この作品はいかがでしたか?
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『みんな、さようなら。』
その言葉が合図だったかのように、生配信が乱暴にブチッときられた。
ニュースを開くと、ランキング上位に
『ドズル社 おおはらMEN脱退。 喧嘩か、病気か。視聴者による考察がXでポストされている。…………』
と表示されている。
その綴られた文字に、何も考えられなくなる。
MENは、今日でドズル社を脱退した。理由は病気。
だいぶ深刻な状況だそう。結構前から病気だったらしいけど、僕らは何も聞かされていなかった。
1週間前、MENが突然言い出したのだ。
そして、外国の大きな病院に行くそうで、しばらく動画に出られない。
僕やおらふくんは、脱退なんてしてくていいと言ったが、
『俺がいなくなったら、俺の席は”いなくなった”俺じゃなくて、他の人に入って欲しいから。それに、脱退したほうが楽だから。』
と1回も目を合わせずに言われた。
全くMENの異変に気付いてあげられなかった僕は、社長失格だ。
久々にリアルで会ったMENは、前会った時よりも痩せ細っていた。
前に会ったのは5ヶ月前で、その間ご飯に誘っても来なかった。
その時点で、ちゃんと気付いてあげられれば………。
会社にあるMENのゲーミングPCの前で、1人泣き続けた。
翌日の朝、MENは外国へ行った。
みんなで見送りをしたが、とてつもなく最悪な雰囲気だった。
ぼんさんはMENと目を合わせないし、おんりーは心なしか怒っているように見えたし、おらふくんはずっと僕の腕の中で泣いていた。
MENも、みんなの反応が分かっていたかのように笑ってみせた。
「みんな、ばいばい。」
MENは少しすると見えなくなった。早くこの場を去りたかったんだろう。
「くっそ………何が『ばいばい』だよ。」
ぼんさんは、目にたくさんの涙を浮かべながら、怒った口調で言う。
「MENなんて…大嫌い………。」
おんりーはそう言った後、ぼんさんに抱きついて、誰にも顔が見えないように静かに泣いていた。
「『またね』が良かったなぁ………。」
おらふくんは、僕の腕の中で呟く。
僕は一言も言葉を発することなく、おらふくんをギュッと抱きしめて泣いた。
MENがいなくなった反動で、みんな別人になったかのようにボーっとしている。動画を撮る気力もない。
それは帰宅部の2人も同じようで、ニュースでは、帰宅部の2人が消えたと言われている。
多分、2人は僕たちより先に知らされていたんだろう。約1ヶ月程、YouTubeの更新がされていないようだ。
他のアツクラメンバーも、いつも生配信している時間に生配信していない人がいる。とてもショックだったんだろう。
ドズル社チャンネルは在庫を投稿してるため、まだ続きそうだ。
でも、時間の問題だろうな。
僕はみんなに向けて、
『しばらく撮影は無しにしよう。』
とメッセージを送った。
そこに、『既読4』と付くのはとても複雑な心情だった。
MENがいなくなって、しばらく経った頃。
会社の自分専用ゲーミングPCの上に、紙切れが置かれていることに気が付いた。
紙切れを見ると、MENの字が綴られていた。
ドズルさんへ
勝手に脱退するとか言ってごめんなさい。
約束します。絶対帰ってきます。
「本当、自分勝手だなぁ………。」
最近、泣いてばかりな気がする。
「ばいばい、とか言ったくせに……。」
きっと、彼は僕にだけこの手紙を置いていった。
これは、MENからの新しい企画提案。
『病気で脱退したメンバーが、急に戻ってきたら、みんなはどんな反応をするのか。』
僕は、大粒の涙を流しつつも、口角の上がりが止まらなかった。
MEN、ここは歯茎出してても良いよね。
仕掛け人は僕とMENだけ。
スタッフさんにも、視聴者さんにも、勿論メンバーにも。完全に内緒で計画を実行する。
いつMENが帰ってくるのかは分からないけど、絶対、戻ってくる。
この企画は、撮ってすぐに投稿しよう。
1人暗い部屋で、僕は計画を続けた。
「なんか……久しぶりの動画撮影ですね、。」
おんりーがマイク越しにポツリと呟いた。
そろそろ在庫が尽きてしまいそうなので、少しずつ活動を再開していくことになった。
MENがいなくなってから2週間。相変わらず、ドズル社には寂しい風が吹いている。
撮影が始まると、みんなは撮影前とは別人かのように笑い合い始めた。
たまにMENのことを思い出すのか、沈黙時間も多少増えていた。
でも、微かにいつものみんなじゃないことは、本人が一番分かっているだろう。
ぼんさんはボケが少なくて、いつもよりサボってばかり。
おんりーは凡ミスが増えて、口調も少し強い。
おらふくんは明らかに口数が少ない。
でも、僕は変わらなかった。
3人とは違って、MENがたまに連絡をくれるのだ。
『今日、やっと薬が効いてきたんですよ。』
『そうなんだ!良かった〜!』
『病室に面白い女の子がいて……。』
『寂しさが緩和するね。仲良くなれる人がいて良かった!』
『前、話した女の子、手紙をくれましたよ。』
『英語で書いてあった?日本語で書いてあった?』
『女の子も日本人らしいので、日本語です。小学生だって言ってて、学校に行くのが楽しみらしいですよ。』
『そっかぁ〜、学校、行けるといいね。』
『はい、俺も応援してます。』
『あの女の子……、亡くなっちゃったらしいです。』
『えっ、うそ……。』
『病気が悪化したらしくて、しばらく会えなかったんですけど……、手紙をくれて、2日後に……。また、寂しくなります。』
『きっと、女の子は天からMENがドズル社に戻ってこれること願ってるよ。』
『そうだと……いいです。』
『少し寂しいです。みんなは元気に過ごしてますか?』
『全然(笑)みんなMENいなくって寂しいって。』
『もー、みんな構ってちゃんだな〜w』
『僕が元気やっとくよ。』
『ありがとうございます。俺の分までボケて下さい(笑)』
『(笑) 了解!』
静かに活動復帰してから1週間。
『ドズルさん、お知らせがあります。』
MENから、一件の連絡が来た。
どうしたの、と連絡を入れると、すぐに既読がついた。
『明日、日本へ戻ります。』
その一文に、僕の目は涙でいっぱいになった。
『まじ⁉⁉迎え行くよ。』
お願いします、と返信が来て、今日は明日のために早めに眠りについた。
「あ、MEN!こっちこっち。」
久しぶりに会うMENは、目に染みるほど見慣れない。別れる前よりもずっと、痩せていた。
「あ、ドズルさん、お久しぶりです。」
久々の、MENの声に涙が溢れて止まらない。
「はは、こんな所で泣かないで下さいよ。」
MENは優しい笑みで、僕を包みこんでくれた。
「これがね、こうなって……。」
MEN帰還ドッキリは、明日の撮影にやることになった。
スタッフさんは、急に僕が企画主催やります、と言って驚いていた。社長がついに頭おかしくなったとか思ったんだろう。だいぶ心配していた。
「で、ここまで終わったら、スペシャルゲストでMENの登場ね。」
僕の提案にMENはニッコニコになっていた。
「気持ち悪いなw」
MENはすいません、すいませんwと言いながら、僕が作った資料を眺めていた。
「みんなに会えるのが楽しみでしかたなくって。」
MENは本気で幸せそうな顔をしていて、僕も幸せでしかなかった。
「今日の企画は、主催、計画全てこの僕がやりました!」
昨日、不思議な連絡が俺たちに入った。
『明日は、動画1本だけです。その動画はその日中にアップしたいので、午前中集合でお願いします。』
なかなかない連絡に、俺もおんりーもおらふくんも、みんな戸惑っていた。
企画内容を全く聞いていないため、何をしたら良いかも分からない。
「今回やって頂くマップは『ナカマ集め』。」
マップ、という言葉に俺たち3人は敏感に反応した。
ドズさん1人で、マップなんて作れるはずない。そもそも、マップらしい景色じゃない。
ここは、ごく普通のオーバーワールドだ。
それでも、俺たちはマップを探索し始めた。
「”ナカマ”を集めていけばいいんですかね?」
おんりーが題名から予想して、色々マップを探索する。
説明も何もないので、俺たちは戸惑いながら”ナカマ”を探した。
探しながら気付いたのは、遠くに行ったら声が聞こえなくなること。
サバイバルで、ブロックを壊せるし、クラフトもできるということ。
そして、今日は撮影で全く仕事のないスタッフさんも、スペクテイターでこのワールドにいるということ。
それと、少し遠いところに……、
たいたいときおきおのネームタグらしきものが見えるということ。
「なんか、このマップ……、ネームタグが異様に見えます。」
それに気付いたのは、いつも通りおんりー。
いつもなら見えない距離でも、ネームタグがみえるのだそう。それプラス、たいたいときおきおらしき人には、発光がつけられているんだとか。
「オーバーワールドにいるのは、多分6人ですね。」
おらふくんが、しばらく黙って周りを見渡してるな、って思ったら、人数を数えていたらしい。
「アツクラメンバー……かな。」
俺がそう呟くと、おんりーもおらふくんも、そうだと思います、と言った。
オーバーワールドでは、最初にきおきおとたいたいに会って、次にまぐにぃさん、カズさん、さんだー。
そして、最後にまろくんと出会った。
9人でネザーへ行くと、たいたいときおきおの発光は解除された。
ネザーにも、9人のネームタグが見えるらしい。
「多分、メスじゃじゃ、さんちゃんく、まえよんの9人かな。」
まぐにぃさんの言葉は大正解。
最初に、さんちゃんく。次にじゃじゃ、ヒカ、ぎぞ。そして、メス、P、コハ。
これで、アツクラメンバー全員が揃った。
MENとドズさん以外は……。
アツクラメンバーはみんな、何も知らずに企画に参加させられたらしい。
本当、今日のドズさんは何を考えているのか分からない。
さんちゃんくの3人は、ドズル社の企画だから、とりあえずエンドラ討伐への準備をしていたらしい。
3人の考察は、間違っていないと思い、みんなでエンドラ討伐の準備をした。
18人もいれば、パールとポテトの集まり具合尋常じゃなかった。
要塞特定も、とんでもなく早くて、おじズはずっと雑談しているだけだった。
エンドに入ると、目の前にドズルさんが現れた。みんな、無責任なドズルさんに文句を言った。
「ここからが本番ですからw」
ドズさんが笑いながらみんなに言う。
「でも、エンドラのボスバー無くないですか?」
まろくんが鋭い所を突くと、ドズルさんは、ふっ、と鼻で笑った。
「みなさん、お忘れではないでしょうか。」
ドズさんの意味深な言葉に、みんなはシンと静まり返る。
その言葉を聞いた途端、一番最初にエンド中心に走り出したのは、帰宅部の2人だった。
……いや、帰宅部は2人じゃない。
ドズル社も、4人じゃない。
“ナカマ”は、これで全員じゃない。
「おおはらッ……!!!!」
「おおはらぁぁああ!!!」
2人の叫び声が、鼓膜を揺らした。
他の”ナカマ”もみんな、走り出した。
おんりー、おらふくん、そして俺は、会社のMEN専用の撮影部屋へ走った。
ガチャッと勢いよくドアを開けた先には………、
「ん、おっす。」
MENに抱きつく俺たち3人は、MENの腕の中で大号泣した。
入口で、会社にいるスタッフさんが集まって泣いていた。
「へへっ、ドッキリ大成功ですね、ドズルさん。」
MENの言葉に反応したドズさんの声が、MENのヘッドホンから微かに聞こえる。「よかったね、みんな。」と。
MENが苦笑いしながら、「今から、喋るから離れてw」と言った。
「画面の前のみんなも、驚いたと思います。俺は今日から、また素敵な”ナカマ”と一緒に生きていきたいと思います。」
コメント
8件
一番、感動した(´;ω;`)
最高すぎます…! 最後のドズさんのセリフから メンバー達が駆け寄ってくとこ めちゃ感動しました……(;^;)
ドズルさんの「ナカマはこれで全員ですか?」ってところやばい...、 え、全然泣ける...