何も言わない

渡辺は、目黒に抱きしめられながら眠る。疲れてる目黒はすぐ眠ってしまった。渡辺はため息を吐く。

今日も言えなかった。それに、言うなら1度目の後だろう。

3度もキスされてから、言ってもホントに嫌だったのか、問われるだろう。

渡辺は、目黒の腕の中から、そっと抜けてソファに来た。梨花に電話するためだ。目黒は眠っている。

渡辺ー梨花さん、言えない。

梨花ー蓮は怒らないわ。

渡辺ー怒ってもいいんだ。それだけのことしたんだから。

梨花ーしょっぴー、大丈夫よ。

渡辺ー怖いのは、知らない目黒が出て来そうで。

梨花ー知らない蓮？

渡辺ー俺を蔑む目黒なんか、見たくない。怖い。

目黒は、腕の中がいなくなって目が覚めた。寝室のドアを少し開けて、渡辺の電話を聞いていた。

電話が終わった、目黒は静かにベッドに戻る。

しばらくして渡辺が戻って来て、目黒の腕の中に、包まれるようにして、しがみついてくる。

目黒は寝たふりして、渡辺が眠るのを待っている。

名前を呼んだから、相手が梨花だと分かっている。しばらくは様子を見ていようと思う。仕事が、少し落ち着くまでは黙っていよう。

渡辺ー目黒、あの、してやろうか？

目黒ーいいから、そんなことしなくて。

渡辺ー我慢してるだろ？

目黒ー平気。翔太くん、体調はどう？

渡辺ー体調はいいけど、ごめん。

目黒ー謝らない、寝ようか？

渡辺ー俺、もう一度セリフ覚えする。

目黒ー付き合おうか？

渡辺ーお前は、疲れてるから、寝ないとだめだ。

目黒ーじゃあ、先に寝るね。おやすみ。

渡辺ーおやすみ。

辛かったら何度でもかけてらっしゃいと言われている。

そっと寝室に行って目黒が寝てるか確認した。

渡辺ー梨花さん・・。

梨花ー泣きそうね、言えなかったのね。

渡辺ー怖い。言えないんです。

目黒ー俺が怖い？

渡辺ー目黒！

梨花ーしょっぴー、蓮に代わって？

渡辺ーあの、梨花さん。

目黒ー翔太くんがお世話になって。

梨花ーあら、嫌味？

目黒ー2人で、コソコソ何の話？

梨花ー言えないわ。そんな怖い声して。

目黒ーいい、翔太くんに聞くから。

梨花ー酷いことしちゃだめよ！

目黒ー約束は出来ない。じゃあ。

渡辺は、耳を塞いでソファで丸くなっていた。

携帯をソファに放る目黒。

目黒ー翔太くん。

渡辺ー・・。

目黒ー翔太。

渡辺ー酷いことする？

目黒ー話を聞く。

渡辺の横に座り、渡辺を抱き起こし、「コーヒー淹れてくる」と言う。

なかなか、戻って来ない。

換気扇の下でタバコを吸っている。

渡辺ー目黒・・。

目黒ーちょっと落ち着くため。

渡辺は右足の付け根を触る。タバコを押し付けられた痕がある。

もう一度同じことするんだろうか？梨花は、しちゃだめと言うけど、構わない。目黒に秘密を持っていたのだから。

渡辺ー右足？左足？

目黒ーしないよ。話も聞いてないし。話してくれる？

渡辺は泣けて来た。どうする？言う？悲しませるかもしれない。

仲良しの2人が仲違いするかもしれない。言っていいのだろうか？

涙が止まらない。

目黒が渡辺に近づいてきて涙を拭う。優しさが辛い。