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私は、越後の長尾景虎殿を訪ねていた。
「お初にお目にかかります」
私は静かに頭を下げる。
「正蛇方円と申します」
「……よく参られた。して、要件は何か」
長尾景虎殿は、こちらを見据える。
「単刀直入に申し上げます」
私は真っ直ぐに景虎殿を見つめた。
「上杉憲政様に、お会いすることは可能でしょうか」
「可能ならば……元の権威を戻して差し上げたいのです」
「……お会いすることは可能だが」
景虎殿は少し眉を寄せる。
「元の権威を戻して差し上げたいとは……」
「嫌ですわ」
私は即答した。
「そんなの、決まっているではありませんか」
「北条に間違いを認めさせて、土地をすべて取り返すのです」
「そして……」
そこで、声が少し震える。
「失われた命は、戻らないのが口惜しい……」
「お労しや……」
私は目元を押さえた。
「……」
長尾景虎は、しばし言葉を失った。
(……なんなのだ)
(言っていることは正しい。正しいのだが……)
(どこか、不気味だぞ……)
「……コホン」
景虎は咳払いをする。
「貴殿は、あの信玄殿の妹なのだろう」
「なぜ、そこまで悲しまれるのかな」
「私は……」
私は静かに顔を上げる。
「正しく戻さないと、気が済まないのです」
「小笠原、諏訪、村上を――」
「元に戻したのが、その証拠ですわ」
景虎は黙って私を見つめる。
「北条の統治そのものは、正しいのです」
「ですが……」
私は、少しだけ笑みを浮かべた。
「関東管領にやったことは、兄がしたことと同じですわ」
「だから、叩き――」
「……コホン」
「……間違いを認めさせないと、気が済まないのです」
私は穏やかに微笑んだ。
その笑顔を見ながら、景虎は思う。
(……やはり、どこかおかしい)
(だが――)
(この者の言う「正しさ」が、偽りでないことだけは分かる)
富来 えび
122
#自分用
富来 えび
20
һагυ_彡
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コメント
1件
ああ、読ませていただきました……第三章、越後の龍。 景虎殿の前で「嫌ですわ」と即答する正蛇さんの、あの凛とした強さが印象的でした。でも、その直後に「失われた命は戻らないのが口惜しい」と震える声が漏れるところで、胸がぎゅっとなりました。 景虎殿が「不気味だ」と感じながらも“正しさ”を認める、その拮抗した距離感がすごく好きです。正蛇さんの執念の奥にある哀しみが、じわじわ伝わってくる回でした。続きが待ち遠しいです🌷