テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ももは
#TS
きょむに生まれたプリン
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
白銀に輝く髪。
澄み渡るような藍色の瞳。
あの満月の夜、私は“運命”に出会った。
***
午前五時。
無機質なアラーム音が、静かなワンルームに響いた。
ベッドの上の青年は、音と同時にゆっくりと目を開ける。
白銀の長髪が静かに揺れた。
「……朝か」
低く落ち着いた声。
寝起きだというのに、その瞳には一切の隙がない。
青年は、小さく息を吐いた。
「……何度やっても、慣れないな」
その瞬間。
彼の身体に変化が起きる。
腰まであった白銀の髪が、肩口まで縮んでいく。長身だった身体はひと回り小さくなり、鋭い輪郭は柔らかな少女のものへ変わっていった。
数秒後。
鏡の前に立っていたのは、一人の少女だった。
白銀のボブカット。
澄んだ藍色の瞳。
黒いヘアピン。
耳元では、赤いタッセルイヤリングが小さく揺れている。
変化を終えた瞬間、全身に重たい倦怠感が広がった。
「……だるい」
短く呟く。
性別変化の反動。
慣れたとはいえ、不快なものは不快だ。
だが、それで仕事の精度を落とすつもりはない。
それが彼の流儀だった。
今日から彼は、高校一年生・朔晦華(たちごり はな)として生活する。
物静かで目立たない、ただの女子生徒として。
――その正体は、この街の裏社会で“バド”と呼ばれる殺し屋だった。
***
同じ頃。
都内でも有数の高級住宅街に建つ、望月家の豪邸。
柔らかな朝日が差し込む広い寝室で、望月乃愛(もちづき のあ)は、ベッドの上を転がっていた。
「うぅ~……今日から新学期かぁ」
嬉しそうな声。
艶のある黒髪を高い位置で結び、紫色の瞳をきらきらと輝かせる少女は、いかにも育ちの良いお嬢様といった雰囲気だった。
けれど今、彼女の頭の中を占めているのは勉強でも友達でもない。
あの日、自分を助けてくれた“白銀の男性”。
満月の夜。
廃屋で出会った、あの人。
「また会えたりしないかなぁ……」
ぽつりと漏れた呟きに、
「お嬢様、制服にしわがつきます」
静かな声が返ってくる。
ベッドの横に立っていたのは、執事の一ノ瀬真央(いちのせ まお)だった。
深緑色の髪を定位置で二つに結んだ真央は、乃愛を見ながらわずかに眉を下げる。
「それと、あと十分で出発のお時間です」
「えっ!? もうそんな時間!?」
乃愛は慌てて飛び起きた。
その勢いでシーツに足を取られ、ぐらりと身体が傾く。
「きゃっ――」
倒れる寸前。
真央がすっと手を伸ばし、乃愛の身体を支えた。
「お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫……!」
乃愛が慌てて姿勢を立て直す。
真央は安心したように小さく息を吐いた。
「本当に、目を離すと危なっかしいのですから」
口調は厳しい。
けれど、その眼差しはどこまでも優しかった。
乃愛は昔から、こうして大切に見守られて育ってきたのだ。
「今日は車を回しますが」
「ううん! 歩いて行く!」
即答だった。
真央は少しだけ目を細める。
「……また、例の男性を探すため、ですか?」
「なっ――!?」
乃愛の顔が一瞬で真っ赤になった。
「ち、違っ……いや違わないけど……!」
「ふふ」
珍しく、真央が小さく笑う。
からかわれた乃愛は頬を膨らませた。
だが、乃愛は本気だった。
この街のどこかに、きっとあの人はいる。
そんな気がしてならないのだ。
「い、行ってきます!」
乃愛は鞄を抱え、勢いよく部屋を飛び出していく。
その背中を見送りながら、真央は小さく呟いた。
「……危険なことには、巻き込まれないでくださいね」
その声音は、執事としてではなく。
彼女を大切に思う、一人の保護者そのものだった。
***
新入生歓迎会の熱気が、校舎中に残っていた。
「……騒がしいな」
華は小さく呟きながら、階段を降りる。
窓から差し込む春の日差しが、白銀の髪を淡く照らした。
今の彼女は、ただの一年生。
物静かで目立たない少女。
――表向きは。
実際には、周囲への警戒を一切解いていない。
足音。
視線。
気配。
無意識にすべて拾ってしまう。
完全に職業病だった。
そんな時。
下の階から、ばたばたと慌ただしい足音が聞こえてくる。
「お、重いぃ……っ」
大量の資料を抱えた女子生徒が、ふらふらしながら階段を上ってきていた。
しかもかなり危なっかしい。
(……落ちるな)
華がそう判断した瞬間。
女子生徒と目が合った。
紫色の瞳。
その瞬間、相手の動きが止まる。
「――えっ」
次の瞬間。
「あっ――!?」
案の定、足を踏み外した。
資料が宙を舞う。
身体がぐらりと傾く。
普通なら、そのまま階段を転がり落ちていた。
だが。
「危ない」
華は一瞬で距離を詰める。
乃愛の身体がふわりと抱き留められた。
「…………」
「…………」
至近距離で視線がぶつかる。
乃愛の心臓が、どくんと大きく跳ねた。
近い。
近すぎる。
白銀の髪。
透き通るような藍色の瞳。
整いすぎた顔立ち。
息が止まりそうになる。
「……大丈夫ですか」
静かな声が耳元で響く。
その瞬間。
乃愛の脳裏に、あの日の夜がフラッシュバックした。
満月。
白銀の髪。
自分を助けてくれた、あの人。
(まさか――)
だが次の瞬間。
視界に入ったのは、ひらりと揺れるスカートだった。
(……女の子!?)
乃愛の思考が完全に停止する。
その間に、華は散らばった資料を素早く拾い集めた。
「どうぞ」
「あ、ありがとう……ございます……!」
乃愛がぺこりと頭を下げる。
しかし華はそれ以上何も言わず、そのまま階段を降りていった。
白銀の髪だけが、視界に焼き付いて離れない。
乃愛は呆然とその背中を見送る。
「……なに、あの子」
胸がうるさい。
まるで、初恋みたいに。