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「もう、分かったから早く帰れ。後そんなに脚見せるな」
「まぁまぁ、固いこと仰らないでくださいよ。セクシーは正義でしょ?」
涼は依然としてハイになったまま、はしたなく服をはだけさせる。妙な苛立ちを覚えた。
言わなきゃわかんないのか。
「……俺が嫌なんだよ。お前が他の男にジロジロ見られんのが気持ち悪いんだ!」
鈍感の上焦れる涼にカチンとして、大きな声で叫んでしまった。対する彼は当然驚き、目を見張っている。しかしこの怒りの出どころが分からず、准自身も驚いていた。
「わ、悪い。そうじゃなくて、つまり俺が言いたいのは……」
すぐに弁解しようと頭を働かせるも、背後から掛けられた声に飛び上がった。
「准君? どうしたの」
「ハイッ!」
慌てて振り返ると、そこには不審な目つきの加東がいた。
「戻って来ないから心配になってさ。……こちらは? お知り合い?」
彼は涼を一瞥し、不思議そうに尋ねてきた。
鼓動が速まる。女装がばれたら色んな意味で嫌だ。
通りすがりの人ということで、妥当な言い訳を考える。当然涼もそれに協力してもらうつもりだったが、腕に柔らかい何かが当たってギョッとした。
先程とは違う温もり。それに気付いた時はもう遅くて。
「初めまして。私、准君の友達で涼子っていいます! 久しぶりに会ったので、つい話盛り上がっちゃってぇ」
「あぁ~、そうだったんですね」
加東は納得して頷いたが、准は空いた口が塞がらなかった。
おい! 何のつもりだ!?
アイコンタクトで訴えるも、涼は平然として微笑を浮かべている。偽物の胸をグイグイ押し付けて接近してくる彼に、絶望で押し潰されそうだった。
「涼子さんは誰かと来てるんですか?」
「友達と来てたんですけど、急用ができたとかで帰っちゃったんです」
「あらら。……もし良かったら、一緒に飲みますか? 俺は准君と同じ会社で働いてる、加東といいます」
「佐藤さんですか。でも、いいんですか? お邪魔にならないかな」
「とんでもない。あ、ちなみに加東です」
「加藤さん? すみません、私よく耳鼻科行けって言われてて……でも、ありがとうございます! 嬉しいなぁ、こんなカッコいい方と一緒に飲めるなんて!」
やっぱり涼と話してると漫才になるようだ。俺だけじゃなくて良かった、と准は胸を撫で下ろす。
それにしても最悪だ。もし涼の女装がバレたら……そう考えると、今度は胃が痛くなってきた。