セツナからもらったお洒落なワンピース。
似合っていると言われて嬉しい。
体を左右に動かして僅かに広がるスカートをふわりと揺らしてみた。
小さい頃から憧れていた素敵なドレスを着れたみたいで自然と笑みが溢れる。
「私ね、お姫様みたいな格好をしてみたかったんだ。それに近づけたみたい」
「お姫様か。
じゃあ……、こうか?」
「うわっ!? セツナ!?」
急に肩を支えられて体がくっついたと思いきや、私を軽々と持ち上げてくるセツナ。
一瞬のことで何をされているのかすぐに理解できなかったけど、これは……お姫様抱っこだ。
「オレにしっかり掴まらないと落ちるぞ」
「っ……、恥ずかしいから降ろして」
「ダメだ。降りる前にあれを見ろ」
セツナは私を抱きながら磨かれた石畳を歩き、その真ん中までゆっくりと歩いた。
足を止めた時に顔を上げて見ると、雲一つない空に昇った丸くて大きな月が視界に入ってくる。
その月の光は僅かにピンク色をしていて、いつも目にしているものよりも特別さを感じた。
「綺麗な月……」
セツナの首の後ろに左手を持っていって右手で組み、お姫様のように掴まる。
こんなに触れていいのかな……。
上手く手に力が入らないほど緊張して鼓動が早くなる。
でも今は体を預けて、憧れだったお姫様抱っこと神秘的な景色を楽しむ。
「月の光に照らされて、より輝いて見えるな」
私の着ているワンピースが……?
そう聞いてみたくてセツナを見ると、ピタリと目が合って一気に顔が熱くなった。
月の光を隠して、私の顔を優しく見下ろす。
その瞳からは、情熱と安堵を感じた。
「クレヴェンでは、綺麗な月の下で踊る人たちもいるんだ。
踊ってみるか?」
「私は盆踊りしかやったことないよ?」
「盆踊り?
それが何なのか分からないが、簡単に踊るだけだし、リードするから大丈夫だ。
オレは王子、かけらはお姫様だと思って踊るんだ」
「あははっ、素敵な例えだね」
床に降ろされてからセツナは私の腰を支えてから、もう片方の手で指を絡めてくる。
強引さはあるけど、守ってくれるような優しい力で触れてくるから許せてしまう。
ステップを合わせてセツナについていき、お姫様だったらこう踊るだろうと思ったことを体を動かして表現してみる。
「いい感じに踊れてるじゃねぇか。
……やっぱり、かけらは、他の女とは違うな」
「ううん、何も変わらないよ。
男友達はできても、女にさえ見られているのかも分からなかったし」
「他が何と言おうとオレにとっては違うんだ。
クレヴェンの女たちは皆、オレを神だと勘違いしているのか、頭を下げて顔を見てこようとしない。
小さい頃からずっとうんざりしていたんだ」
王都を歩いていた時にその光景は見たけど、セツナに向かってやっているとは知らなかった。
「でもかけらはオレに頭を下げないで同じ目線で話してくれる。
ライの才能も開花させてくれたし、オレの自信作も着こなせる珍しい女だ」
「私は何もしてないけど……。
そんな風に褒められたのは初めてだよ」
「オレも初めて女を心から褒めたいと思った」
周囲が暗くなってきて月の明かりがより鮮明になってきた。
私とセツナは顔を見合わせて静かに笑い合い、神秘的な光を浴びて踊りを続けた。
「――なにイチャついてるんだよ。
結局、セツナはその女のことを口説こうとしてるわけ?」
「げっ! ライ……!?
見ていたのか!?」
やっと踊るのが慣れてきたと思った時、ライさんが大きな柱から姿を表し、セツナと縮んでいた距離が元に戻る。
「その女の連れが目を覚ましたから教えに来た。
セツナはいつものよろしく」
「いつものお祈りだろ?
盛り上がっていた気持ちを切り替えないとな。
着替えてさっさと行ってくる」
「お祈り?」
「何も知らない人だなぁ……。
クレヴェンは肉を主食にしているんだけど、それを獲られるのは動物が生きているから。
この国では、人の命の一部となる動物に敬意を払うために毎日祈りを捧げているんだよ」
「そっ、そうなんですか」
「はぁ……。
それより早く会いたいでしょ?連れの男に……」
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