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mzyb em総受け
地雷の方と意味が分からない方は回れ右
ーーーーー
30歳まで童貞だったら魔法使いになれる、という話をご存知だろうか。
もちろん本当に魔法を使えるようになるわけではなく、その立場にある人を揶揄う意味で生まれた話ーーー
ーーーの、はずなのだが。
不本意にもその条件に該当してしまった自分、エーミールは30歳になった時から魔法のような力を使えるようになっていた。
「へぇ、今日はそんなことがあったんやね。」
休日の自宅で机の上の小さな友人、フキンさんの話に相槌を打つ。そっと指で体を撫でるとニコニコと楽しげな笑みを浮かべたフキンさんが手のひらにピトッとくっついて、そこから喉を持たない彼の“声”が聞こえてくる。
ーーはい、とっても楽しかったです。
自分が使えるようになった力、それはいわゆるサトリ能力というやつで、触れた相手の思考を読み取ることができる。
とはいえ他人の思考を読み取るのは頭の中を勝手に覗き見ているような気分できまりが悪く、相手も読み取られていると知ったら嫌がるだろうと思い普段は能力をオフにしている。オンにするのはこの声の出せない小さな友人とお喋りする時だけだ。
ピンポーン
「はーい」
フキンさんをもうひと撫でしてインターホンに出る。「エミさーん早よ開けやー」と催促するのはビニール袋を持った五人の仲間達。
「鍋パすんで!!」
上がり込んで開口一番、ゾムさんが宣言した。
勝手知ったる他人の家とばかりに部屋に入ったメンバー達が手に持つ袋からそれぞれ食材を取り出す。
「これが近所のおばちゃんに押し付けられたネギで、」
「これが安売りしてて買いすぎた肉。」
「こっちが家にあった賞味期限ギリギリの白滝と豆腐で、」
「これがなぜかちーのに渡された鍋の素っす。」
「そして俺が福引で当てた大量のビール。これは鍋しかないやろ。」
「エミさん卓上コンロどこー?」
あっという間に鍋パの会場になってしまった我が家に、フキンさんと顔を見合わせてふふっと笑った。
「コンロは吊り戸棚の左やで。土鍋はそっちにある棚の下の収納です。」
材料は皆が持ってきてくれたのだから、調理はしっかりやらなければ。
「ゾムさん、その白滝開けたらこのボウルに入れて下さい。」
「ほーい」
足元にある収納からボウルを取り出し差し出す。思ったより近くにいたゾムさんがそれを受け取ろうとして、手が触れた。
ーーー今の角度、えろいな。
「は?」
カラーン
ボウルが手から滑り落ちて乾いた音を立てる。
「エミさん?どうした?」
ーーーなんかポカンてしとる。足元でしゃがんで見上げてきてる時点でえろいけど、その姿勢で口開けてるとやばいな。これもうフェーー
「いえっ!なんでも無いです!!」
ボウルを拾って渡し、すぐに離れた。
耳ではなく直接頭に響いた今の言葉はゾムさんの“声”。あかん、能力切り忘れてた!と慌ててオフにしようとするけれど、能力の切り替えは集中しないとできないので混乱した今の頭ではできるはずもなく。
「エミさんまたドジったん?」
ーーー慌ててんの可愛いな。何したか知らんけどゾムナイス。
「シャ、シャオロンさん…」
今度は背中を叩いてきたシャオロンさんの“声”を拾ってしまう。
何なん二人してえろいとか可愛いとか!ほんまに言うとる?!相手俺やで?!
そもそもこれは本当に二人の“声”なのか。フキンさん以外に能力を使うのが久々過ぎてバグが起こってるだけなのでは?うんそう多分きっとそうに違いない!
頭の中で強引に結論付けながら手早く鍋の準備を終わらせて席に着いた。いつもの癖でゾムさんの隣に座ってしまい一瞬どうするか悩んだが、今更変えるのも不自然だろうと思い直す。せめてもとほんの少しだけ椅子を離したところで鍋パが始まった。
「なんで鍋の素ちーのに渡されたん?」
「さあ?めんつゆの印象が残ってるうちに同系統で別の物をとか何とか言ってましたけどほぼ聞き流してたんで。」
「迷走してて草。あ、エミさんそっちの菜箸取って。」
「はーい」
トントンさんに菜箸を手渡す。
ーーー今のやり取り夫婦っぽいな。本当にエミさんが嫁に来てくれたらええのに。
……寄生体ごしでも“声”って聞こえるんやなぁ…
もはや若干の現実逃避をしながら鍋を食べた。心の声を勝手に聞いてしまうのは申し訳ないけれど、もう集中なんてできるはずもないので能力をオフにするのは諦めよう。うん、おなべおいしい。
皆に触れないよう注意を払いながら食べ進めることしばらく。締めのうどんまで食べ切って一息ついたところで、煙草を吸う鬱先生とショッピくんと一緒に外へ出る。他の三人は“声”を聞いてしまったので気まずいけれど、この二人はまだ大丈夫。少しホッとして煙草を深く吸い込んだ。
「そういえば今日、エミさんなんか変やない?」
「ゴホッ!!」
予期せぬ方向からの指摘に思わず咽せる。
「そ、んな事ないと思うヨォ?!」
声を裏返しながら返事をすると鬱先生はまあ落ち着け、といった風に肩を軽く叩いてきてそこからまた“声”が流れ込んだ。
ーーーゾムシャオ相手にキョドってたしなんか動きぎこちないし。俺らにエロい目で見られてんの気づいたんか?いやいやあんだけ鈍感だった奴が今更気づくわけ。
「ゴホッゲホッ」
余計に落ち着かなくなって咳き込む喉。追い討ちとばかりに「ライター忘れたんで貸してください」とライターを奪っていったショッピくんからも“声”が届く。
ーーーま、気づいたところで今までバレへんように埋めてきた外堀あるし人外組が人外にしか分からん方法でしっかりマーキングしてるし、逃げられへんやろ。それに気づかんかったエミさんが今更ワイらに執着されまくってることに気づくとも思わんけど。
……君らもかぁ…そして全員お互いに知って外堀埋められてるんか…マーキングって何やほんまに……
あまりの情報量の多さに宇宙を背負って呆然とした。
「ちょっと待ってぇ…」と顔を隠して深呼吸をする。
ーー集中。
1、2、3、よし。
どうにか能力を切った。先送りにしかならないけど聞こえちゃった諸々は後で考えよう。
「そろそろ中戻ろうか。」
二人の背を押して強引に部屋へ戻る。文句を言う二人から“声”が聞こえないことに心底安堵した。
「お邪魔しましたー」
「またなエミさん。」
「はい、また明日。」
皆を見送って扉を閉じ鍵をかける。
「…はぁ〜……」
そのまま騒がしさの名残が残る玄関でずるずるとしゃがみ込んだ。頭に浮かぶのは今日知った衝撃的な情報の数々。
共に仕事をする仲間だと、親しい友人だと思っていた彼らはどうやら自分を可愛いとかエロいとか嫁にしたいとかいう目で見ていて、結託して外堀を埋めていて、さらにはマーキングなんてものもしているらしい。
こんなおっさん相手に何でなん?皆頭おかしくなったんか?信じられへん。
でも、一番信じられないのは
ーーー何で俺、こんな顔熱くなってるんや。
それほどまでに執着されているのを、嬉しいと思ってしまった自分で、
「明日から、どうすれば…」
呟いた言葉は、抱え込んだ膝に消えていった。
粉砂糖の塊
270
もっぴー
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3
海殊
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コメント
3件
初コメ失礼します🙇♀️ 単刀直入に言わせてもらいます、めちゃくちゃ話の内容好きです💕メンバーの皆さんの声を聞いて徐々に自分に執着していることを自覚して最後に「嬉しいと思ってしまった」のところが可愛すぎて...ひとりで悶えながら読ませて頂きました。アイリさんの作品いつも楽しく読ませていただいてます!これからも応援してます!
めっちゃ良かったです…!エーミールが能力切り忘れてゾムさんとかシャオロンさんの心の声聞いちゃうとこ、思わず笑ったけど、最後の「嬉しいと思ってしまった」って気づくところでグッときました。執着される側の困惑と徐々に自覚していく感じが丁寧で、続きが気になります。アイリさん、素敵な作品ありがとうございます🌙