セツナと別れてライさんと二人で王都から寝泊まりしている森の中の小屋まで歩く。
歩いている時に、些細な話題を振っても聞こえていなかったのか、何も反応してくれなかった。
でも今はレトが気になる。
起きれるくらいに回復してきたみたいだけど、実際に会うまで安心できない。
「レト! 大丈夫!?」
小屋のドアを開けて、すぐに無事を確認してみると、レトは布団から体を起こして休んでいた。
「かけら……。
僕の体調は大丈夫。ゆっくりさせてもらったおかげで動けるくらいに回復したよ」
「よかったぁ……。
でもまだ無理しないでね」
「だけど……。
これは大丈夫と言える状況なのかな……」
「えっ?」
険しい顔をしたレトが指差している方に恐る恐る体を向ける。
そこは私が立っている場所と同じ方向だったので、目にするべきなのは、背後だということが分かった。
「なんで……? ライさん……」
一緒に来たはずのライさんがいつの間にか槍を持っていて、こちらに刃を近づけてくる。
いつその槍が目の前にくるのか分からなくて怖くなった私は、レトを隠すように後退りをした。
「旅をしているとか言っておいて、本当はグリーンホライズンから二人で逃げてきたんだろ。
駆け落ちでもしてるつもり?
……理由はどうであれおまえたちは敵だから。
ここで消えてもらうよ」
「違う。私が旅をしているのは本当だから。
嘘なんてついてない」
「信用できないね。
手伝いをしてもらった恩はあるけど、それとはこれは別だ」
私たちとの距離を縮めようとしてゆっくりと前に足を進めるライさん。
回復したばかりのレトはまだ動けないだろう。逃げる術がない。
驚いて尻餅をつき、立ち上がれない中、近づいてくる刃に怯えながらごくりと唾を飲む。
助けてもらったかと思ったら、まさかこんな事になんて……。
私はどうすればいいの……――
「ぐっ、ぐぅっ!」
困り果てた時、鳴き声が聞こえたと同時にノウサ様が勢いよく走ってきて、ライさんの足元をくぐり抜けた。
そして、ズボンを前足でカリカリカリっと素早く引っ掻き始める。
「ノッ……、ノウサ様!?
邪魔をしないでください!
これはクレヴェンを守るためであって……」
遊んでいるのか、止めているのか分からない。
でも、ライさんの戦闘体勢が崩れたのは確かだ。
せっかくやってきたチャンス。
あの槍をライさんの手から落として……――
「おいおい、何の騒ぎだ?
ノウサ様が急に走ってここまで来るんだから、何かあったんだよな」
ライさんを止めるためにどうすればいいか考え始めていた時、今度はセツナが走ってやって来た。
何も知らない口ぶりだけど、小屋の玄関を塞ぐように立っている。
これで、私とレトの逃げ道はなくなった。
「セツナ! こいつらは、ただの旅人なんかじゃない。
男の方はグリーンホライズンの王の顔にそっくりだ! 今すぐに捕まえないと!」
どうしよう。レトがグリーンホライズンの王子だと正体が知られてしまった……。
「はぁー……。だからよー……」
深い溜め息をついたセツナは呆れた顔をして、目を瞑って胸の前で腕を組む。
少しだけ沈黙が流れた後、顎を引いてから目を細めて口を開いた。
「どうするか決めるのはオレだって言ってるよな?」
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