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帝国を訪れる旅人はぽつぽついるとはいえ、みな一様に驚きの表情を浮かべながら通り過ぎて行く。宮廷魔術師たちを間近で見る機会は、旅人であっても中々訪れるものじゃないからだ。
それなのに目の前には弱り座り込む姿や、横になる姿をさらけ出している。あまり良くない光景に対し、どういう感情を抱《いだ》けばいいのか分からないといったところだろう。
しかしウルシュラの手当ての甲斐もあって、近くに見えていた宮廷魔術師の姿はすでにない。
「へえぇ、ミディヌと爺さんがほとんどを相手に?」
「そうなんですよ~! とにかく派手で、ドーン! とかバーンとか、それはもうすごくてですね」
「……うん。分かるよ。その最中にウルシュラは何を?」
「宮廷魔術師さんたちの手当てをしてました!」
辺境ロッホ周辺の辺りで、ミディヌと爺さんがまだ戦っているらしい。ウルシュラの話を聞く限り、特に苦戦することなく済んでいると思われる。
「ルカス、ウルシュラ。このままロッホに行く?」
ロッホか。ミディヌたちが周辺にいるなら行くしかない。帝都に戻る気も無いしやり残しも皆無。そうなるとまずはあの教会に行く流れになる。
「行くよ。ロッホに向かって歩いているからね」
「もちろん行きますよ。だってあそこが私たちの始まりなんですからね~! ナビナもそうでしょ?」
「んーん、特には」
「ええええ~?」
やり取りだけ見てればのんびりしてて微笑ましい。しかしナビナについては、はっきり分からないことばかり。いずれ明らかになるとしても。
「ルカスの冴眼とルカスが最強になったらでいい?」
「あっ……うん」
さすがに考えてることまで見えてないと信じたいけど。
「大丈夫。ナビナはもう使わない。ルカスにだけ与える」
そう言われると何も言えなくなる。とりあえず何者でも気にしないことにしよう。
「ルカスさん、見えてきましたよ! 何だか久しぶりですね~」
ウルシュラが指し示す方向にはロッホの町が見えている。そこにいるとされるミディヌたちや、宮廷魔術師の姿はまだ確認出来ない。
「あれ? 周辺で戦ってるんじゃなかったっけ?」
「そのはずですよ。なんにもいませんね……どこに行っちゃったんでしょう?」
ロッホ周辺での戦闘は普通に考えれば、何も外だけ戦闘しているとは限らない。その意味として言えるのは、ロッホに暮らす住人が少ないことが関係しているからだ。だが町の中で戦闘が続いている。そうだとすれば農地や住居、そして教会に被害が及んでいてもおかしくない。
「ルカス、町に入ろう?」
ウルシュラと俺とで辺りを見回す中、ナビナが俺の手を引く。
「もしかしなくても、何が起きてるか見えてる?」
「違う。ここにいても何も起きないから」
「あぁ、そういう意味か。それもそうだね」
ただでさえ人の少ない町だ。素直に町に入るのが正しい行動だといえる。
「ウルシュラ! 誰かがいるでもないし、ロッホに入ろう」
「そうですよね! そうしますか」
町に入ると、やけに通行する人の数が多い感じを受ける。
まだ昼間だからか?
もちろん町自体が大きく変わったとかじゃない。
これはもしかすれば――
「きっといると思う」
ナビナの言葉の意味は聞かなくても分かる。誰に知らせていたでもないが、おそらくそこに。
教会に向かって歩き進むと、俺たちよりも先に向こうが気づいた。
「遅かったじゃねえか、ルカス! あたしを待たせるなんていい度胸だな」
教会の前に立っていたのはミディヌだけだった。協力者の爺さんの姿はどこにもない。
「ミディヌ。協力者の爺さんは?」
「爺なら中にいるぜ! ウルシュラから聞いてたとおりの中だな」
「ウルシュラ? ミディヌにはすでに?」
俺とウルシュラとで別に行動していたし、世間話くらいはしてるか。ウルシュラをちらりと見ると慌てたように身を乗り出して、笑顔を見せてきた。
「そうでしたそうでした! ミディヌは仲間? じゃないですか~。でもお爺さんは協力者ということでしたので、レグリースのことを話しまして!」
「何でそこで首を傾げるんだよ! あたしはもう仲間だよな? なぁルカス?」
返事をするまでもなく、俺は大きく頷いてみせた。その様子に、ミディヌは腕組みをしてのけ反っている。
「……ともかく、中に何人かの協力者がいるってことで合ってる?」
「協力者じゃねえけど、そんなもんだ」
「さささ、ルカスさんどうぞどうぞ! ナビナも遠慮しないで」
「……するわけない」
何を今さらなと言わんばかりに教会の扉を開けた。
中に入ってすぐ、俺の姿を見た冒険者らしき二人が近寄って来る。爺さんは部屋の隅々を見ているようで、特に寄っても来ない。
とりあえず、
「俺は魔術師ルカス・アルムグレーン。そっちは?」
先に名乗っておいた。
すると、
「悪ぃ、先に名乗るのが筋だったな? おれは翡翠の腕《ジャッドアーム》のファルハン・コールだ。そしてコイツが――」
「お初にお目にかかりますわ。隣のコレのパートナー、イーシャ・ニガム。以後お見知りおきを」
「……で、あんたがここのクランリーダーってことで違いねえよな?」
クランリーダー。
この場合だと俺でいいのだろうか?
ウルシュラはギルドマスターは譲れないとか言ってたし、クランリーダーは俺ということにしよう。
「ああ、間違いない」