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#あべさく
めかぶぷりん
8,223
29
雪月❄️
363
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深澤と向井が奥へ向かって走っていると、途中に温室があった。そこにいたのは、倒れているルイと、その傍らに立っている宮舘とラウール。
💜「おお、舘さん達も終わったんだ」
❤️「うん。相性が良かったおかげで、なんとか無力化できたよ」
🧡「その子、平気なん?」
🤍「僕のポーションで眠ってもらってる。飲ませるの、ちょっと苦労したけど、なんとか大丈夫だった」
❤️「ふっか達も、元気そうで良かったよ」
💜「でも、急がないと雨霧に追い付かれそうだから、ちょっと速度上げないとな」
だからすぐにでも奥に向かおうと走り始めた時、奥の扉からフェンリル姿のふーちゃんが入って来た。
💜「ふーちゃん! ってことは、めめと翔太を送り届けられたのかな」
コクンと頷くフェンリルふーちゃん。
💜「じゃあ、今来た道、憶えてるよね? 俺らも連れてってほしい」
深澤がそう言うとフェンリルふーちゃんは床に伏せたので四人が背中に乗る。落ちないように、四人がぎゅっとくっつき合っている状態だ。
💜「最速で頼むね。もう、時間がない」
一番前にいる深澤がフェンリルふーちゃんの背中にしがみつくと走り出した。
佐久間たちは分からないが、阿部の許へ集結してきている。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせながら向かい、開け放たれている重厚な扉を潜り抜けた。
その時だった。フェンリルふーちゃんの短い鳴き声の直後、宙に放り出されたかと思うと体が無数の蔓で拘束された。そして更に糸が張り巡らされているのが見えて、浮いた状態で拘束されたまま身動きが取れなくなってしまった。
💜「なっ!」
🧡「なんなん、これ?!」
🤍「蔓と糸って、まさか!」
視線が部屋の奥へと向かう。
床に広がる黒いゴムに手と足がくっついて離れず、それでもどうにかしようと必死に動こうとしている岩本と佐久間。呆然と座り込んでいる茉奈。
床に倒れている、目黒と渡辺。左足に蔓が巻き付いて床に座らされ、その蔓を外そうとしている芙蓉。窓際の床で完全に伸びている衣吹。
こちらに背を向けて立っている久世と、椅子に拘束されている阿部。
全員が揃っているのに、誰一人としてまともに動ける状況ではなかった。
「ルイと雨霧も突破されたか。それでも、計画に支障はないがな。それにこれでもう、邪魔をする者はいない」
🩷「くっそ! 阿部ちゃんに攻撃させるなんて、卑怯だぞ!」
「何とでも言うがいい……では、始めよう……阿部亮平。琴波の成就の異能を消せる可能性のある異能で、アルカナムに登録されているものを探しなさい」
💚「……候補はある。夏音ちゃんの映し鏡。ただこれは、映す対象があればだから、今ここで使えるかは分からない。クイーンのCLOSEも異能が使えなくなる。封印だから絶対じゃないのと、異能を持ってた本人でさえ一度の使用でオーバーロードする代物だから、俺が使ったら飽和暴走は免れない。あとは、マグノリアの滅。本来は触れた異能を消すことができるけど、フェデレートの想像増大の効果で、対象範囲が広がったから、結びついてる異能自体を消せるようになった。その使い方をしたら、飽和暴走は確定かな」
「……一度で使い物にならなくなる、か」
💙「っ! んなこと、させるかよっ」
体を起こそうとした瞬間、グッと床に押し付けられる。重力が強くなったように、体が重い。
「向井康二の重力場……仲間の異能を使うのは造作もないようだ」
💙「くそっ。阿部ちゃん!」
🖤「阿部、ちゃん……!」
比較的近い場所にいる渡辺と目黒が、必死にその名を呼ぶ。けれど、阿部が二人の声に応えることはない。
「無駄だ。支配が入っている状態で、私の声以外は届かない……では、使う異能は滅にしよう。それで琴波は永遠に解放される」
💚「分かった」
無機質な声。いつもの阿部の優しい声とはまるで違う。まるで、機械のようだ。
「では、阿部亮平。実行しなさい」
その言葉に、「ダメだ」「やめろ」と皆が口々に告げる。拘束から抜け出そうと動かし、必死に止めようとする。けれど、それでも現状を変えることはできなくて。
阿部が、口を開いた。
💚「……その言葉、待ってたよ」
穏やかな声が響き、ガチャンと、阿部を椅子に固定していた拘束具が一気に外れた。解放された手で目隠しを外し、ゆっくりと開かれた目は、翡翠のような輝きを宿している。
久世が信じられないものを見るように、驚愕するように、目を見開いた。
初めて、久世から余裕が消えた。
「……何故だ。支配が、解かれた?」
💚「今、滅を使えって言ったのはあなたでしょ。支配が、俺の意識まで奪うようなものじゃなくて良かったよ。だからロータスの対象変更で、滅を使う対象を俺の中にあるあなたの支配に向けられた。都合よく、滅を選んでくれてありがとう」
ニコッと笑った阿部の顔はいつもの優しいもので、皆の表情も柔らかくなる。
そして動揺している久世を見据えると、久世の動きがピタリと止まった。その体には一本の蔓が巻き付いている。
💚「あなたの支配は、触れなければ発動しない。衣吹の固定、使わせてもらったよ」
「……すでに蓄積されていたか」
💚「あんなに何回も使われたらね、使用条件とかも見えてくる。厄介な異能だったけど、こうして使えると便利で助かるよ。みんなは解放するね。ラウ、めめに麻痺解除のポーション飲ませてあげて」
阿部がスッと手を上げると、皆を拘束していた蔓も糸も消え、渡辺を抑えつけていた重力もなくなった。
すぐに起き上がった渡辺は阿部を守るように立ち、ラウールは未だ床に倒れたままの目黒の方に行き、他のメンバーも阿部の方へと向かう。
一気に、形勢が逆転した。
この状況で阿部に手出しをすることが出来ないのは明白で、久世の顔が愕然とする。
「……ここまでしても、叶わないというのか……否! このようなことで諦めるわけにはいかないのだよ、私は!」
コツ、コツ、とヒールの音が響いた。
ゆっくりと久世に近づいていく芙蓉を、誰も止めることはない。
「久世……いいえ、朔哉。もう、終わりにしましょう。全ての罪を、償うのです」
「……何を愚かなことを……これでは足りなかったのだ。だったら、もっと別の方法を……そうだ。命の霊薬。あれならまだ、琴波を消さずに済むかもしれない」
「朔哉。命の霊薬など本当はないと、分かっているでしょう? どこの誰が流したか分からない根も葉もない噂のために、どれだけの人を傷つけ、人生を狂わせたか……」
渡辺が眉を顰め、顔を背ける。
「わたくしの言葉が届かなくなったらそれはもう、わたくしたちの絆が消えてしまったのと同義なのです。そこに幸せなど、あるとお思いですか?」
静かな問いに、久世の目から雫が零れ落ちた。
そこにいるのは、これまで暗躍していた敵組織のトップではない。久世朔哉という、一人の男だ。阿部の目の輝きが消えて黒目に戻り、久世を拘束していた蔓がシュルシュルと解けていく。それでも、久世がその場から動く事はなかった。
「……私は……どこで間違えたのだろうか……」
「……最初からですわ。わたくしを救おうとしてくれた気持ちだけで良かったのです。それを、実現させようとしてしまったのが、そもそもの間違いだったのです。認めなければなりません。今のわたくしを、わたくしの成就という異能を」
二人きりの世界になりそうな空気に、阿部がふうっと息をついた。
💚「違うよ。そもそもの間違いは、俺の力を勝手に使おうとしたこと。芙蓉さんが望むなら、異能、消してあげるよ」
その言葉に驚いたのは、もちろん芙蓉だけではなかった。
「えっ?!」と声を上げたのは何人いただろうか。
🖤「いや、阿部ちゃん、だって滅を使ったら飽和暴走するって……」
💚「言ったね」
💜「いやいやいやいや! 飽和暴走するの、使わせられるわけないじゃん!」
💛「お前、お人好しもいい加減にっ」
💚「ああ、大丈夫だよ。ほら」
ズボンの裾を少し捲ると、阿部の脛の辺りに蔓が一本だけ巻き付いているのが見えた。
🖤「それ、俺の……?」
💚「そう。今ね、翠滴を体に入れてる」
🤍「回復し続けてるから大丈夫ってこと? いや、それでも電脳総命で使い続けたら負荷かかるじゃん」
💚「だってこれ、電脳総命じゃないから」
至極当然だとばかりに告げた阿部だったが、再び、数人から「はあ?!」という声が上がった。
💜「ちょ、それ、どういう」
💚「待った。説明は全部終わってからするよ。今はそれより、芙蓉さんの方。芙蓉さんが願うなら、俺はその選択を尊重するよ。芙蓉さんはどうしたい?」
「……成就の異能を消したいとは思いません。誰かの願いが叶うということは、喜ばしいことですから。ただ、その制約で存在が希薄になるのはやはり……」
💚「つまり、異能は消したくないけど、昼間は動けるようになりたいってことだね。想像増大を使ったら制約は緩くなると思う。でも、どのくらい緩くなるかは分からないから、やっぱり存在が希薄になるというところをなくしたいね。ラウ、どう思う?」
🤍「うーん。阿部ちゃんの電脳総命って、異能を組み合わせることできるでしょ? それで上手くいかないかな」
💚「今のところ、一つの異能でできそうなのはないから、ちょっと探してみるね。俺、電脳空間に行ってアルカナムを見てくるよ」
💜「えっ、ここで?!」
💚「もちろん。だからちょっと動かなくなるけど、心配しないでね」
🩷「いや、無理! 無理だから! 今さっきまで捕まってたのに、こんなとこで無防備になんないでよ!」
🧡「なに考えとんの?!」
💚「えっ、だってそうしないと、どの異能がいいか分からないし」
💙「阿部ちゃん、さっきまで拘束されて勝手に異能使わされて俺ら攻撃して泣いてたんだぞ?! そんなもん、後にしろ!」
💚「あれはまあ、キツかったけど。すっごい嫌だったし、正直、今も思い出したら震える」
💙「え、あ……思い出させて、ごめん」
❤️「翔太、情緒大変なことになってるよ」
💙「しょうがないだろ! こんな時なんだし!」
💚「ごめん、芙蓉さん。また後日でもいい? その間に、どうにかできないか考えておくから」
「わたくしは構いませんが……よろしいので?」
💚「これも後でちゃんと聞くけど、芙蓉さんがいろいろしてくれたのは分かるし、俺、芙蓉さんが悪い人じゃないのは知ってるから」
そう言って微笑む阿部に、戸惑っていた芙蓉もふわっと笑った。
何だか和やかな空気に包まれ、みんなもいつもの空気になってしまっていて、先ほどの緊迫感は一体どこへ消えてしまったのやら。
そんなガヤガヤとし始めた部屋の中に雨霧が入ってきたことで、深澤と向井の空気がピリッとした。しかし、どこか呆然としたような雨霧は久世だけを見ており、真っすぐに久世へ近づくと、片膝をついて座り込む。
「久世様……」
「雨霧か。ご苦労だった」
「いえ。足止めもできず、申し訳ありません」
「もう良い。私の計画は全て破綻した。責は私が負う。お前たちは元の人生を歩むといい」
「なりません! 久世様の影である自分が、その責任を全うします」
「雨霧。これは上に立つ者の役目だ。逃れるつもりは毛頭ない」
「しかし……」
何やら問答を始めてしまった久世と雨霧。その内容が内容なだけに、阿部はそーっと小さく手を上げる。
💚「あのー。俺、今回のことは被害届、出さないよ」
数秒の沈黙。
そして三度、「はあ?!!」と特大の声が降ってきて、阿部は思わず耳を塞いだ。
💜「なに言ってんだ、お前!? 誘拐されて監禁されて勝手に異能まで使われて、仲間を攻撃させられて、被害届出さないって、どこをどうしたらそうなんの!?」
💚「ふっか煩い。これは別に、久世に同情したとかじゃなくて、俺とみんなの為」
🩷「……どゆこと?」
💚「今回の件、警察に説明するなら、どうやっても電脳総命について話さなきゃならないんだよ。そうじゃないと説明がつかないことが多すぎる。でもそれって、この力を広く示すことになる。そうなったら、久世みたいに電脳総命を狙う人物が出てくるかもしれない。衣吹みたいに面白がる人もいるし、柊さんみたいに研究しようとする人だっている。それを、避けたいんだよ」
実際に久世は、阿部が幼少の頃に一度だけ飽和暴走したのを見て、それを標的にしている。その後、たった一度、外部で見せた高校の視聴覚室での出来事から、衣吹が興味を持って調査し始めている。
そこで更に今回の件が公になれば、どれだけの人間がその力に影響されるか、阿部にも分からないのだ。
余計な火種を生みたくないというのが、一番なのだから。
💚「俺は、俺の居場所を……家族を守る。その為だったら、もう終わった俺の被害なんて、小さいものだから」
🖤「阿部ちゃんは……それでいいの?」
💚「正直、久世にも衣吹にも腹は立ってる。でも、みんなとのこの先の生活のことを考えたら、比べものになんかならないから。あ、だからって野放しにしようとは思ってないよ。《記憶消去》か《盟約》のどっちかは使う予定。久世と、衣吹と、そこの雨霧さんにはね。もう脅かされたくないから」
💛「三人だけか?」
💚「芙蓉さんと茉奈さんとルイちゃん。あと柊さんか。この四人に関しては、いいかなって思ってるんだけど。本人が望めば別だけどね」
軽く返してくる阿部に、深澤と岩本が頭を抱え、渡辺と目黒が複雑そうな顔になり、ラウールと佐久間と向井が「ですよねー」という顔になり、宮舘がやれやれと息をついた。
いつもの阿部すぎて、お手上げ状態といったところなのだろう。
🤍「ちなみに阿部ちゃん、盟約ってどういう異能?」
💚「口約束が魂に刻まれる。破ると、代償が命っていう、ちょー重たいやつ」
🤍「うわー。阿部ちゃん、思った以上に怒ってんじゃん」
💚「そりゃそうだよ。だから言ったでしょ、腹が立ってるって」
どうやら、その言葉には嘘はないらしい。野放しにする気はないというのが、よく分かるような異能だった。
そこまで言ってから、阿部は久世に視線を向ける。
「……盟約を受け入れる。この先、決して関わらないと誓おう」
💚「分かった……この盟約、相手に触れなきゃいけないんだけど……どうしたらいい?」
振り返って見てくる阿部に、もうため息しか出てこない。それでも、美上の時には制止を振り切ってまで近づいていたのを考えると、やはり成長しているようだ。
深澤が鋼のクナイを出現させて持ち、目黒が蔓を数本出し、岩本が手のひらに炎球を出して、三人で久世を囲んだ。
阿部の両側にゆり組が立ち、渡辺の隣に向井、少し離れたところにラウール、阿部の後ろに佐久間が控える。
🩷「おっしゃ。なんかあったら阿部ちゃん、すぐ転移させるから」
💚「またずいぶん厳重な……ま、いっか。それだけのことをしたんだし、しょうがない。じゃあ久世、手を出して」
握手を求めるように右手を出した久世に、阿部も右手を出して久世の人差し指に触れた。
💚「俺から提示するのは三つ。一つ、俺の異能について誰にも話さないこと。二つ、俺の電脳総命を考えないこと。三つ、今後一切、俺たちに関わらないこと」
「心得た」
すると阿部の体から溢れるマテリアが久世の手を通って心臓の辺りに流れ込み、消えていった。
💚「うん、これでもう大丈夫。俺たちと離れたら、もう二度と近づくことはできないし、そもそも関わりを持つことができなくなる。絶対に破れないものではあるんだけど、万が一の時には仕掛けが発動するよ」
終わったのだと思った瞬間に、宮舘と渡辺が阿部の体を久世から離す。
もう攻撃してこないと分かっていても、支配の異能を持っている久世に近づけておくわけにはいかないから。
それから雨霧と、意識が戻った衣吹にも同様に盟約を使った。衣吹は大分、文句を言っていたけれど、高校一年生の時からの記憶がなくなるのとどちらがいいか訊ねると、盟約の方がいいと即答していた。
こうして、電脳総命を巡る長い戦いは、十年以上の時を経て、終息へと向かっていった。
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