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それから、季節はゆっくりと流れていった。
春が過ぎて、夏が来て、また少し背が伸びた和葉は、前よりもほんの少しだけ大人びた表情をするようになった。
それでも——
「滉斗!」
その呼び方も、笑い方も、何も変わっていない。
「おう」
若井滉斗はいつもの場所で、いつものように手を挙げる。
ただ一つ変わったのは、“時間”だった。
前よりも頻繁には会えなくなった。
滉斗の仕事は忙しくなり、和葉も受験や学校のことで手一杯になっていった。
それでも、たまに会える日があると——
その時間は、何よりも大切だった。
「久しぶりだね」
「だな。元気だったか」
「うん」
短い会話。
でも、その中に全部が詰まっている気がした。
ベンチに並んで座る。
少しだけ距離が空いているのは、前と同じ。
でも、前とは違って——その距離を“意識している”自分たちがいる。
沈黙のあと、和葉がぽつりと呟いた。
「もうすぐさ、高校生になるんだ」
「ああ」
「そしたら、ちょっとは大人に近づくかな」
その言葉に、滉斗の胸がわずかに揺れる。
「…どうだろうな」
あえて曖昧に返す。
期待を持たせるのが怖かった。
でも、突き放すこともできない。
和葉は少しだけ笑った。
「だよね」
その笑顔が、前よりも少し切なかった。
風が吹く。
髪が揺れて、一瞬だけ視線が合う。
その瞬間、時間が止まったみたいだった。
(今なら)
和葉の心臓が強く鳴る。
(言えるかも)
でも——
「滉斗、好きな人いる?」
結局、出てきたのは遠回りな言葉だった。
滉斗は一瞬だけ固まる。
予想していなかったわけじゃない。
でも、いざ聞かれると——
「…いない」
少し間を置いて、そう答えた。
嘘ではない。
でも、本当でもない。
和葉はその答えを聞いて、小さく息を吐いた。
「そっか」
それだけ。
それ以上、踏み込まない。
踏み込めない。