コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
息苦しさで目を覚ます。
「っ!はぁー!はぁー!」
ふと見ると妹が面白そうな顔でこっちを見ていた。
「おはよー」
いつも通り妹が起こしに来てくれたらしい。
「おっ…おはよー…」
「どんな夢見てたん?」
「あ?なんで?」
「キモかったよ〜ニヤニヤして」
「ニヤニヤ?寝顔で?」
「そうそう。マジキモかった」
「キモいって割と傷つくよ?」
「だってキモかったもんはキモかったし」
「お兄ちゃん傷つくよ?」
「はいはい。ごめんごめん。ご飯だよー」
妹は僕のベッドから下りて部屋を出ていく。
ニヤけてたか。そう思いながら自分の頬を右手の人差し指と親指で両サイドから挟みつまむ。
ベッドを下り、部屋を出て、1階に下りる。洗面所で歯を磨き、顔を洗う。
そこからは何事もなく、いつもと変わらぬ日々を過ごした。
朝ご飯を食べ、部屋に帰って寝て
お昼ご飯にまた起こされ、お昼ご飯を食べて、また夜ご飯まで寝る。
夜ご飯を食べ、家族団欒し
各々のタイミングでお風呂に入り、各々のタイミングで部屋に帰る。
鹿島から実況のお誘いがあった日もあれば、ない日もあって
ない日もトップ オブ レジェンズのランク戦をしたり
ワメブロ(ワールド メイド ブロックスの略称)を1人でやったり
同席酒場のお気に入り回を見ながら笑って夜更かししたりしていた。
そんな怠惰な日々を過ごし、ゴールデンウィークはあっという間に過ぎ去っていった。
大学が始まり、1、2限はほとんどサボり
3、4、5限も妃馬さんに会えるかもしれないという邪な動機だけで行っていた。
たまに匠や鹿島も来ていて、そのときは鹿島とは講義中ゲームを一緒にして
匠とは各自違うゲームをしながら話していた。
2人がおらず、妃馬さんと同じ講義のときは講義中妃馬さんとLIMEのやり取りをした。
そしていつも通り妃馬さんをお家まで送り届けた。
ほとんどの確率でその場には音成さんも一緒にいた。
時が過ぎ、5月15日。5月も半ばとなれば早い夏が顔を覗かせる。
その日も1、2限に講義があったが当たり前のようにサボった。
ベッドの上でスマホの画面と睨めっこする。画面に映るのは妃馬さんとのトーク画面。
「今日5限の講義の前、良かったらどっか行きません?」
「いいですよ!」
「じゃあ…映画でもどうです?シルフィーの新作公開されましたし。
ってでも無理か。5限間に合わなくなるもんな…」
「サボっちゃいます?」
「え?いや僕は全然いいんですけど…大丈夫なんですか?」
「ちょっとくらい平気です( ¯▽¯ )ニヤニヤ」
「じゃあ、3時に真新宿の京央線の西口の改札出たところで待ち合わせでいいですか?」
「オッケーです」
猫がOKサインを出しているスタンプ。
「りょーかいです」
その後にフクロウが敬礼しているスタンプを送る。スマホとの睨めっこに敗北しニヤける。
スマホの画面の右上に表示された時間を見る。13時2分。トーク一覧に戻り、電源を切る。
ベッドから立ち上がり、クローゼットの中を眺める。初夏を思わせるほどの気温だったため
結局胸ポケットのついている背中のほうにフクロウにイラストが印刷されているTシャツに
ダメージジーンズを履いた。ピアスもファーストピアスからシンプルなリングピアスに変えた。
一度1階に下り、洗面所で髪の毛を整える。
手を濡らし、手櫛で髪を梳かす。少し濡れて光沢が出る。
「よしっ」
独り言を呟く。自分の部屋に戻り、靴下を履き
財布、スマホだけをジーンズのポケットに入れて1階に下りる。リビングに一度寄って母に
「ちょっと出てくるわぁ〜」
と声をかける。
「あら出掛けるの?」
「うん」
玄関へ向かう。母が後ろからついてくる。シューズクローゼットから靴を取り出し履く。
「んじゃ、いってきます」
「遅くなるの?」
そう聞かれてほんの少し考える。
3時に待ち合わせして、それから映画を見て、時間的に…解散?
「いや、たぶん7時過ぎとか、まぁ9時前には帰ってるかな」
「ご飯は?」
「帰ってきてから食べるわ」
「ん。じゃあ、ご飯先食べちゃうよ?」
「はい、それはどうぞ」
「じゃ、気をつけてね」
「はいよー。いってきまーす」
「いってらっしゃい」
玄関の扉を開き、外に出る。日差しは春の優しさがあり、陽の強さはまだ夏ではなかったが
気温の高さは初夏さながらだった。
ポケットからスマホとイヤホンを取り出し、音楽を聴きながら駅へ歩き出す。
駅につき、交通系電子マネーでホームに入り、電車に乗る。
途中の駅で降り、京央線に乗り換える。そのまま真新宿駅まで行く。
平日だというのに真新宿駅には人がごった返していた。西口の改札から出る。
左手にはデパートに通づるエスカレーター、右手には券売機があった。
歩きながら周囲を見渡すが妃馬さんらしき人の姿はない。
柱に寄りかかり、ポケットからスマホを取り出し、ホームボタンを押す。14時49分。
時刻表示の下に妃馬さんからの通知がある。
早く来すぎ…ってほど早くもないか。と思いながら妃馬さんの通知を見る。
「怜夢さんどれくらいに着きそうですか?」
スマホの画面が暗くなる。もう一度ホームボタンを押し、妃馬さんの通知をタップし
妃馬さんとのトーク画面へ飛ぶ。人差し指でスマホの裏側をトントンしながら返信を考える。
もう着いてます。はダメ。まだ着いてません。も
「どれくらいに着きそうですか?」の解答になってない。返信を打ち込む。
「もうそろそろ着きそうです。」
送信ボタンをタップする。トーク一覧に戻り、意味がわかると怖い話を読む。
真新宿駅というだけあり、息つく暇もなく電車が到着し、乗客が降りてきて改札を通る。
その逆も然りで、電車に乗ろうと改札を通る人も目まぐるしい。
1話が長く、読み終えて考えているとトントンと左肩を叩かれる。
ふっっと叩かれた方向に目線を送る。妃馬さんが立っていた。
左耳のイヤホンを取る。音楽の後ろで聞こえていた環境音のボリュームが大きくなる。
「お待たせしました?」
妃馬さんの声。右耳のイヤホンも外す。
「いやいや、今着きましたから」
スマホの画面をいじり、音楽アプリで今再生されている音楽を止める。
「ほんとですかー?」
「マジですマジです。なんなら同じ電車に乗ってたかも?」
「またですか?」
「前もありましたもんね」
「あのときは「まさかっ!」でしたね」
「奇跡的でしたね」
「キラデリーですよね?」
「のつもりです。行きますか」
「行きましょう」
階段を上り、地上に出る。真新宿の街を歩く。キラデリーまでの道は長かった。
真新宿は人の多さがすごかった。観光で来たであろう海外の方や日本人。
平日なのにまるで休日かと錯覚させるほど賑わっていた。直線の奥にキラデリーが見える。
「やっとですね」
「意外と歩くんですね」
「真新宿キラデリー前駅とか作ればいいのに」
「映画好きの方は出資しそうですね」
クスッっと笑う妃馬さん。その様子に僕も自然と笑顔になる。
キラデリーの中に入り、エスカレーターを乗り継ぐ。
さすがに平日だけあってかキラデリー内はそこまで人は多くはなかった。少なくはなかったが。
チケットを買うためのタッチパネルの自動発券機で
空いている席を横並びに2席タップし、チケットを買う。
さすがにここで奢るのは、なんの口実もなく変だったので割り勘で買った。
上映まで30分ほどあった。先にグッズ売り場に行く。
「お、クリアファイルだ」
手に取る。これから見るシルフィー映画のキャラクターが描かれたクリアファイル。
「わぁ〜懐かしぃ〜」
妃馬さんもクリアファイルを手に取る。
「第一声が懐かしい?」
半笑いで聞く。
「いや、小学生のときによく両親と映画行ってクリアファイルとか買ってもらって
学校に持っていってたなぁ〜って」
「あぁ!あぁ!あぁ!いましたいました!クリアファイルかぁ〜なに使ってたっけな」
「もう下敷きとかは売ってないんですね」
「下敷きね!懐かしい。ないんですか?」
クリアファイルを元に戻して下敷きを探す。
「ありましたありました」
妃馬さんが下敷きを手に取る。
「おぉ。ボールペンとかシャーペンもセットでね」
「意外とするんですよねぇ〜」
「まぁコラボグッズですしねぇ〜」
「キーホルダーかぁ〜」
「買うんですか?」
「んん〜。なんだろう。シルフィー映画って成長するにつれ、グッズ買わなくなりません?」
「僕はぁ〜そうだなぁ〜。あんまプリンセス系は見なかったから」
「まぁそれもそっか」
「あのエイマックスのキーホルダーは買いましたね」
「たしかに!あの白い柔らかそうなロボット?可愛いですもんね!」
「スクバにつけてましたね」
「スクバ!名前が懐かしい」
「なんで僕ら今から見る映画のグッズコーナーで懐かしさに浸ってんすか」
「たしかに」
2人で笑った。グッズ売り場を出る。
「あ、妃馬さん飲み物」
「あ、そうだ」
2人で遠目でメニューを見る。
「映画ならではのポップコーンとか食べちゃいます?」
「お、いいですねぇ〜怜夢さん何味派ですか?」
「んん〜…基本的にはキャラメルかな」
「私もです」
なぜか少し心のどこかがくすぐったかった。そしてなぜか少し照れた。
「お!Santa(サンタ)のメロンソーダある!あれにしよ!」
「ほんとだ。珍しー。じゃ、私はぁ〜…アイスティーにしよ」
カウンターに行って注文をする。
僕がSanta(サンタ)のメロンソーダとキャラメル味のポップコーンのMサイズを抱え
妃馬さんはアイスティーを持ち、入場を待つ。
「持ちますよ?」
「あ、いえ。食べます?」
と僕は妃馬さんにポップコーンを軽く差し出す。
「じゃあ1つ」
妃馬さんはキャラメルの纏ったポップコーンを1つ口へ運ぶ。
「んー!美味しー!この感じひさびさぁ〜」
美味しそうに、そして嬉しそうに食べる妃馬さん。
「怜夢さんも食べます?」
「後でいいかな」
「そうですか?」
「あ、いや、でもほら」
と両手に抱えた物を少し上げる。
「両手塞がってるので」
そう言うと妃馬さんは徐にキャラメルの纏ったポップコーンを1つ手に取り
「はい、どーぞ」
と僕の口にそのポップコーンを差し出す。
「え?」
「良かったら…」
思考が停止する。握力もなくなったように感じる。でもしっかりとポップコーンの入った容器
Santa(サンタ)のメロンソーダが入った容器を持てていた。人々の歩く音、話す声
エスカレーターの動く音、レジの音、バーコードを読み込む音。すべてはっきり聞こえる。
聞こえてるはずなのに、こもって聞こえるような
周りの風景も、しっかり見えてるはずなのに
妃馬さんにフォーカスが合ってボヤけて見える気がした。
停止した思考を動かし、考えるより先に体が動いた。
首を伸ばし、妃馬さんが右手に持つポップコーンに顔を寄せる。唇にポップコーンが触れる。
唇でポップコーンを挟み、顔を上げて口に入れる。
キャラメルの甘い味、香ばしい香りが口に広がる。
「う、うんうん。美味しい。てかこんな甘かったでしたっけ?」
平静を装うが心臓はバクバク言っていた。
「ね!私もこんな甘かったっけ?って思いました」
笑う妃馬さんのその笑顔にまた鼓動が高鳴る。その僕の心を一掃するように景色が変わる。
恐らく映画を見終えた人たちがエスカレーターからぞろぞろと降りてきたのだ。
「あ、そろそろかな」
「でーすね?たぶん」
しばらくすると僕たちが見るシルフィー映画の入場が始まる。
妃馬さんが前、僕が後ろでゲートにいる係員さんにチケットを手渡す。
チケットをベリベリを切り離す。係員さんから、もう一度チケットの半券を受け取り
中へ入場する。エスカレーターを何度も乗り継ぎ、映画館のシアター内に入る。
チケットの席の番号を確認する。
「妃馬さんどっちがいいですか?」
「え?私こっち…」
「見やすいほうでいいですよ。僕ここなんで」
「えぇ〜っと…じゃあ…そのままで!」
悩んだ挙句そのままで少し笑う。
「わかりました」
2人でシートに腰を下ろす。
「あ、写真撮っていいですか?」
「え?あ、はい」
「チケット貸してください」
妃馬さんにチケットを渡す。妃馬さんはチケット2枚を片手に持ち
ドリンクホルダーに入れたアイスティーと共に写真を撮っていた。
「ありがとうございます」
僕にチケットが返ってくる。
「ニャンスタにあげるんですか?」
「そうです。そうです」
妃馬さんがスマホをいじる。僕も別にすることはないけどスマホをいじる。
普段ニャンスタに投稿することもないし、写真すらあまり撮らないが
やることがなく暇だったため僕も写真を撮ることにした。
右手でピースをし、薬指と親指で器用にチケットを挟む。
妃馬さんのようにドリンクホルダーに入れた
Santa(サンタ)のメロンソーダと共に写真を撮った。ニャンスタのアプリを開く。
Crystal Peanutsさんの投稿などが目に入る。投稿を追加する「+」ボタンを押し、先程の写真を選択する。
フィルターなどはよくわからなかったのでテキトーなフィルターをかける。
文とハッシュタグを打ち込む。
「映画なう。Santa(サンタ)のメロンソーダ売ってて、珍しすぎてさすがに買ったわ。
てかニャンスタひさしぶりに起動したわ。
#映画 #Santa #メロンソーダ #Santaメロンソーダ #シルフィー #シルフィー映画」
投稿ボタンをタップする。自分の投稿が一番上に来る。
「そうだ。怜夢さんニャンスタやってないんですか?」
投稿が終わったらしくスマホを太ももの上に置き、アイスティーを一口飲む妃馬さん。
「やっ…てますけどー、全然やってないですね」
「あぁ〜…まぁ私もそんなですよ?」
「そうなんすか?」
「投稿〜…するな」
「するんじゃないですか」
2人で笑う。
「投稿もしますけど、やたらめったら、なんでもするって感じじゃないです」
「へぇ〜。女子って一生ニャンスタ見てるイメージ」
「一生って」
妃馬さんが笑う。
「怜夢さんのアカウント教えてください」
「いいっすけど…どうやるんすか?」
「えぇ〜っとですねぇ〜」
妃馬さんが僕のスマホを操作し、妃馬さんとニャンスタでも友達になった。
「あ、怜夢さんも投稿してる」
「なんとなく。めっちゃひさびさに」
「いいねしときました」
通知が届く。
「通知来ました」
妃馬さんがニコッっと笑う。僕も妃馬さんのアカウントを見る。
先程撮った写真が投稿されていた。その写真に2回素早く連続でタップする。
「あ、通知来た」
妃馬さんが嬉しそうな顔をする。
「いいねしました」
「ありがとうございます」
嬉しそうな顔をこちらに向ける。ドキッっとする。するとその妃馬さんの顔が少し暗くなる。
パッっとシアター内全体に目を向けると照明が徐々に暗くなっていった。
妃馬さんも僕もスマホの電源を切り、スクリーンを見る。
スクリーンには映画鑑賞中の注意事項などが流れていた。
そしてさらに照明が暗くなり、様々な映画の予告が流れる。
その中に名探偵ロナンの最新劇場版の予告が流れた。
左隣の妃馬さんに少し体を寄せ、すごく小声で
「実はこのロナンか迷ったんです」
と言う。妃馬さんが顔を僕の耳元に近づけ
「ロナンは今度フィンちゃん恋ちゃんと見に行こうねって話してたのでナイスチョイスです」
と言ってくれた。妃馬さんを見ると親指を立てて「GOOD」としていた。
予告が終わり、いよいよ本編が始まる。