条件を満たしているのは俺しかいないので、俺が出るはずだが、完全には満たしていないし、両方の血が入っているから、出たら遠回りに嫌味と皮肉が飛んで来る。
だから、俺がその場に出ることは無い。
その日を狙う。
俺以外の家のやつらがその会にでて、誰もいない、そんな機会なんて滅多にないから。
あと二週間、ロボロと離れることになるのは悲しいが、やっと開放されると思うと、喜びが込み上げてくる。
その日を楽しみに待っていた。
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s h a 視点
一週間後。
夜、布団と言っても怪しいくらいに薄い布を被って寝ていた頃。
なんだか騒がしかった。
怒号と銃声がして、何事かと思って寝床を飛び出し家の中を探る。
襖を開け、屏風を開け、その行為を何回も繰り返すと、ツン、と血の匂いがした。
恐る恐る戸を開けると、何にもの同胞たちが床に伏せていた。
血塗れで、痛い痛いと呻き泣く声。
嫌に耳については離れなかった。
怖くなって、大急ぎで他の部屋も見て回ると、黒い布で顔を隠し、黒い着物を着た男が一人、立っていた。
その男は俺に気付くと、銃を向けて撃ってきた。
驚いて何か物の後ろに隠れると、銃弾が物に当たる音が、身体に響いた。
こっそり身体能力の強化魔法を使うと、勢いよく飛び出し、手首を蹴る。
その衝撃で銃が落ちると、俺はその銃を広い、男に向けた。
「お前、誰なん?」
「それを言うと思うか?」
「言わんかったら撃つ」
「お前みたいなガキが撃つ度胸を持っているとは思えんな」
「なら試してみる?」
「ホンマに撃つんかどうか…な」
「ちっ…」
「もう一度聞くで」
「お前は何者や」
「俺たちはこの家にある金を奪いに来た」
「前からこの家を狙うと決めていた」
「家の敷地が広く、屋敷見たいな家」
「つまり、金持ちってこったろ」
「なるほど?」
「んで、お前は”俺たち”って言うた」
「俺は”お前”って言ったのに」
「てことは、仲間がおんねんな」
銃を突きつけ、しっかりと目を見て、何かしでかさないか挙動を観察する。
男は、動揺したようで、身体が少し動いた。
「ありがとうな」
「ほな、お前はもう用済みや」
そう吐息を吐くと、俺は男の両脚を撃ち抜き、肩も撃っておいた。
初めて銃を使ったが、なんとかなったようで良かった。
屍のようにその場に崩れ落ちると、恨みを込めた目で俺の後ろを見つめていた。
男から聞いた所、他にも敵はいる。
男から奪った銃があるだけマシではあるが、複数人に囲まれてしまえば無事では済まないだろう。
出来るだけ敵に見つからないように動きながら、自分の相棒のことを考えていた。
結論から言うと、アイツは強いから、何とかなるだろう。
俺一人で銃を奪えるなら、ロボロはもっと銃を奪えるはず。
だから、ロボロの事は今、考えなくてもいい。
今はどうやって盗賊たちから逃げ出せるかを考える。
いつもこっそり抜け出す際、よく使っていた裏口があったはず。
この二年の間で、その裏口は扉の立て付けが悪くなり、素早く抜け出したい俺としては、立て付けの悪さは致命的だった。
だから最近はあまり使わなくなっていたのだが、そこなら家から抜け出せる。
立て付けは悪いが、そこくらいしか見つからずに抜け出せる所が見つからない。
おそらく、あの裏口はロボロすら知らないと思う。
そうと決まれば、俺は大急ぎで裏口に走る。
何度も何度も足を動かし、畳を蹴る。
もうすぐで裏口…!、そう思った刹那、銃弾が飛んできて、俺の頬をかすめる。
ピリッとした傷みが頬に走ったと思うと、肩に衝撃。
肩から血が吹き出てきて、小さい金属の塊が、畳を突き抜ける。
体勢を立て直しながら、となりの部屋に移り、ちゃぶ台を盾にして、身を潜める。
肩を見てみると、穴が空いていて、撃たれたのだと気付いた。
スボンを切り裂き肩に巻き付け、ぎゅっと引っ張って結ぶ。
これで少しは持つ。
俺は銃を構え、先程俺を撃ってきた男に、仕返しとばかりに銃弾をぶち込んだ。
そこまでは良かった。
もし男が一人なら俺は勝てただろう。
だが、男の後ろからもう一人仲間が出てきて、脇腹を蹴られ、襖に衝突。
首を掴まれ壁に体を押し付けると、銃を額に突き付けた。
「お前だな?」
「俺の仲間を殺したのは」
殺した…?なんの話だ。
俺は確かに銃で撃ったが、致命傷は避けたから死んではいないはず。
「二人、死んでいた」
「しかも、的確に心臓を撃ち抜いて」
その言葉を聞いた瞬間、その犯人はロボロだと確信した。
根拠は二つ。
まずひとつ、ロボロは訓練をしている。
つまり、銃のひとつやふたつ、使い方を教わっていてもおかしくはない。
だから心臓を的確に撃ち抜けた。
ふたつ、ロボロは俺よりも強い。
俺だけでもなんとかなってしまう程度の敵なら、ロボロはもっと簡単なはず。
二人を殺すことくらい難はない。
「っ…、…」
「認めたな?」
「俺の仲間を殺したんだ、罪は償ってもらう…!」
相手が感情を昂らせた瞬間、俺は手で相手の耳をバン、と両の手の平で挟むようにして叩く。
撃たれた肩が酷く熱を帯びたような気がしたが、そんなことは今、気にしていられない。
この瞬間、命のやり取りをしているのだ、肩を気にするなど言語道断。
怯んだ隙に足を腕に絡ませ捻りあげ、銃を手にする。
今度は俺が相手の額に銃を当て、形勢逆転。
「お前の負けや」
そして、引き金を引いた。
衝撃が腕に伝わり、身体が反動で揺れ、床に転ぶ。
大急ぎで起き上がり裏口に向かうと、扉を開ける。
──────ようとした所でやはり立て付けが悪く、全く開かない。
仕方がないので、銃で扉の金具を撃って壊し、通路を走る。
暗くコンクリートで出来た狭い通路を、走る。
ぺた、ぺた、と裸足が摩擦を起こす音を鳴らし、腕を振り上げて空を切る。
肩から血が流れて、寒い。
何時間と長く感じてしまうほど、足を上げる。
実際は数分程度なのだろうが、俺はなんだか長く感じた。
月の光が出口を照らしその光に向かって行くと、俺の瞳に月が映った。
そこでようやく気づく。
念願の、ずっと叶えたかった、夢。
家から出る。
出て、自由になる。
そんな夢を、俺は今、叶えていた。
不自由の象徴である家を、出た。
俺は後ろを振り返り、家を見る。
目にぐっと焼き付け、前に進もうと一歩足を踏み出した瞬間、核爆弾でも落ちたのかと思うほどの衝撃が、大地を走った。
ガクン、と足が折れ、もう一度振り返ってみた。
そこには。
家があった。
赤く大輪が咲いた、家があった。
ぱちぱちと音を立てながら、熱い怪物が家を喰い、木が崩れ落ちる。
…、ロボロ。
相棒の名を、無意識のうちに呼んでいた。
すると、黄色い光が俺の全身を包む。
ふわふわと、頭の中をパレットナイフで絵の具を剥がし、真っ白なキャンバスに無理やり変えられる感覚。
「あ゛あ゛あ”あぁぁ!!!!!」
この感覚を知っていた。
何故か知らないが、この魔法が発動していた。
ロボロといた、あの記憶を忘れたくなかったのだろうか。
それとも、他の理由なのか。
視界が真っ白になって、溶ける。
溶けて。
溶けて。
黄金に輝くキャンバスは、燃え続ける家と共に、業火の中へと消えていった。
その光は、奇しくも月の光に似ていた。
『了』
後編に続く
解説
最後はshaさんの固有魔法を発動してしまっています。
そしてshaさんは家の事やrbrさんのことを忘れてしまっています。
薄らと察した方もいるでしょう、家は最期、爆発して燃えてますね。
盗賊たちが証拠を残さないよう、木っ端微塵に破壊したのです。大変ですね。
何故shaさんの魔法を発動したかと言いますと、shaさんは元々、家のことを無かったことにしようとしたんですね。
家のことを誰も知らず、そしてshaさんすら知らない。
そうした方が良いと判断したから。
shaさんの家は中々の名家なのですが、そこから逃げ出したとなると、世間はどう思うでしょうか?
そうなれば、必然。消そうとしますよね。
しかし、rbrさんと出会ったことにより、その決意が揺らいでしまいます。
そして事件が起きる。
皆さんご存知の通り、盗賊たちが襲ってくるんですね。
燃える家を見て、shaさんは遂にその決意を確固たるものとしたのです。
結果、魔法が発動した。
家が燃え、あとは記憶さえ無くなってしまえば、完全に消滅させることができる。
そう思い、shaさんは無意識の内に魔法を発動させてしまった。
不自由の象徴であり、rbrさんと過ごした自由の象徴、それが、shaさんの家だった訳で。
最後、shaさんは叫んでましたが、その理由もお書きしますね。
shaさんは、rbrさんと過ごした記憶、その象徴が家だったんですよ。
不自由な自分に、一時の間だけでも自由をくれた、rbrさん。
だから自由の象徴でもあるんです。
家を消すと言うことは、当然、rbrさんとの記憶も消えてしまう訳で。
不自由だったこの家の記憶を消したい、だがrbrさんと過ごしたあの自由だった時の記憶を消したくはない。
そんな矛盾した意識の中、消したい方が勝ってしまった。
そして消した。
ただこれだけのこと。
それ以外の背景は、皆さんのお好きなように解釈してもらえると助かります。
出来れば皆さんのご想像にお任せしたかったのですが、私の表現力が足らないせいで私の描いた捉え方をされないのは悲しいと思ったので解説させて頂きました。
次はshaさんの軍学校時代に移ります。
やっと次回で終わりですね。長かった。
ここまでの閲覧、ありがとうございました。
またどこかのお話でお会いできれば幸いです。
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