——これは、再生した世界に残る“最古の伝承”である。
語り継ぐ者はもういない。
けれど、風も水も、森のざわめきも、
すべてがこの物語を知っていた。
かつて、この世界は一度、滅びた。
愛が光を壊し、闇を抱いたからだ。
だが、終わりのあとに“始まり”は生まれた。
その名は、曙(アケボノ)。
彼女は女神とも人とも呼ばれた。
けれど誰も、彼女がどこから来たのかを知らない。
ただ、彼女の瞳の奥には、
金と黒が淡く溶け合う光が宿っていた。
——それは、かつて世界を壊した者たちの残響。
そして、世界を再び息吹かせた“祈り”の証。
曙は、何も語らなかった。
ただ、朝のたびに花を咲かせ、
夜のたびに星を抱いた。
彼女の手から生まれた光は、
かつて天使が捧げた純粋な輝きの欠片。
そして、彼女の影から溢れる闇は、
かつて罪と呼ばれた愛の残り香だった。
人々は彼女を恐れ、同時に愛した。
光と闇を同時に抱く存在——
それは“神の赦し”でもあり、“人の罰”でもあったからだ。
けれど曙は、ただ静かに微笑んだ。
「わたしは罰でも赦しでもない。
あなたたちの“心”そのもの。」
そう言って、
彼女は世界の中心に“楽園”を創った。
そこには、天も地もなく、
昼も夜もなかった。
ただ、穏やかな光が絶えず揺らめき、
影が優しく寄り添っていた。
その地を、人々は『Eden Rewritten(再生の楽園)』と呼んだ。
そして、長い年月の果てに——
ひとつの詩だけが残された。
光は、闇に触れた。
闇は、光を抱いた。
二つは互いを喰らい、そして一つになった。
その果てに世界は生まれ、
愛は名を変え、祈りとなった。
時が流れ、
世界は新しい形を幾度も繰り返した。
だが、曙の物語だけは、
決して忘れ去られなかった。
ある者はそれを“罪の神話”と呼び、
ある者はそれを“救済の詩”と呼んだ。
だがどの言葉も、
本当の意味を語りきることはできなかった。
曙——彼女はただ、
最後の夜明けを見届けるように、静かに空を見上げた。
彼女の頬を撫でる風は、
遠い昔に失われた天使の羽音に似ていた。
微笑みながら、彼女は囁いた。
「愛は、光を殺し、闇を救った。
だがそれは、最初の人が“心”と呼んだものと同じだった。」
——そして世界は、再び息をした。
曙のまなざしの中で、
朝と夜が溶け合い、
“永遠の一瞬”が生まれた。
それは、神々のいない世界で紡がれた、
最初で最後の愛の神話。







