「ところでヨシオちゃんとモラクス君は? 大丈夫なのかな?」
「ふむ、そうだね」
『善悪、どう? 大丈夫ぅ?』
『ああ、一応、大丈夫だけどね、結構流されたでござるよー、今ストゥクスで体洗ってるからさ、奇麗になったら合流するから先に行っててぇ、うん? まだ臭いよモラクス君、ああ、ほら、髪の毛に絡んでいるからだってばぁー、やっぱり毟(むし)ってあげるでござるよぉー、何? 格好悪い? どこがっ! 格好良いでござろうっ! 一回やってみれば病みつきだって! ああ、コラ! 逃げるんじゃないでござ――――』
プツ
「大丈夫よ、いつも通り馬鹿だったわ、別ルートになっちゃったけど先で合流しましょう! 次はどこに向かうかよね? パズス君、お婆ちゃん、どうしよっか?」
トシ子は丸投げだ、これも数多(あまた)の戦歴の賜物だろうか? 何処の戦場でも構いはしない、そんな経験則が齎(もたら)す余裕の一種なのだろう、そう思える返事であった。
「何処って言われてものぉ、そうじゃ、なあパズスや、誰か困って居たり、助けを求めている子はいないのかえ?」
「は、はい、確認します……………… んっ? ええええぇっ! ま、まさかぁっ! し、信じられんっ!」
表情を固めて驚きを口にしたパズスにコユキが声を掛ける。
「ど、どうしたの、パズス君! まさか誰か死んだとか重症だとか、そう言うヤツじゃ無いでしょうねっ!」
パズスは未だ固まったままで信じられないっ、そんな表情を浮かべて答えたのである。
「あー、いえ、そう言う訳では無いのですが、手伝って欲しい、そう返信を寄こして来た者が一人だけいまして…… あのー、そ、それが、その、シヴァなんですがぁ………… あ、アイツが苦戦? いやいやいや、有り得ないでしょ? 最強の魔王、いいえ強さだけなら魔神以上の闘神なんですよ? アイツって……」
コユキも慮外の言葉に慄(おのの)いて呟きを返す。
「し、シヴァ君がぁ! マジだとすれば、確かにそれは緊急事態っぽいわね! んっと、あっちで光っているのは緑、アジ・ダハーカね、ええっと、おっ! あっちで光ってるわよっ! いつもより濃い紫の光がぁっ! なんて言うの? 菫(スミレ)色って奴ぅ? 行ってみましょうよっ! てっかっ、先に行くわよ! シヴァ君ー、『加速(アクセル)』!」
言い終わるや、瞬時に姿を消したコユキが唯一残した土煙を見つめながら、パズスはまだ首を傾げて訝しげな顔をその面に浮かべて言ったのである。
「菫色? はて? シヴァがそんなオーラを出すのを見た事がないが…… 一体何が起こっていると言うのであろう?」
金属質でオレンジな背中に手を沿えたトシ子が促すように言う。
「ほれパズスよ、行ってみれば判るわい! 少し急ぐとしようじゃないかえ? ほれ、菫色のオーラが小さくなって今にも消えてしまいそうじゃ無いかえ? 土流に乗るのじゃ! 行くぞい、『土竜疾駆(ノーズライディング)』! ヒィッヤッホォォー!」
チューブ状に巻き上がった土の波の上で、カノア君並みのライディングを始めたトシ子には、誰も異論を言える訳など有りはしない、皆必死の形相で仲間達の体や衣服にしがみつきながら、振り落とされない事を祈り続けるだけなのであった。
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