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第四章 対峙
夜明けの光が大地を照らしはじめると同時に、地下帝国と天空神殿の軍勢は静かに向かい合った。
空気が震えている。
まだ剣すら交えていないのに、互いの殺気だけで大気が軋んでいた。
葵は最前列に立ち、前方の岩場に佇む一人の少女を見つめた。
白い髪に淡い光を宿す瞳。
その存在だけで、戦場の空気が変わる。
——四季。
「あれが……敵総大将、四季ですか……?」
副官は息を呑む。
葵は答えず、歩みを進めた。
◆葵と四季、ついに対面
四季もまた、ゆっくりと前へと歩く。
彼女の背後で玉が叫んだ。
「四季! 前へ出るなんて危険だよ!」
四季は振り返らず、ただ一言。
「……玉。ここは私の役目なの。」
そして、二人は戦場のど真ん中で向かい合った。
風も、鳥も、兵たちでさえ息を止める。
葵の黒い外套が揺れる。
四季の淡い光が揺れる。
「四季。」
葵は静かに言った。
「……円のこと。聞いたよ。」
四季は目を伏せ、僅かに震える声で答える。
「葵……ごめん。
円は……私が……」
「言うな。」
葵の声は強くも、少しだけ痛みを帯びていた。
「円の死を誰かのせいにはしない。
戦場に立った時点で……皆、覚悟している。」
四季は唇を噛んだ。
「でも……円は最後に言ったの。
“葵を止めろ”って。」
「……そうだろうな。」
葵は目を細める。
「だから、私は来た。
——私の戦いを、誰にも止めさせないために。」
四季の瞳に、悲しみが映る。
「葵……どうしてそんな顔をするの……?」
葵は答えない。
いや、答えられなかった。
◆剣を向けられない二人
四季はゆっくりと剣を抜く。
淡い光を帯びた聖剣——「蒼天」。
葵も剣の柄に手をかけるが、その動きは鈍かった。
(——斬れるのか? 私は本当に、この子を……)
四季は震える声で言った。
「葵。
もしあなたがこのまま戦を続けるなら……
私は……あなたを止める。」
葵の胸が軋む。
「四季……」
「でも、本音を言えばね……
私は、葵を傷つけたくない。
私たちは、本当は——」
その言葉を遮ったのは、大地を揺らすような轟音だった。
◆玉の暴走
「四季から離れろぉぉぉぉ!」
玉が叫び、巨大な霊力の奔流が戦場を吹き飛ばす。
獣族の兵が驚き、地下帝国軍が後退する。
四季が振り向く。
「玉! 何してるの!」
玉は荒い息で葵を睨みつけた。
その瞳は涙で滲み、怒りと焦りが入り混じっている。
「四季が……泣きそうな顔をしてるから!
葵が四季を苦しめるなら……私が葵を——!」
「やめなさい玉!!」
四季の叫びが響く。
だが玉は止まれない。
「四季が……葵のために泣くのが嫌なんだ……!
なんで四季は、敵のことをそんなに想うの!」
玉の想いは、誰より純粋で、誰より痛々しかった。
四季は震える声で言う。
「玉……ごめん……。
でも、葵は敵でもあるけど……友達でもあるの……。」
玉の目が大きく揺れた。
「……四季は……葵を……守りたいの……?」
四季は答えられなかった。
その沈黙が玉の心に傷を刻む。
玉は吠えた。
「だったら——私が全部壊す!」
獣化が進み、玉の姿が異形へと変わり始める。
葵は剣を引き抜いた。
「四季、下がれ。
あの暴走は止められない。」
四季は首を振る。
「違う……玉は、私を守ろうとして……!」
黒と白の光が交錯する。
戦場の空気が一瞬で変わった。
——その瞬間。
大地の下から、別の気配が溢れ出した。
◆地下帝国の「復活計画」
地下の地脈から黒い霧が噴き上がった。
兵たちが悲鳴を上げる。
葵はその黒い霧を見て、表情を強張らせる。
「……影の霊気……!?
まだあれは封印されていたはず……!」
四季も表情を失った。
「まさか……地下帝国は……!」
その時、地下帝国の参謀長が岩場の上に姿を現した。
黒い霧を纏い、不気味な笑みを浮かべている。
「総大将葵様。
あなたの“憎しみ”のおかげで……
復活は、ほぼ成りました。」
葵は怒りで震える。
「参謀長……これはどういうことだ。」
参謀長は両手を広げる。
「地下帝国が求めたのは——平和でも勝利でもない。
この大陸の“浄化”だ。
そのために必要なのが……“影王”の復活。」
四季が息を呑む。
「影王……!
世界を滅ぼしかけた、あの……!」
参謀長は笑い声をあげる。
「争いが深まれば深まるほど影王は力を取り戻す。
葵様ほど優秀な“憎悪の器”は他にいない。」
葵の足元から黒い霧が立ち上がる。
「やめろ……! 私は……そんなものの……!」
四季が駆け寄り、葵の腕を掴む。
「葵!!」
二人の視線が交錯したとき——
大地の底から、低い声が響いた。
——よこせ。
憎悪を。
おまえの心を。
黒い霧が葵の胸に吸い込まれていく。
葵は苦悶の声を漏らす。
四季は必死に叫ぶ。
「葵!! だめ!! 目を開けて!!」
玉は獣の姿のまま、影を睨むように吠えた。
そして——影王がゆっくりと、黄泉の国から現世へと“近ずき始めた”。
◆つづく
地下帝国軍総大将葵 ↑