「……復讐……?」
思いもしなかった台詞に私は戸惑い、控えめに聞き返す。
「そうです。小西様はこんなにも辛い思いをなさっているのに、ご主人は嘘をついて他の女性との逢瀬を重ねる。小西様に協力している私としても、とても見過ごせる事ではありません。お一人では勇気も出ないでしょうから、是非、私に手伝わせてもらえませんか?」
杉野さんのその申し出は有り難いけれど、私には金銭面の余裕が無い。
それに、裏切られているのはもう諦めているし、私としては必要以上に事を荒立てたくは無かった。
「お気持ちは有り難いのですが、恥ずかしながら金銭的に余裕が無いんです。正直、依頼料をお支払するので精一杯で……ですから、お気持ちだけ受け取っておきます。ありがとうございます。引き続き、証拠集めの方だけよろしくお願い致します」
私の言葉を聞いた杉野さんはどこか納得のいかない表情を浮かべていたけれど、すぐに普段通りの柔らかい表情に戻る。
「そうですか。すみません、差し出がましい事を言ってしまって。金銭を要求せずにお手伝いが出来ればいいのですが、立場上そういう訳にもいかないもので……」
「いえ、いいんです。こちらこそすみません、余計な気を使わせてしまって。杉野さんはとても優しい方ですね。気に掛けて貰えるだけで、心が救われます。ありがとうございます」
結局この日はこれで話は終わり、解散する事になった。
けれど数日後、私の考えを変える出来事に遭遇する事になる。
不倫相手が二人もいるという衝撃の事実を知ってから一週間程経った週末。
母親の体調が悪いという報せを受けた私は様子を見に実家へ行く事に。
当然貴哉は仕事が忙しいという理由から一緒に行く事は無かったけれど、私も一人で外出が出来るから良かったと思い実家へ出向いた。
予定ではその日の夜に帰宅するはずだったのだけど、思いの外母親の体調も悪くは無かった事、両親に「貴哉くんが仕事で忙しいなら早く帰ってご飯を作ってあげなさい」と言われた事もあって夕方には自宅マンションに帰り着いてしまった。
鍵を開けて中へ入ると、出掛けたはずの貴哉の靴が玄関に置いてある。
けれど、それとは別にもう一足靴があった。私のでは無い女性物の靴が。
今まで、私が朝から夜まで家を空ける事は無かった。
だから、こういった事にはならなかった。
けれど、今日は朝から出掛けて夜に帰宅する予定だったから、不倫相手と会うのに外で会うと、どこかで私と鉢合わせするかもし」ないと思ったのだろう。
(まさか、家にまで連れてくるなんて……)
そう思いながらも意外と冷静な私は靴の写真を残そうとスマホで撮影。
そして、他にも何か証拠をと音を立てないようゆっくり静かに靴を脱ぎ、一歩ずつ、リビングの方へ向かっていく。
するとご丁寧にリビングのドアは半開きになっていて、中からは、女性の甘く淫らな声と、聞いた事がないくらいに甘い言葉を囁く貴哉の声が聞こえてきた。