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いるらんちゃんのその後です。(後日談的なあれ。)
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桃side
「最近さ、いるまくんと一緒に帰ってるよね?」
そう言われたのは放課後、教室の掃除当番が終わった後だった。
話しかけてきたのは、クラスの女子二人。少し悪意のある笑顔。
「付き合ってんの?告白されたって聞いたけど」
「……さあ。よくわかんない」
嘘ではない。ほんとうに、まだわかってない。
あの日から、私は毎日、いるまと帰ってる。
でも手を繋いだこともないし、「付き合おう」とちゃんと言ったわけでもない。
彼は、私が立ち止まっていても、何も急かさない。
隣で、いつも通りの顔をして、たわいもない話をしてくれる。
乾の名前も、恋の話も、一度も出さない。
優しすぎて、たまに苦しくなる。
―――
その日の帰り道。
信号待ちで、私は思わず言った。
「……ねえ、いるまって、さ。こんな関係、つらくなんないの?」
彼は驚いたように振り返った。
「え?」
「私さ、たぶんまだ、乾のこと好きなんだと思う。
でも、いるまのこと、嫌いでもない。……これってすごく中途半端じゃない?」
彼は少し黙って、苦笑いを浮かべた。
「中途半端だな。……でも、それでもいい。やってさ、たぶん俺、
“まだ好きじゃない”らんのことも、わりと好きだし」
私は、足元のアスファルトを見たまま、笑ってしまった。
「何それ、意味わかんない」
「俺もわかんない。でも、気づいたら好きだったから」
不意に、彼の指が私の手の甲に触れた。
けど、繋がなかった。繋ごうともしなかった。
ただ、それだけだった。
「じゃあさ、ちゃんと付き合うのはいつ?」
「らんが、“もうちょっとだけ好きになってみてもいいかも”って思えたら」
「……それ、けっこうハードル高いよ?」
「それまで待つ。どうせ、ずっと片想いだったんやし」
私は空を見上げた。雲がゆっくり流れていた。
まだ答えは出せない。
でも、少しずつ、心の中で乾の存在が遠ざかっている気がする。
その代わりに、隣にいるいるまのことが、前より近くなってる。
それが恋になるのかは、まだわからないけど——
「……じゃあ、もうちょっとだけ、一緒に帰ってよ」
その言葉に、彼はうれしそうに笑った。
夕暮れの道。今日も、並んで帰る。
まだ、分からない。
だけど、“もうちょっとだけ好きになってみてもいいかも”——
そんな風に、少しだけ思った。
―――
おまけの赤と桃(sk)が絡む短編
桃side
放課後、静かな図書室。
読みかけの本を返しに来ただけだったのに、運命のいたずらみたいに、彼女はそこにいた。
大神さん。
整った髪。無駄のない動き。
やわらかく笑う顔。
そして、何より――乾に選ばれた女の子。
彼女も、私に気づいて、一瞬目を伏せた。
「……あ、ごめん。先にいたよね。うるさくしてたらごめん」
「別に。私もすぐ帰るし」
私の声が、少しだけ尖っていたのを自分でもわかってた。
本棚を挟んで、沈黙が落ちた。
ふたりとも、本を読むフリをしているだけ。
ページはめくれないし、文字も頭に入ってこない。
「……大神さん」
気づいたら、私は口を開いていた。
「乾のこと、ずっと好きだったの?」
彼女は目を瞬かせて、少しだけ考えるように間をおいた。
「うん。好きだった。……でも、私が先に気づいたんじゃないと思う。たぶん、らんちゃんの方がずっと前から、ないくんのこと見てたんだと思う」
「……なんで名前、知ってるの」
「ないくんが言ってた。“らんらんはすごくまっすぐで、気づいたらいつも隣にいてくれた”って」
心が少しだけざわついた。
でも、同時にスッと冷めていく感覚もあった。
「それでも……私じゃ、ダメだったんだね」
「それは、私のせいじゃない。ないくんの気持ちの問題」
言葉が刺さった。
でも、大神さんの声は柔らかくて、強かった。
「だから、謝るつもりはないよ。奪ったわけじゃないから。……ただね」
彼女が少しだけ顔を伏せて、続けた。
「もし、あのとき私が諦めてたら、ないくんは今でも、らんちゃんの方ばかり見てたかもしれない。……だから、私が勝ったとは思ってない。たまたま、すれ違っただけ」
その言葉に、なぜか涙が出そうになった。
私たちは、戦ってたんじゃない。
ただ、好きになったタイミングと、伝え方と、相手の気持ちが、違っただけ。
大神さんは立ち上がり、本を閉じて、私の隣に立った。
「ないくん、いい人だね」
「……うん、知ってる。」
「あはは、そうだよね。…ないくんが、ちょっと気にしてたから。“らんらんが最近、いるまくんと一緒にいる”って。
……ちょっとだけ、寂しそうだったよ」
「……それ、言う必要あった?」
「ないけど、言いたかった」
私は小さく笑った。
「……大神さん、よくいじわるって言われない?」
「ふふ、ビンゴ。よく言われる」
ふたりとも、少しだけ笑った。
静かな図書室で交わした会話は、なんとなく不思議な後味を残した。
敵だったわけじゃない。でも、味方でもない。
たぶん、恋って、そういうものなんだ。
続く…??
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