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「ところで、ジョージア様。お手紙に書いてありました打ち明けたいこととは何でございましょう? 」
今まさに考えていたことを言われ、尻込みしてしまう。
「それは……」
言葉に詰まってしまった……。トワイス国の王子でも、アンナリーゼとの婚約がダメなのだから、俺など絶対断られてしまうことだろう……。
「もしかして、ジョージア様の卒業式のお誘いですか?」
まさに確信。それをお願いしたくて、今日は来たのに話をすれば、断られるとしか思えない。
「……あぁ、そうなんだ。俺の卒業式でパートナーとして出てほしい。ひと時の思い出で構わないし、他に決まっているなら断ってくれて構わない。女の子たちからするとそのパートナーの意味することは、何なのか心得ているつもりだから……」
自国へ戻ったあとのことを考え、想い出にと思ったのは嘘ではない。ずっと惹かれていた彼女と少しでも同じ時間を過ごせるなら……ひとときの夢と同じ。覚めない夢をみたかった。ただ、そこに至るまでを考えれば、良い返事をもらえることは考えられない。今日、こうして時間を作ってもらえただけでも、ありがたいことなのだから。
そこまでいうと、アンナリーゼは、「まぁ」と頬をほんのり赤く染めて、恥じらいを見せる。
どうしようもなく可愛らしい。恋は盲目とはこのことなのか……?
ため息をつきたくなる。
「返事は後日でいい。家族とも話し合って決めてくれ」
少し考える素振りを見せていたので、後日断りの連絡をサシャからもらうのだろうと想像して、内心かなり落胆していた。
「いいですよ。ジョージア様が卒業式のパートナーとして私を選んでくれるなら、エスコートをお願いしてもかまいませんか? 」
言われた瞬間、あぁ、今、断られたのかと、ため息をつき下を向く。
即答で断られるとは……。さすがにな……。
かなり落ち込んだ。そんな素振りは見せるべきではないとわかっていても辛くなる。
「あの……ジョージア様? 大丈夫ですか?」
「あぁ……大丈夫だ。断られるのは、もう覚悟してきた……んだ……?」
「いえ、私、お受けしましたよ?」
はい? 今、なんて? と、恐る恐る顔を上げると、優しそうに微笑んでこちらを見ているアンナリーゼ。アメジストのような紫の瞳に、落胆している自分が写っていた。
「卒業式のパートナー、謹んでお受けします! よろしくお願いします!」
自分の体感だったのでほんの数秒だったのかもしれないが、目があってしばらくしてから、俺自身が想像していた答えとは別の答えが返ってきたことに驚きが隠せない。
「本当にいいのか? 王子でなく、俺で?」
「はい、もちろんです。ひとときの思い出として、誘ってくださったのでしょう? お噂は聞いています。ご婚約を控えている方がいると。その方でなく、私を選んでくださるとおっしゃってくれましたので、ちょっと優越感に浸りたいですね? 人のものを奪う趣味はございませんが、私、ジョージア様も大好きですから!」
衝撃が、走る……!
アンナリーゼが、ソフィアのことを知っているのもさることながら、俺のことを大好きだと言ってくれたことに。ひとときの思い出としてと言われたことに、少し寂しい気持ちもあったが、自分で言ったのだから仕方がない。思い出としてなら、共有してもいいと言われたことが寂しい気持ちになったけど、その一方で、エスコートの話に応えてくれたことが嬉しかった。
「ありがとう。アンナはソフィアのこと、知っていたんだね。それでも、応えてくれたんだ?」
「そうですね。銀髪の君のことは、入学当初から有名でしたから知っていました。ソフィアさんと婚約されていると噂も」
少し困った表情をしたあとでアンナリーゼが話すことにさらに驚かされた。
「でも、ジョージア様は、まだ婚約されていないのでしょ? 確か、ソフィアさんは男爵位の令嬢でしたね。家格が違うので婚約までには、それなりに大変そうですね……?」
アンナリーゼは、いったいどこまで知っているのか。ソフィアから、卒業式のパートナーは私が務めると連絡がすでに来ている。
当たり前だ。
俺の婚約者として立場を確固たるものにしたいのだろう。でも、アンバー家では、両親ともにソフィアとの婚約を反対されている。今現在、男爵が交渉をしているらしいのだが、俺は……俺の希望としては、アンナリーゼを迎え入れたい。それは、敵わぬ願いと知っていても。今回、アンナリーゼと話しをしたことで、やりたいことがあるので無理強いできないことがわかった。トワイス国王家でさえ拒絶する彼女が、隣国の公爵家に満足などしないだろう。
だから、ひとときの思い出なのだから……。
「そうだね。たぶん、卒業してすぐには婚約は決まらないはずだ。両親が反対しているからね。強引に決めてしまえば、禍根も残るだろうし……」
「そうですね。婚姻はお家同士の話になりますからね。私はソフィアさんを見たことがないのでわかりませんが、ジョージア様は、卒業後、領地の勉強もあるでしょうし……これからが大変なのですね」
アンナリーゼは、労ってくれてはいるが、正直な話、俺自身は、全く嬉しくないことだ。
空笑いで応えておく。
「でも、決して心折らないでくださいね! ジョージア様にも、いいことがきっとありますから! 私、保証しますよ! あっ……悪いことも保証しそうですけどね……」
突然変なことを言い出すアンナリーゼに、思わず笑ってしまう。
この子は、本当におもしろい。隣に立てないことが、惜しいとしか思えないほどに。みんなが望んでも手に入らない子か……。
東の果ての国にある伝説の天女のような話だと心の中で苦笑いする。
「卒業式、楽しみにしています。ドレス等の話もありますので、また、兄を通じて招待します。お手数をかけてしまいますが、我が家に来ていただけますか?」
「もちろんだよ。また、サシャと打ち合わせしておいてくれ」
「わかりました。そうそう、ジョージア様のパートナーは、謎のままにしておきましょう。きっと、話題になりますよ!」
ふふふと、悪い顔で笑っている。俺も思わずつられてしまう。
「あぁ、楽しみだ。パートナーはいるが、当日までの秘密としよう 」
「はい」と元気な返事をするアンナリーゼ。
「かなり、長居をしてしまった……では、また、招待して」
「よろこんで!」と言ってくれたので、俺はお暇することにした。玄関まで送ってくれたので、「サシャによろしく」と言って侯爵家を後にした。