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もし桃が頭痛を隠していたら
桃体調不良注意
1,2,3サポート(上から順番です)
5,6金曜or土曜更新予定
プロフ書いてるんですけど更新日程水曜と土曜になりました!
たまに不定期投稿します🙇♀️
合計8000字⬆️
赫
「……っ」
桃は鏡の前で、一瞬だけ目を閉じた。
頭の奥が、ずきんと痛む。
朝から感じていた違和感は、もう誤魔化せないくらいになっていた。
偏頭痛。
桃自身には、それが分かっている。
視界の端が少しだけちらつく。
頭を動かすと、奥に響くような痛みがある。
桃「……今日、かぁ」
小さく呟いて、額を押さえそうになった手を止める。
今日は赫との個人ダンス練。
二人で合わせたいところがいくつもある。
ここ最近、頭痛が続いていた。
そのたびにメンバーに伝えている。
『今日ちょっと頭痛い』
そう言えば、みんなすぐに気遣ってくれる。
休憩を増やしてくれたり。
音量を下げてくれたり。
無理しなくていいと言ってくれたり。
嬉しかった。
本当にありがたかった。
だからこそ。
桃「……また言うの、嫌やな」
何度も心配させている。
また「大丈夫?」って聞かれる。
また練習を止めてもらうかもしれない。
桃「……今日は黙っとこ」
そう決めた。
これくらいなら、できる。
少しくらい痛いだけ。
最後までやればいい。
――――――――――
「桃くーん!」
ドアが開く。
赫「お待たせ」
桃「お、赫。お疲れ」
赫「お疲れ。今日、ここだよね?」
桃「うん。昨日送ったところ」
赫「じゃあ早速やろうか」
桃「そうしよ」
いつも通り。
桃は笑って返した。
赫も何も気にしていない。
それを確認して、桃は少しだけ安心する。
桃「一回、頭から通してみよっか」
赫「うん」
音楽が流れる。
身体を動かす。
最初の数秒は問題なかった。
けれど、ターンした瞬間。
ズキッ。
桃「……っ」
一瞬だけ目を細める。
8,897
10,053
#初投稿
あや
30
それでも止まらない。
そのまま踊り続ける。
最後まで踊り切った。
赫「どうだった?」
桃「んー……」
桃は息を整えながら鏡を見る。
桃「最後のところ、俺ちょっと遅れたな」
赫「うん。でも一回目だし、そこは合わせれば大丈夫そう」
桃「じゃあもう一回やろ」
赫「休憩しなくていい?」
桃「大丈夫」
即答だった。
赫「そっか」
桃「うん。もう一回いこ」
二回目。
今度は痛みが少し強くなった。
それでも、桃は動きを止めない。
ターンを少し小さくする。
頭を大きく振らないようにする。
なるべく普段通りに見えるように。
赫「……」
二人で踊り終える。
赫「今の、桃くん最後ちょっと遅れたよね」
桃「うん。ごめん、もう一回やろ」
赫「いや、そんな急がなくても」
桃「大丈夫大丈夫」
笑う。
赫「……分かった」
三回目。
桃は少しだけ深く息を吸った。
大丈夫。
まだいける。
音楽が始まる。
けれど途中で、また痛みが走る。
桃「……っ」
ほんの一瞬、動きが止まった。
赫「桃くん?」
桃「ごめん!」
すぐに動き出す。
桃「今のもう一回やらせて」
赫「うん」
桃「次はちゃんとやるから」
赫「そんな気にしなくていいよ」
桃「いや、俺が気になるから」
赫「……そっか」
また音楽が流れる。
――――――――――
それからしばらく。
何度も同じ部分を繰り返した。
桃は一度も「休憩したい」と言わなかった。
いつもなら、
「ちょっと水飲も」
とか、
「一回休憩しよ」
とか言うのに。
今日はそれがない。
赫は最初こそ気にしなかった。
けれど、何度目かの休憩のタイミングになっても桃が動き続けているのを見て、少しだけ眉を寄せた。
赫「桃くん」
桃「ん?」
赫「ちょっと休憩しない?」
桃「え? まだいけるよ」
赫「でも、もう結構やってるよ」
桃「赫、疲れた?」
赫「そういうわけじゃないけど」
桃「じゃあ大丈夫」
また笑う。
赫「……桃くんって、今日ずっと『大丈夫』って言ってない?」
桃「そう?」
赫「うん」
桃「そんな言ってる?」
赫「言ってる」
桃「はは。気のせいやろ」
そう言って、桃はペットボトルに手を伸ばした。
けれど。
キャップを開ける手が、ほんの少し震えた。
赫はそれを見ていた。
桃は気づいていない。
――――――――――
さらに時間が経つ。
桃は何度もミスをした。
普段ならしないようなところで振りを間違える。
カウントを一つ飛ばす。
同じところを何度も確認する。
そのたびに、
「ごめん」
「もう一回」
「今の俺」
と言う。
赫「桃くん、今日はもう十分やったと思うよ」
桃「でも、まだ合ってないし」
赫「そんなに焦らなくても大丈夫」
桃「……」
桃は鏡を見る。
自分の顔が、少し青白く見えた。
けれど、それを気にする余裕もなくなっていた。
頭が痛い。
もう、かなり痛い。
それでも言えない。
言ったら、赫が心配する。
練習を止める。
また自分のせいで時間を使わせる。
桃「……あと一回だけ」
赫「桃くん」
桃「お願い」
赫は少し迷ってから頷いた。
赫「分かった。でも、これで一回休もう」
桃「うん」
音楽が流れる。
桃は必死に動いた。
けれど。
最後の振りに入ったところで、頭の痛みが一気に強くなる。
桃「……っ」
身体が止まった。
音楽だけが流れ続ける。
桃「……ごめん」
音楽が止まる。
赫「桃くん」
桃「……」
赫「もうやめよう」
桃「……なんで?」
赫「今日はもう十分だから」
桃「まだできる」
赫「できてないからやめるんじゃないよ」
桃「……」
赫「桃くんが無理してるから」
その言葉に、桃は黙り込んだ。
赫「今日、ずっと変だった」
桃「……」
赫「休憩しないし、何回も同じところでミスするし」
桃「……疲れてるだけ」
赫「それだけ?」
桃「……」
赫「桃くん」
桃「……なに」
赫「何か隠してる?」
桃の指が、ぎゅっとペットボトルを握る。
言いたくない。
ここまで隠したのに。
でも、もう誤魔化せない。
桃「……」
赫「言いたくなかったら、無理に言わなくてもいい」
桃「……頭」
赫「うん?」
桃「……頭、痛い」
小さな声だった。
赫「……やっぱり」
桃「朝から」
赫「朝から?」
桃「うん」
赫「ずっと?」
桃「……うん」
赫は何も言わなかった。
責めるような顔もしない。
ただ、桃を見ていた。
桃「……ごめん」
赫「どうして謝るの?」
桃「だって……」
桃は俯いた。
桃「最近、何回も言ってるから」
赫「頭痛いって?」
桃「うん」
赫「それで?」
桃「……ずっと気使わせてるやん」
赫「……」
桃「みんな優しいから何も言わんけど、俺が言うたびに休憩してくれるし」
桃「今日も言ったら、また赫に気遣わせるやろ」
赫「だから隠したの?」
桃「……ぅん」
赫「桃くん」
桃「ん」
赫「赫、気を遣うのが嫌だったら、こんなに一緒に練習してないよ」
桃「……」
赫「心配するのも、休憩するのも、桃くんと一緒にいるために必要ならするよ」
桃「でも……」
赫「それを迷惑だと思ったこと、一度もない」
桃は顔を少し上げた。
赫「むしろ、今日みたいに何も言わずに無理されるほうが嫌だよ」
桃「……」
赫「痛いなら、痛いって言っていい」
桃「……うん」
赫「何回でも」
桃「……何回でも?」
赫「桃くんが頼ってくれることを、迷惑だとは思わないよ」
桃はしばらく黙っていた。
それから、小さく息を吐く。
桃「……ほんまに?」
赫「本当」
桃「……そっか」
赫「今日はもう練習終わりにしよう」
桃「……うん」
赫「ちゃんと休もう」
桃「……うん」
桃はゆっくり目を閉じた。
ずっと我慢していたせいか、言葉にした途端、身体から力が抜けていく。
赫「桃くん」
桃「ん……?」
赫「次からは、もう少し早く言ってね」
桃「……努力する」
赫「そこは『分かった』じゃないんだ」
桃「だって……言えるか分からんもん」
赫「じゃあ、言えるようになるまで俺が聞く」
桃「……毎回?」
赫「毎回」
桃「……面倒くさない?」
赫「全然」
桃「……そっか」
少しだけ笑った。
赫「じゃあ今日は休もう」
桃「うん」
今度の「うん」は、無理に元気に見せるためのものじゃなかった。
痛いことも。
しんどいことも。
誰かに伝えていい。
それだけを、今日は少しだけ信じてみようと思った。
水
「いや今の絶対俺悪くないって!!」
桃の声が部屋中に響く。
青「いやいやいや、どう考えても桃やろ!」
桃「違うって! 今のはラグ! ラグが悪い!」
白「出た、負けた時だけ回線のせいにするやつ」
黒「見苦しいでー、桃」
桃「え、みんな俺に厳しくない?」
水「自業自得じゃない?」
桃「水っちまで!?」
また笑い声が重なる。
今日は珍しく、全員で集まってゲームをしていた。
会議でも収録でもない、完全に仕事とは関係のない時間。
だからこそ、桃は楽しかった。
「もう一回!」
そう言ってコントローラーを握り直す。
青「まだやるん?」
桃「やるやる。次は絶対勝つから」
黒「そのセリフ何回目や」
桃「今回はほんと」
白「はいはい」
ゲームが始まる。
画面が切り替わり、派手な効果音が部屋に響く。
桃「うわ、待って待って!」
青「逃げろ桃!」
桃「無理無理無理!」
水「右! 右行って!」
桃「どっち!?」
黒「そっちちゃう!」
「うわぁぁ!」
また大きな笑い声。
その時だった。
桃「……っ」
一瞬だけ、眉間に皺が寄る。
けれど。
桃「……よし、今のセーフ!」
何事もなかったように笑った。
誰も気づいていない。
それでいい。
少し前から、頭の奥がズキズキしていた。
いつもの偏頭痛。
まだ耐えられる。
これくらいなら、言わなくても大丈夫。
桃「次いこ、次!」
青「元気やなぁ」
桃「そりゃね」
笑って、また画面を見る。
けれど、画面の明るさがいつもよりきつく感じる。
眩しい。
目の奥が痛い。
桃「……」
一度だけ目を細める。
すぐに瞬きをして、誤魔化した。
ゲームは続いていく。
しばらくして。
桃「……」
さっきまで一番騒いでいた桃が、少しずつ静かになっていった。
青「……あれ?」
黒「ん?」
青「桃、さっきから静かちゃう?」
桃「え?」
青「いや、さっきまでめっちゃ騒いでたやん」
桃「そう?」
白「確かに」
桃「疲れただけじゃない?」
青「珍し」
桃「俺だって静かな時くらいあるって」
そう言って笑う。
いつも通りの笑い方。
だから、それ以上誰も言わなかった。
ゲームの音だけが部屋に響く。
桃は画面を見つめながら、そっと息を吐いた。
……ちょっと、きつくなってきた。
頭の奥が脈を打つように痛む。
目を閉じたい。
横になりたい。
でも。
「もう休もう」と言えば、みんなもゲームをやめてしまうかもしれない。
せっかく集まったのに。
そんなの嫌だった。
桃「……」
コントローラーを握る手に少し力を入れる。
大丈夫。
あと一回くらい。
桃「次、勝つから」
水「桃ちゃん」
桃「ん?」
水「さっきから同じこと言ってるよ」
桃「……そう?」
水「うん」
桃「じゃあ、勝つまで言い続けるわ」
水「何それ」
桃「執念」
水が笑う。
桃も笑った。
それで終わるはずだった。
けれど。
ゲームが始まって数分。
桃「……」
また目を細める。
今度は、少し長かった。
水「……」
水だけが、それを見ていた。
けれど、何も言わない。
桃が言いたくないなら、今は聞かない。
そう決めたように、再び画面へ視線を戻した。
ゲームが終わる。
青「よっしゃー!」
白「勝った!」
黒「桃、また負けたな」
桃「……」
返事がない。
黒「桃?」
桃「……あ、ごめん」
黒「聞いてた?」
桃「聞いてる聞いてる」
青「絶対聞いてなかったやろ」
桃「聞いてたって」
笑う。
でも、その声はさっきよりずっと小さい。
水「……」
やっぱりおかしい。
水は桃の隣を見る。
桃はコントローラーを膝の上に置いたまま、少し俯いていた。
そして、誰にも見られていないと思ったのか。
そっと目を閉じた。
ほんの数秒。
けれど、水には見えた。
水「桃ちゃん」
桃「ん?」
桃が顔を上げる。
水「……眠い?」
桃「え?」
水「さっきから目閉じてるから」
桃「あー……ちょっと眠いかも」
水「そっか」
桃「うん」
水「じゃあ、休む?」
桃「いや、大丈夫」
水「ほんと?」
桃「ほんとほんと」
即答だった。
水はそれ以上聞かなかった。
ただ、少しだけゲームの音量を下げる。
桃「……水っち」
水「ん?」
桃「音量下げた?」
水「うん。ちょっとうるさかったから」
桃「……そっか」
桃はそれ以上何も言わなかった。
けれど。
少しだけ、肩の力が抜けた。
それを見て、水は確信した。
やっぱり何かある。
それでも、まだ聞かない。
みんなは再びゲームを始める。
青「次はチーム戦な!」
白「桃ちゃんこっち!」
桃「……ん」
返事はする。
けれど、もうゲームにはほとんど集中できていなかった。
画面が眩しい。
音が響く。
頭が重い。
桃「……」
それでも、笑う。
青「桃、そこ!」
桃「……あ、ごめん」
黒「今日ほんまどうしたん?」
桃「いや、ちょっと疲れてるだけ」
白「寝不足?」
桃「たぶん」
水「……」
桃「何?」
水「いや」
桃「?」
水「なんでもない」
桃「そっか」
ゲームが終わる。
今度は桃が一番にコントローラーを置いた。
桃「俺、ちょっと飲み物取ってくる」
青「お、俺も」
桃「いや、大丈夫。取ってくるよ」
青「そ?」
桃「うん」
桃は立ち上がる。
その瞬間。
「……っ」
頭にズキッと痛みが走った。
思わず、その場で立ち止まる。
けれど、すぐに何事もなかったように歩き出した。
水「……」
水の視線を背中に感じる。
見ないで。
そう思う。
これ以上、見ないで。
廊下に出る。
扉が閉まった瞬間、桃は壁に軽く寄りかかった。
桃「……っ」
目を閉じる。
しばらく、そのまま動けない。
頭が痛い。
気持ち悪い。
でも。
戻らないと。
みんなが待ってる。
桃はゆっくり息を吐いて、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
そして、何事もなかったように部屋へ戻った。
桃「お待たせー」
青「遅かったやん」
桃「ちょっと探してた」
水「……」
水は何も言わない。
ただ、桃の顔を見ていた。
桃「……何?」
水「ううん」
桃「?」
水「なんでもないよ」
それから少しして。
白「そろそろ帰る?」
黒「せやな」
青「もう結構やったしな」
みんなが片付け始める。
桃も立ち上がろうとする。
けれど。
水「桃ちゃん」
桃「ん?」
水「ちょっと待って」
桃「何?」
水「……頭痛い?」
桃「……」
ほんの一瞬。
桃の動きが止まった。
でも、すぐに笑う。
桃「なんで?」
水「なんとなく」
桃「ないない」
水「そっか」
桃「うん」
水「じゃあ、いいや」
桃「……」
それだけ。
水はそれ以上聞かなかった。
桃は少しだけ安心した。
……よかった。
バレなかった。
そう思ったのに。
みんなが帰る準備を終えて、部屋を出ていく。
桃もその後ろを歩く。
最後に水と二人になった。
水「桃ちゃん」
桃「ん?」
水「さっきの、無理に答えなくていいから」
桃「……」
水「でも、しんどかったら言ってね」
桃「……うん」
水「ほんと?」
桃「ほんと」
水「そっか」
水が笑う。
桃も笑う。
そして。
水「じゃ、またね」
桃「またね」
扉が閉まる。
一人になった部屋。
静かになった途端。
桃「……」
頭の痛みが一気に強くなった気がした。
桃はその場にしゃがみ込む。
桃「……はぁ」
誰もいないから、もう笑わなくていい。
目を閉じる。
しばらくして。
スマホが震えた。
水【ちゃんと寝るんだよ】
桃「……」
少し迷って。
桃【うん】
それだけ返す。
すぐにまた通知が来る。
水【あと、次から頭痛い時は言って】
桃「……」
桃【なんで分かったの】
水【さっきまで一番うるさかったのに、急に静かになったから】
桃「……」
水【あと、ゲームの音量下げた時ちょっと楽そうだった】
桃は画面を見つめた。
バレてた。
全部。
桃【……そんな分かりやすかった?】
水【僕にはね】
桃「……そっか」
桃【ごめん】
少しして。
水【謝らなくていいよ】
水【言いたくなかったんでしょ】
桃は画面を見たまま、何も返せなくなる。
図星だった。
水【みんなと遊びたかったんでしょ】
桃【……うん】
水【じゃあ次からは、遊びながらでも言っていいから】
桃【迷惑じゃない?】
水【ならないよ】
桃【ほんと?】
水【ほんと】
桃はしばらく画面を見つめる。
それから、小さく息を吐いた。
桃【……次は言う】
水【うん】
水【約束ね】
桃【頑張る】
水【そこは「言う」じゃないの?笑】
桃【……善処します】
水【絶対言わんやつやん笑】
桃「……ふふ」
一人なのに、少しだけ笑ってしまった。
まだ頭は痛い。
けれど。
さっきまでより、ほんの少しだけ楽だった。
桃【水っち】
水【ん?】
桃【ありがと】
水【こちらこそ】
桃はスマホを伏せる。
そして、今度こそゆっくり目を閉じた。
今日はもう、頑張らなくていい。
そう思えた。
白
仕事終わり。
スタッフさんたちに挨拶をして、メンバー4人で車に乗り込む。
全員が乗れるような大きさではなく、4人と2人に別れることになった。
桃「はぁー……今日長かったなぁ」
青「ほんまそれ。もう眠いわ」
黒「寝たらええやん」
青「いや、寝たら家着くまで暇やん」
白「どっちやねん」
車内に笑い声が広がる。
桃も笑った。
桃「じゃあ俺、寝よっかな」
白「桃ちゃん珍し」
桃「今日は疲れたからね」
そう言って、桃は後部座席の窓側に座った。
隣には白。
シートに身体を預けて、目を閉じる。
最初は、本当に眠かった。
けれど。
目を閉じた途端、頭の奥がズキッと痛んだ。
桃「……」
思わず眉を寄せる。
朝から少しだけ違和感があった。
でも、仕事中は気にならなかった。
いや。
気にしないようにしていた。
今は車内。
揺れ。
エンジン音。
メンバーの話し声。
窓から入ってくる街灯。
その全部が、少しずつ頭に響いていた。
桃「……」
寝ていれば、誰にも気づかれない。
そう思った。
ーーーーーーーーーー
「ーーなぁ、それでさ」
前の席から声がする。
桃は目を閉じたまま聞いていた。
話に入りたい気持ちはある。
けれど、今は声を出すだけでも少しつらい。
だから、寝たふりをする。
青「桃、寝た?」
桃「……」
返事をしない。
青「ほんまに寝たんかな」
白「さっき寝るって言うてたしな」
青「じゃあ静かにしとこ」
桃「……」
少しだけ安心する。
静かになった。
でも、頭痛は消えない。
むしろ、車がカーブするたびにズキズキする。
桃はゆっくり手を上げて、こめかみを押さえた。
ほんの数秒。
すぐに手を下ろす。
隣の白はスマホを見ていた。
気づかれていない。
よかった。
ーーーーーーーーーーー
しばらくして。
車が赤信号で止まる。
桃は目を閉じたまま、深く息を吐いた。
白「……」
白がちらっと横を見る。
桃は眠っているように見える。
ただ。
眉間に少しだけ皺が寄っていた。
白「……」
気になったけれど、起こすほどではないと思った。
車が再び走り出す。
桃「……っ」
揺れた瞬間、頭に痛みが走る。
思わず身体を丸める。
白「桃ちゃん?」
桃「……ん」
小さく返事をしてしまった。
白「起きてた?」
桃「……ちょっとだけ」
白「寝てへんやん」
桃「うん……」
白「眠れへんの?」
桃「いや、眠いよ」
白「そっか」
桃「……うん」
白はそれ以上聞かなかった。
桃はまた目を閉じる。
白に気づかれたくない。
心配されたくない。
今日くらい、何も言わずに帰りたい。
そう思った。
ーーーーーーーーーーー
車内は少しずつ静かになっていった。
青も黒も眠り始めたらしい。
話し声がなくなる。
桃にとっては、それだけが救いだった。
暗い車内。
小さなエンジン音。
これなら少し楽かもしれない。
そう思ったのに。
ズキッ。
桃「……」
また痛む。
今度はかなり強かった。
桃は目を開けず、手を額に当てる。
白「……桃ちゃん」
桃「……なに?」
白「さっきから頭押さえてへん?」
桃「……」
一瞬、答えられなかった。
桃「……寝ぼけてただけ」
白「寝ぼけて頭押さえる?」
桃「……たまにあるじゃん」
白「そう?」
桃「うん」
笑おうとした。
けれど、声がうまく出なかった。
白「……桃ちゃん」
桃「ん?」
白「頭痛いん?」
桃「……」
沈黙。
桃「……ちょっとだけ」
白「いつから?」
桃「……朝」
白「朝から?」
桃「うん」
白「ずっと?」
桃「……たぶん」
白「なんで言わへんかったん」
桃「……言うほどじゃなかったから」
白「今は?」
桃「……」
桃は目を閉じたまま、小さく息を吐いた。
桃「……ちょっと痛い」
白「そっか」
それだけだった。
責めるでもなく、慌てるでもなく。
白はただ、桃の言葉を聞いた。
桃「ごめん」
白「なんで謝るん」
桃「いや……なんとなく」
白「謝らんでええよ」
桃「でも、みんな疲れてるのに」
白「それは桃ちゃんも一緒やろ」
桃「……」
白「無理して隠さんでええって」
桃「……隠してたの、分かった?」
白「さっきからずっと寝たふりしてたやん」
桃「……バレてた?」
白「ちょっとだけな」
桃「そっか……」
桃は小さく笑った。
でも、すぐに顔をしかめる。
白「……痛い?」
桃「うん」
白「そっか」
白が少しだけ身体をずらす。
桃「?」
白「窓、光入ってくるやろ」
そう言って、窓側に自分の身体を寄せる。
街灯の光が桃の顔に直接当たらないように。
桃「……白ちゃん」
白「ん?」
桃「ありがとう」
白「ええよ」
桃「……なんか、こういうの恥ずかしい」
白「何が?」
桃「頭痛いとか、しんどいとか言うの」
白「別に恥ずかしくないやろ」
桃「でも、みんなに心配されるの嫌なんだよね」
白「心配するくらいええやん」
桃「……迷惑じゃない?」
白「ならんよ」
即答だった。
桃は少し黙った。
それから、ゆっくり身体をシートに預け直す。
桃「……じゃあ、もうちょっとだけ寝ててもいい?」
白「もちろん」
桃「今度はほんとに寝る」
白「ふふ、分かった」
桃「……おやすみ」
白「おやすみ」
桃は目を閉じた。
今度は寝たふりじゃなかった。
痛みはまだ残っている。
けれど、さっきより少しだけ安心できた。
車がゆっくり夜道を進んでいく。
白は何も言わず、隣にいる。
それだけでよかった。
しばらくして。
桃「……白ちゃん」
白「ん?」
桃「まだ起きてる?」
白「起きてるで」
桃「……そっか」
白「どうしたん?」
桃「……なんでもない」
少し間を置いて。
桃「ただ、隣にいてくれてるなって思っただけ」
白「おるよ」
桃「……うん」
今度こそ、桃は眠りについた。
白はそんな桃を横目で確認してから、静かにスマホを伏せた。
目的地までは、まだ少しある。
それでも。
今は、起こさないようにしておこうと思った。
コメント
8件
見るの遅れました! この作品もめっちゃいいです😭
初コメ失礼します! 全て拝見させていただきました! 最高です(T^T) 1人1人の特徴がちゃんと表されていてとても上手です!! 神作投稿感謝です♪
読み終えた直後、じんわり温かい気持ちになりました。桃の「言いたくないけど、でも言ってよかった」っていう揺れ動きがすごくリアルで。赫、水、白の3人がそれぞれ違う角度で気づいて、でも押し付けずに「おるよ」と伝える優しさが沁みます。特に赫の「迷惑だと思ったこと一度もない」、あれは効きましたね。この物語の核は「頼ることの許可」なんだなと。次も楽しみにしています。