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羽海汐遠
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天界
金蝉の隠れ屋を後にした三蔵達は、シヴァに使いの者とされる謎の生物達と交戦していた。
ブシャアアッ!!!
観音菩薩に遅い掛かろうとした謎の生物の体を斬り付け、黒色の血が弥勒の如来の顔に付着する。
「「オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ」」
次々に空から謎の生物達は降り立ち、三蔵達が下界に降りれないように阻止しているような動きに観音菩薩は見えていた。
「シヴァが僕達の行動を妨害してきてるな」
「え!?妨害って下界に行かせないようにしてるって事!?マジ?」
「この生物達が、シヴァの名前を連呼しているのは分かるでしょ?」
「いやいや、そこまでちゃんと聞き取れてないし!?観音菩薩の耳が良すぎるだけでしょ!?」
カチャッ。
三蔵は観音菩薩と話をしながら、霊魂銃に弾丸を装填していく。
「頭下げとけ、三蔵!」
「オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ」
装填している三蔵に襲い掛かろうとしている謎の生物の存在に気付き、猪八戒は瞬時に紫洸の銃口を向けて引き金を引く。
バンバンバンッ!!!
ブシャアアアッ!!!
放たれた弾丸は謎の生物の体に深く食い込み、風船のように大きく膨らんだ体は勢いよく弾け、四方八方に謎の生物の肉片が飛び散る。
観音菩薩の加護を受けている毛女郎は自身が死んだ事により、武器の紫洸に神力が注がれていた。
その事は今の持ち主である猪八戒は知らず、それは沙悟浄の持つ武器にも共通している。
キィィンッ!!!
ブンッ!!!
迫りくる謎の生物に向かって容赦なく刀を振り下ろし、下ろされた刃は謎の生物の体を一刀両断する。
その刃は止まる事なく、真っ二つになった謎の生物の後ろにいた生物達の体をも斬り裂く。
ブシャアアアッ!!!
「おっと、危ない」
謎の生物の体から噴き出した黒色の血液を風鈴が代わりに被り、沙悟浄の顔に血が付かないように阻止した。
風鈴の行動を見た沙悟浄は驚き、自身の服の袖で風鈴の顔に付いた血液を拭う。
「何やってんだ、お前!」
「ムグッ!?大丈夫だよっ、そんな事しなくても」
「良いから、顔こっちに向けろ。拭いてやるから」
「いやー、ご主人様に優しくされたら頑張らないとねぇ」
ゴォォォッ!!!
沙悟浄に優しくされた風鈴は、自身の神器である風火二輪に纏っている火を燃え上がらせ、目の前にいる謎の生物達に向かって投げ飛ばす。
ブンッ!!!
投げ飛ばされた風火二輪に当たった謎の生物達の体が一気に燃え上がり、自由自在に動く風火二輪は次々と謎の生物達にぶつかって行く。
火の中から哪吒は自身の神器である斬妖剣を構え、三蔵に近寄ろうとする謎の生物の体を斬り付ける。
「「ギエエエエエ!!!?」」
ブシャアアアッ!!!
哪吒に斬られた謎の生物の体に傷口から、黒い小さな虫達が零れ落ち、一斉に哪吒に向かって飛び出した。
飛んできた虫達を斬ろうとした時、背後から力強く腕を引かれ、哪吒の顔の横を数枚の札が通り過ぎ、虫達の目の前で札が爆発する。
ボンボンッ!!!
「変な虫が飛んできたけど、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だけど…。いきなり腕を引っ張て来たから驚いただけ」
「ちっさい虫を斬り落とそうとしてただろ?さすがの哪吒でも全部は斬れきれないだろ?ここは俺に任せろ!札なら沢山あるし!」
そう言って三蔵は、懐から爆破札を取り出して哪吒に自慢げに見せる。
「ハッ!!!」
ズシャッ!!!
泡姫は淡々と謎の生物達の急所部分であろう部位に槍を突き刺し、数を減らしていくが次々と謎の生物達は空から降りて来ていた。
ブンッ。
荒くなった呼吸を整えながら槍の刃に付着した血を払い落しながら、謎の生物達の大群に視線を向ける。
「はぁ、はぁ…、殺しても殺してもきりがないわね」
「「オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ」」
「チッ、この化け物が」
迫りくる謎の生物達に向かって槍を構えた時、泡姫の視界に沙悟浄の大きな背中が写った。
沙悟浄の背中を見た泡姫の心臓が高鳴り、どこかほっとしている自分が居る事に気付いてしまう。
「大丈夫か?泡姫。一人で結構な数を片付けたな」
「べ、別にこれぐらい大した事じゃないわ。何しに来たのよ」
そう言って、泡姫は沙悟浄から返って来る言葉達を予想していく。
『お前を助けにきた』、『女なんだから、俺の後ろにいろ』、男が女に言いそうなありきたりな言葉を並べていくが、沙悟浄から返ってきた言葉は予想とは違うものだった。
「泡姫に、俺の背中を守ってもらおうと思ってな?」
「は?」
「これだけの数を相手するとなると、安心出来る仲間に背中を預けないといけない。泡姫に腕は確かだ、頼まれてくれると助かる」
その言葉を聞いて、泡姫の顔が赤く染まり胸が締め付ける。
この感情が何なの泡姫は知っていた、自覚してしまえば後戻り出来ない事も、美猿王に抱いていた感情だからよく知っていた。
駄目だと言い聞かせても高鳴る鼓動を止める事が出来ない。
「ちょっと、ご主人様。僕がいるのに人魚の方を頼るの?冷たいなー」
「お前の役目は援護、猪八戒の援護に行ってくれ」
「えー」
「えーじゃない、俺の頼みを聞いてくれ」
風鈴は沙悟浄に言われて、仕方なく猪八戒の援護に向かって行く。
キィィンッ!!!
羅刹天の武器は謎の生物の固い体に跳ね返され、体が後ろに大きくのけぞってしまう。
「固っ!?おい、何でお前の武器はコイツ等に対応してんだ!?」
「如来は自分の神力を武器に注いで戦ってるんだ。恐らく、奴等には神力が宿ってる武器にしか攻撃は通じないだろう」
「はぁ!?じゃあ、お前等しか戦えないって事かよ!?」
「羅刹天の武器も、君が神獣の位を貰ってから支給された天界の武器だ。神力を注げば奴等に届く刃になるけど…」
観音菩薩はそう言いながら羅刹天の隣にいる雨桐に視線を向ける。
雨桐は観音菩薩が何を言おうとしているのか分かり、観音菩薩が言葉を放つ前に口を開く。
「私の体から神力が流れている事について、不思議に思われていたのでしょう?観音菩薩様。私は妖怪と名乗っていたから」
「おい、どう言う意味だ?雨桐。お前は蛇女だろ?俺と出会った時に、そう言ってたろ」
「…、ごめんなさい羅刹天様。貴方に嘘を吐いていました」
「嘘?俺に嘘を吐かないといけない理由でもあったのか?」
羅刹天の言葉を聞いた雨桐は、視線を下に落としながら話をする。
「貴方が蛇の姿だった私を拾ってくれたのは、妖だと思ったからでしょう?神嫌いだった貴方は、私が神獣だと知ったら側に置いてくれなかったでしょう?瀕死状態だった私を、何の見返りもなく助けてくれた事が嬉しかったのです」
雨桐の中で羅刹天と出会った頃の記憶が鮮明に思い出され、目頭が熱くなってきてしまう。
「確かに、お前を拾った時は神が嫌いで仕方なかったな。俺に捨てられたくなくて、今まで黙ってたって事か」
「ごめんなさい、羅刹天様。私、貴方の側を離れたくなかったから…」
「俺はお前が妖怪だろうが、神獣だろうが、関係ねーよ。俺がお前に名前を付けた時から、雨桐は俺のモノだ」
「羅刹天様…」
羅刹天にとって、雨桐が妖怪か神獣かは大した問題ではなかった。
自分が拾い、名前を付け、側に置いているかいないかのどちらかだけ。
「良いか、雨桐。そんな事は大した問題じゃねーよ、あの日から雨桐は俺のモノ。その命すらもな?」
羅刹天の力強い瞳を見た雨桐の顔に熱が籠り、体が熱くなって行くのが自分自身で分かる。
雨桐が羅刹天の所有物なんだと実感出来る瞬間であり、自分がどう言う扱いをこれからされるのかと鼓動が早くなっていく。
「雨桐、お前は俺のモノだと言う事を自覚してるな?」
「勿論です、羅刹天様。私は貴方のモノですわ」
「お前の体も、その命もだ」
そう言いながら羅刹天は雨桐の心臓部分を指で触れ、下から顔を見上げる。
「フッ、顔が赤くなってる、それに鼓動も早い。来世でも、お前は俺のモノだと言う事を肝に銘じろ」
「来世でもお傍に置いて下さるのですか?羅刹天様」
「俺様が拾ったんだ、当たり前の事を聞くなよ?雨桐」
「ふふ、失礼しまし…、あっ」
言葉を言い終える前に雨桐の顎を軽く指で上げ、羅刹天は雨桐に命令するように言葉を吐いた。
「俺の為に死んでくれ、雨桐」
「は!?何言ってんだよ、羅刹天!!!」
近くに居た三蔵が羅刹天の言葉を聞いて、すっ飛んでくる。
「三蔵、お前も目に焼き付けておけ」
「
焼き付けておけって、何をだよ」
「神力身代わり代行の光景を、この先の戦いの中で使う事になるだろうから」
「お前は口を挟む場面じゃねーぞ、これは俺と雨桐の話だ」
観音菩薩の話を聞いていた三蔵を羅刹天は睨み付け、自分達の間に入って来ないようにさせた。
三蔵は口をつぶんで羅刹天と雨桐に顔を交互に見つめ、今から起きるであろう光景から目を離してはいけない気していた。
「誰に何を言われようが、私の気持ちは変わりません。貴方の為に死ねるなんて、これ以上の幸せはありません」
「俺の刃になれ、雨桐」
「はい、羅刹天様」
雨桐が羅刹天の刀に触れると目が開けられない程の光が放ち、どこからともなく暖かい暴風が吹き荒れる。
ブオォォォッ!!!
暴風に巻き込まれた謎の生物達は、体に自由が利かないまま空高く飛ばされて行く。
「な、何なの?この風はっ、どこから風が?」
「泡姫、飛ばされないように俺の腕に捕まれっ」
「えっ?う、うん」
泡姫は吹き飛ばされない為に沙悟浄の腕に捕まり、釈迦如来は力強く観音菩薩の体を抱き締めた。
「おい、三蔵っ、羅刹天達の身に何が起きてんだ!?」
「雨桐が羅刹天の武器に触れたら、いきなり光り出してっ」
「え?何だってっ?」
ブオォォォッ!!!
猪八戒の問い掛けに答えた三蔵だが、暴風の所為で上手く聞き取れない。
吹き荒れた暴風は羅刹天の元に集まり、風の中から銀色の鎖が現れた瞬間、暴風は無くなり羅刹天の姿が現れる。
更に太くなった刃には蛇の絵が刻まれ、持ち手部分に巻かれた鎖が羅刹天の手に巻き付き、雨桐が着ていた服だけが足元に残されていた。
「「オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァヤ、オン・ナマハ・シヴァ…」」
ズシャッ。
羅刹天の前に集まった謎の生物達の頭が次々と斬り落とされ、斬られた傷口から真っすぐに黒い血液が噴き出す。
体勢を低いまま進化した武器を構え、謎の生物達に向かって一気に足を踏み込み、謎の生物の胴体を真っ二つに斬り裂く。
ブシャアアアッ!!!
飛び散る黒い血液と血肉の中、羅刹天の白い牙が光り、見せない速さで次々と謎の生物達を斬り倒す。
シュシュシュシュッ!!!
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!!
「俺様をもっと楽しませろ、あはははは!!!」
刃に宿った一筋の光りだけが三蔵達の肉眼で捉えられ、この場は羅刹天の独壇場へと変貌する。
「おらおら、どうした!!?
「今のは羅刹天がやったのか?雨桐の着ていた服が落ちてるのは…、どう言う事なんだ?観音菩薩」
「雨桐の正体は神獣だったんだ、羅刹天が持っている武器は天界で作れた物。神獣は命の源である神力を失えば死ぬ、雨桐は羅刹天の武器に神力を全て注いだんだ」
「死んだって事なのか?」
「それが神力身代わり代行の代償だ」
観音菩薩の話を聞いた三蔵は、さっき自分達が持ち出した神器の事が頭の中を過り、この戦いは、仲間の命を使ってまで勝たないといけない戦いなんだと実感した。
「ここまでしないといけない戦いなんだな、俺達が立ってる戦場は」
「さ…」
【ハル・ハル・マハーデーヴ】
ビュンッ!!!
低音の男の声が聞こえた瞬間、空からビームのようなものが飛ばされ、観音菩薩の肩を貫く。
ブシャッ!!!
「ガハッ!?」
「観音菩薩!?」
血を吐きながらよろめく観音菩薩の体を弥勒如来はすぐに支え、観音菩薩はすぐに空に視線を向ける。
【ハル・ハル・マハーデーヴ】
金色の西洋の魔法陣が無数に浮かび上がり、魔法陣の中から光の玉が形成され、再び呪文を唱えられると、一瞬で三蔵達に光のビームが降り注がれた。
シュシュシュッ!!!
「おい、何だよこれは!?」
「とにかく避けろ!!!」
猪八戒に声をかけながら沙悟浄は泡姫を抱き上げ、降り注がれる光のビームを器用に避けて行く。
三蔵は懐から防御用の札を取り出し、哪吒の腕を引きながら「オンアラビアンキャン・シャラタク」と唱える。
哪吒と三蔵、観音菩薩と弥勒如来を囲む結界が形成され、一時的に攻撃を防ぐ事に成功するが、ビームが当たる度に結界に亀裂が入って行った。
風鈴も三蔵と同じように猪八戒達を結界内に入れ、攻撃から身を守っているも同じように結界に亀裂が入っている。
「おいおい、これってかなりヤバいんじゃないのか!?結界にも亀裂が入ってきてるし!!!」
「僕の結界にケチ付けないでよね!これでも持ち堪えさせてる方なんだから!空から降って来てる光の威力が強過ぎるんだって!」
ピキピキッ。
猪八戒と話しながら風鈴は結界を維持させる為に、霊力を注ぎ続けるが、結界に入った亀裂が広がって行く。
ブチッと音を立てて、風鈴の腕の皮膚が破け血が噴き出し、鼻からも血が垂れていた。
「おい、お前!鼻血出てんぞ!?大丈夫か!?」
「僕は陰陽師や三蔵みたいに坊さんじゃないから、結界を補強させると体にダメージが来るんだよ。集中出来ないから、お前は黙っててっ」
風鈴はそう言って猪八戒を黙らせ、集中して霊力を注いで補強させる。
キンキンキンッ。
三蔵が張った結界に光のビームが当たり、弾かれる音が結界内に響き渡っていた。
「シヴァの仕業か、観音菩薩」
「ここで僕達をまとめて消そうとしてるね、痛たた…」
「無理に動くな、傷口が広がる」
肩の傷は思った以上に重症で大きな円型の穴が開き、ぼたぼたと血が垂れ落ち、三蔵達の目から見ても酷い怪我だった。
弥勒如来が観音菩薩の傷口に触れ、神力を注いで治療術を施そうとしたが、観音菩薩は弥勒如来の手を掴んで止める。
「観音菩薩?」
「如来、三蔵達の事を頼んでも良いかな」
「それはどういう意味だ、観音菩薩」
「如来、分かってるだろう?僕の言っている意味が」
観音菩薩に言われた弥勒如来は、観音菩薩が何を言おうとしているのか分かっていた。
だが、弥勒菩薩は今回ばかりは観音菩薩の考えを理解したくなかったのだ。
「この光の攻撃を防ぐには、僕の防御術が必要だ」
「やめてくれ」
「観音菩薩?如来?」
三蔵は観音菩薩と弥勒如来が何か言い合いしている声が聞こえ、視線を向けると弥勒如来が辛そうな表情を浮かべている。
二人の間に流れている空気が重くなり、三蔵の声も二人には聞こえていない。
「神器を手にした今なら、僕の力が無くても悟空達と合流してくれたら…」
「やめてくれ!!!」
「「っ!?」」
弥勒如来の大声を聞いた三蔵と哪吒の体がビクッと反応し、弥勒如来は観音菩薩の傷をしていない方の肩を掴む。
「観音菩薩、俺はお前の考えにいつも付いて来たよ。何故か分かるか?観音菩薩、お前が俺を地下牢から連れ出した日から、俺はお前のモノだからだ」
「如来…、君が僕のモノだと言う事は自覚してなかった。君は僕のモノではなく、大切な家族だ」
「じゃあ、なんで俺の事を離そうとするんだ!!明王と天部が命を懸けてまで下界に送ったのは、観音菩薩の目的を叶える為だったろ!」
「明王と天部の気配を感じない、天界に戻って来ていても。彼等が死んでしまった事を、認めるしかなくなった。天竺に行けるのは僕じゃない、三蔵達と言う事を忘れてしまったのかい?如来」
観音菩薩の決意の籠った眼差しを弥勒如来は直視出来なかった。
彼が本当に世界を変える為なら、自分の命すらも捧げる覚悟が出来ている事も、誰よりも近くで見てきていたこそ。
観音菩薩の意志を弥勒如来は、変える事が出来ないと分かっていたのだ。
「何で、お前はいつもそうなんだ。俺の気持ちを分かってる上で、お前の為に死ぬ事を許してくれない」
「ごめんね?如来。僕は君の事が何よりも大切だから、僕なんかの為に死なせてあげない」
「観音菩薩、貴方は何をしようとしてるの」
「君達を下界に送る」
哪吒の問いに答えながら懐から長い黒水晶の天玉を下界転送用の札を取り出し、三蔵に視線を向ける。
*天玉とは、主玉の間にある小さな玉で、四天王や四菩薩を象徴している数珠の事*
観音菩薩は下界転送用の札を渡しながら、今からする事を説明し始めた。
「良いかい、三蔵。僕が結界の呪文を唱え出したら、猪八戒達と共に下界に行きなさい。この札を使えば下界に行ける、天・地・転・送を唱えれば下界に行けるから」
「待てよ、観音菩薩!この札、一枚しかないぞ。観音菩薩の分もあるんだよな?」
「下界転送用の札は残り一枚だ、君達の分しかないよ」
「まさか、お前はここに残るつもりなのか!?怪我した状態で残るって、何考えてんだよ!?」
「君達を天竺に行かせる為に決まってるだろ」
力強い言葉を聞いた三蔵は口をつむんでしまう、観音菩薩の言葉に何も言い返せれないからだ。
「天界に神器を取りに来たのは、今起きている戦いで必要になるからだ。シヴァが送ってきている怪物達にも、この武器は通用する事が分かった。安心しなさい、如来が僕の代わりに君の側に居る」
「アンタ、如来の気持ちを考えてやれよ!今の如来の顔を見てんだろ!?俺の側よりも、アンタの側に居たいに決まってるだろ!?良いのか、二度と会えないんだぞ!!!」
ジャラッ。
天玉は音を鳴らしながら長さが伸び、観音菩薩は両手で合掌させ座禅を組もながら唱える。
「オンキリク・シュチリビタカナダ・ナサヤ・タンバヤ・ソワカ」
ドンッ!!!
観音菩薩から金色の光が噴き出し、手に持ってた天玉は光り輝く錫杖に姿を変え、観音菩薩の背後から仏像が現れた。
「オン…」
「…ックソ!!!」
観音菩薩が結界術の呪文を唱え始めた瞬間に、弥勒如来は三蔵の腕を力強く掴み、猪八戒達の元に走り出す。
「おいっ、如来!本当に観音菩薩の事を置いて行くつもりか!?」
「…っ」
「なぁ、如来っ!!!」
「置いて行たくないに決まってんだろ!!!」
「っ!」
何も答えない弥勒如来に声を掛け続けていた三蔵だったが、振り返ってきた弥勒如来の表情を見て何も言葉が詰まった。
瞳には涙が溜まり、とても苦しそうな表情を浮かべながら観音菩薩の背中を見つめる。
観音菩薩の体が光で覆われ、空一面に金色の薄い壁が広がって行っているのが三蔵の目でも確認出来た。
弥勒如来は名残惜しそうに観音菩薩の背中から視線を逸らし、唇を強く噛みしめたまま足を動かす。
「オンアラビアンキャン・シャラタク、観音防壁」
観音菩薩が唱え終えると、背後に現れた菩薩が広げていた両手を合わせて閉じた瞬間、光のビームと謎の生物達の姿が消滅し、結界に金色の花達が咲き誇る。
観音防壁は歴代の観音菩薩達が受け継いできた術、結界内でも結界外の敵達の姿を消し、無に帰す防御と消滅が合わさったもの。
金色の小さな雫が降り注ぐ中、観音菩薩と弥勒如来の二人の視線が合わさった。
「これは観音菩薩がやったのか?化け物達の姿が消えた?」
「歴代の観音菩薩達が作り出した技だ。三蔵、札を使…」
沙悟浄の問いに答えながら三蔵の顔を見ずに言葉を放った時、観音菩薩の背後に黒い穴が開き、中から太い腕が現れる。
「観音菩薩っ!!!後ろを見ろ!!!」
「っ!?」
ズシャッ!!!
弥勒如来が声を掛けた時にはもう謎の手は菩薩の腹をも貫き、勢いが止まらないまま観音菩薩の腹を貫いた。
コメント
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読み終えたよ…。 今回、羅刹天と雨桐の「神力身代わり代行」のシーンがすごく胸に来た。雨桐が「来世でもお傍に置いて下さるのですか」って聞くところ、羅刹天が「俺のモノだ」って言い切るところ、全部重くて美しくて…。でも、その後で観音菩薩が襲われる展開は本当に予想外で、心臓が止まるかと思った。 観音防壁のシーンも、金色の花が咲き誇る描写が儚くて綺麗だった。弥勒如来が「置いて行きたくない」って叫ぶ場面、彼の苦しみがひしひしと伝わってきて、泣きそうになったよ。 次がどうなるのか、続きが待ちきれない。百はな🍑さん、今回も本当に素晴らしかった…。ありがとう。