テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翌日。
「今日は二人組を作って、実技をするぞー!」
体育の先生の声がグラウンドに響く。
「二人組か。」
奏斗が周りを見る。
すると。
「神崎。」
「ん?」
冴がこちらを見ていた。
「一緒にやる?」
「もちろん。」
迷う理由なんてなかった。
-–
実技が始まる。
二人一組でボールを使った練習。
「じゃあ、俺から投げる。」
「うん。」
奏斗がボールを投げる。
冴が受け取る。
「ナイス。」
「次、俺。」
今度は冴が投げる。
奏斗が受け取る。
「おお、上手い。」
「普通。」
「いや、普通に上手い。」
そんなやり取りを繰り返していた。
そのとき。
「ちょっと近いぞー!」
先生から声が飛ぶ。
「え?」
二人を見る。
確かに。
いつの間にか、かなり近い距離で向かい合っていた。
「……。」
「……。」
二人とも、一瞬黙る。
「……ちょっと離れる?」
冴が言う。
「う、うん。」
なぜか奏斗の顔が熱くなる。
(……なんだこれ。)
ただ近かっただけ。
それなのに。
心臓が妙に騒がしい。
-–
休み時間。
「神崎。」
「ん?」
「顔赤い。」
「えっ!?」
「大丈夫?」
「大丈夫!」
「……本当に?」
「本当に!」
冴はじっと奏斗を見る。
「……。」
「何?」
「いや。」
「?」
「神崎って、近くにいると安心するなって。」
「……。」
奏斗の思考が止まった。
「え?」
「いつも一緒にいるからかな。」
「……。」
「隣にいると、落ち着く。」
「……そ、そう?」
「うん。」
冴は何でもないことのように言う。
「……。」
奏斗は顔をそらす。
(それ。)
(今言う?)
-–
放課後。
二人で帰る。
「今日の体育。」
「うん。」
「楽しかった。」
「俺も。」
「またペアになれるといいね。」
「……うん。」
少し歩いて。
冴が言う。
「神崎。」
「ん?」
「今日、変だった。」
「……。」
「ずっと顔赤かった。」
「それは……。」
奏斗は言葉に詰まる。
「……近かったから。」
「?」
「石川と。」
「……。」
冴も少し黙る。
「そっか。」
「うん。」
「じゃあ。」
冴が少し笑う。
「もっと慣れたらいいね。」
「……え?」
「近くにいること。」
奏斗は固まった。
「……。」
「嫌?」
「嫌じゃない。」
即答だった。
二人とも黙る。
「……。」
奏斗は前を見る。
(嫌じゃない。)
むしろ。
もっと近くにいたい。
そう思った。
-–
駅に着く。
「また明日。」
「うん。」
冴が歩き出す。
「……。」
奏斗はその背中を見る。
今までなら。
「また明日」で終わっていた。
でも今は。
もう少しだけ一緒にいたい。
「石川!」
冴が振り返る。
「ん?」
「……。」
何を言おう。
「……なんでもない!」
「?」
奏斗は笑う。
「また明日!」
「うん。」
冴も笑った。
-–
家に帰った奏斗は、ベッドに倒れ込む。
「……。」
今日のことを思い出す。
近い距離。
「安心する」と言われたこと。
そして。
自分が「嫌じゃない」と即答したこと。
「……。」
奏斗は枕に顔を埋める。
「……これ。」
「もう、さすがに……。」
言葉にするのが怖い。
でも。
心の中では、もう答えが見え始めていた。
「石川のことが好き」
その言葉が。
頭から離れなかった。
-–
第39話 おわり
次回・第40話「名前のない気持ち」
翌日。
奏斗はついに颯太へ相談する。
「……俺、石川のこと好きなのかもしれない。」
すると颯太は――
「“かもしれない”じゃなくて、たぶんもう好きだろ。」
そして奏斗は、初めて自分の気持ちを真正面から考えることになる。
931
#パニック
水族館マニア
248
#バッドエンド
752
コメント
1件
「近すぎる距離」、タイトルからしてすでに心臓に悪いですね……(笑)。体育のペア練習でいつの間にか距離が縮まってる描写、先生に注意されるまで自分たちで気づいてない感じがリアルで、すごく好きです。冴さんの「神崎って、近くにいると安心する」という何気ない一言が、奏斗くんの心臓を直撃してるのがもう……! そして「もっと慣れたらいいね」って、冴さんはなんでそんな平然とそんなこと言えるんですかね……ずるいです。最後のベッドで枕に顔を埋める奏斗くん、めちゃくちゃわかります。自分の気持ちに気づく瞬間の描写が丁寧で、次回が待ち遠しいです!