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ーーーこの世界には様々な特徴を持った人がいる。全員が特徴を持っている訳では無く、普通の人間も多い。今回の物語は、吸血鬼の葉山瞬(はやま しゅん)と相手の顔を見るとその人の正体がわかるルーカーの鈴木諒真(すずき りょうま)の物語。2人の物語をご覧下さいーーー
俺は葉山瞬(はやま しゅん)。土岐さん家族の経営している、「きらくに」というカフェで働いている普通の社会人。ではなく、俺は吸血鬼だ。
吸血鬼だから定期的に血を飲みたくなってしまう。
血を飲む頻度に個人差はあるが、大体の人が毎日飲みたくなってしまう。俺もそのひとりだ。
「土岐さん、お先です」
「はーい、お疲れ様で〜す」
土岐さん家族の息子、土岐奏人さんに挨拶をする。土岐さんはこのカフェでは先輩だが、年齢は俺の方が上なので俺に敬語を使っているらしい。
俺は店を出て、そのままある店へ向かった。
店に着き、扉を開く。少し待つと、1人の男性がこちらに来る。
「いらっしゃいませ。葉山さんですね。こちらへどうぞ」
「はい」
ここは「ヴィオレ」というBARだ。一見普通のBARだが、吸血鬼にとってはオアシスだ。なぜなら、血が販売されているから。といっても、裏メニューのようなもので、吸血鬼ということを言えば、VIPルームと称した吸血部屋で血を飲ませてくれる人がいるのだ。周りに血を飲ませてもらう人が居ない吸血鬼からしたらオアシスと言っても過言ではないのだ。
俺は男性に案内され、部屋に入る。ソファーと机が置いてある、シンプルな部屋だ。
「少々お待ちください」
ソファーに座り少し待つと、部屋の扉が開く。
「いらっしゃい、瞬くん」
この人はライトさん。血を飲ませてくれる人のうちの一人だ。本名かどうかは知らない。多分、俺より歳上だ。
ライトさんは部屋に入ると、俺の横に座る。
「今日も瞬くんが来てくれて嬉しいよ。俺の血、沢山飲んでね」
「はい、ありがとうございます」
俺の返事を聞いてライトさんは嬉しそうに微笑む。
俺は何故かこの人に好かれている。血を飲ませて貰う相手を選ぶことも出来るのだが、俺は別に血が飲めればそれでいいのでおまかせにする。最初はランダムだったが、今ではライトさんの方から俺を指名してるらしく、俺が来るこの時間帯は俺のために開けているのだとか。
ちなみにライトさんはまぁまぁ人気のため、本来なら予約をしないと指名が出来ない事が多いらしい。
「じゃあ、好きなだけ飲んで」
ライトさんは上着を上の方だけはだけさせた。
俺ははだけて肌が見えたライトさんの右の首筋に、そっと牙を立てる。そしてそのまま、ゴクゴクと血を飲んだ。
「ふぅ…」
「美味しい?」
「はい、美味しいです」
「良かった」
ライトさんはそう言ってニコッと笑う。
もう十分だと思い俺がライトさんの首元から顔を離すと、ライトさんが不思議そうに聞く。
「もういいの?」
「はい、大丈夫です」
「そっか。残念」
そう言ってライトさんはガッカリしたような顔をする。
「じゃあ俺、もう帰ります」
そう言って俺が財布を取り出すと、ライトさんが財布の上に手を置く。
「まだ帰らないでよ。もうちょっとだけ一緒にいよ?料金、安くしてあげるからさ」
ライトさんはそう言ってつぶらな瞳で俺を見つめる。
料金が安くなるのは正直ありがたい。基本料金は1回につき700円。人の血を貰っているのだから仕方ないとは思うが、それを毎日となると結構きつい。
前にもこういう事があったが、その時は300円にしてくれた。
(少し一緒にいるだけで安くなるのならまぁ、いいか)
俺が財布をしまうと、ライトさんは嬉しそうに微笑む。
(こういう時って大体なんかあった時なんだよな。一応聞いてみるか。)
「ライトさん、なんかありました?」
「さすが瞬くん。俺の事よく分かってるね」
「まぁ、ライトさんわかりやすいので」
「そう?」
「はい。それで、何があったんです?俺でよければ話聞きますけど」
「それがさ、前のお客さんが結構乱暴な人でさ。まぁ、飢餓状態だったみたいだから仕方ないのかもしれないけど、結構乱暴に噛みつかれちゃって、まだ痛いんだよね」
そう言ってライトさんは左の首筋を撫でた。
「大丈夫ですか?今日吸ったのこっち側にして良かった」
俺がそう言って自分の噛み跡を撫でると、その手をライトさんに掴まれる。
「痛いとこ、摩ってくれない?少しはマシになるかも」
「わかりました」
俺は立ち上がり、ライトさんの左側に座った。そして左の首筋についた噛み跡をそっと撫でた。
「痛くないですか?」
「うん。大丈夫。瞬くんは優しいね」
ライトさんはニコッと笑った。すると、ヘアのドアをコンコンと叩く音がした。
「ライトさん、指名です」
ドアの向こうからそう聞こえてくる。俺を案内してくれた人だ。
「は〜い」
ライトさんはそう返事する。
「あ〜あ。せっかく瞬くんに慰めて貰ってたのに」
ライトさんは残念そうにそういう。
「じゃあ俺、帰ります」
「うん。ありがとね。300円で大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
俺は財布を取りだし、300円をライトさんに渡す。
「毎度どうも。じゃあ、また明日ね」
「はい、また明日」
俺はそう返事して手を振るライトさんに手を振り返しながら部屋を出た。
次の日、きらくにの近くで有名人のイベントがあったらしく、イベントついでに寄る人も多く、忙しい1日になった。定時の時間になることにはもうクタクタだった。
(やばい…疲れた…血が飲みたい…早くヴィオレに行かなきゃ)
「土岐さん、お先です」
「大丈夫ですか?クタクタじゃないですか」
「大丈夫ではないですけどまぁ…明日休みなので、大丈夫です」
「そうだね。明日ゆっくり休んで」
「はい。ありがとうございます」
「うん、お疲れ様〜」
「お疲れ様です」
そして俺は退勤した。明日は定休日の水曜日。明日が休みでよかった。
俺は足早にヴィオレに向かった。今日はイベントの影響で商店街もいつもより人が多い。早く行きたいけど、人が多くてなかなか思うように進めない。そんな時、「キャー」という数人の悲鳴が聞こえる。声のする方を見ると、男性二人が殴りあっていた。こんな所で喧嘩をするなんて。巻き込まれたくないと思い通り過ぎようとした時、ほのかに血の匂いが香った。喧嘩の影響で血を流したのだろう。
(まずいな…このままだと誰かを襲ってしまう。早くこの場から離れよう)
吸血鬼が人を襲う事件は少なくとも発生している。俺もその1人にならないようにこういう場からはすぐに離れる。お腹を空かせてる時はとくに。
俺は喧嘩の現場を見ないように、少し俯いて口と鼻を抑えながら進んだ。
すると、俯いて歩いていたせいで、前から来る人にぶつ
かってしまった。
「すいません」
俯いたままそう言って去ろうとすると、肩を捕まれる。
「ちょいちょいお兄さん、待ってよ」
俺は自然と顔を上げた。ガラの悪い人だ。しかも仲間っぽい人が2人いる。
「なんですか」
「なんですか、じゃないでしょ?ぶつかったんだから慰謝料払ってよ」