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「そうだね、じゃあ、俺のことについても話そうか…」
そういってあいつはワイングラスをくるくると揺らし、深紅の液体はそれに合わせてゆっくりと渦を描く。
幼い頃に憧れたブロンドヘアが、夜風に靡いた。
「…まぁ、そんなに面白い話でもないさ。
名前はフランシス・ボヌフォワ。年は26。
仕事は…そうだな、デザイナーをしているよ。
残念ながら、兄弟はいないな。いたって普通のアラサー…これで満足かい?」
まぁ、国体が人としてしうる返答としては上々だろう。
しかし、ここで黙っている俺ではない。
少しでもあいつの隙をつき、ボロが出るのを待つのだ。
そうしてこう言う。
“ 私、貴方がそんな人だとは思わなかったわ。
どうせ私のことなんて、「バカな女、少し遊んで捨ててやろう」くらいに思っていたんでしょう?
二度と貴方なんかに合いたくない。パリも貴方も大嫌い。さようなら。”
そう言われたときのあいつの顔を写真に撮って、額縁に飾ってやろうか。
さて、最高のフィナーレを導くためのキーには、相手を動揺させる話題が必要不可欠だ。
そして俺が選んだそれは…
“…そうね、私、あなたのお知り合い?について知りたいわ。
少プライバシーかしら嫌だったら結構よ。 “
俺の思惑通り、あいつは目を丸くした。
そして困ったように笑ったあと、口を開いた。
俺は賭けたのだ。あいつがこの女性のために話す友人…
それが、俺であることを。
「君はまるで探偵のようだね。
ホームズの名を無駄にしていない…本当に、君みたいな女性はいないよ。
そう…。きっと、俺の知り合いとして、朝、君を口説いていた彼らを紹介するのは気に入らないだろう?
イギリスから来た聡明な君には、1人、ピッタリなやつがいるのさ。」
「…あいつをなんと言ったら良いんだろう…いわゆる、腐れ縁ってやつかな。
すっこい頑固で堅物。酷い懐古主義。
紅茶の味にはうるさい癖に、料理は壊滅的。俺があんなに作ってやったのに…。
…あぁ、すまないね。で、そいつは弟?みたいなやつがいるんだ。
大分昔に弟はあいつから離れてんのに、未だに執着してんの。
それでさぁ、この前なんかあいつ…」
そうだ、俺はこいつの、こういう顔も嫌いだ。
周りの奴らがみんな、「イギリスの話をするときの…」と評した顔だ。
いかにも愛おしくてたまらないという様子を見せて、期待させて、また俺を裏切る。
お前の前にいるのはそいつを知らない女性なのだから、友人を1人しか紹介しないなんてナンセンスだろうに。
話をやめて、話題を切り替えるのが最優先だ。
それか、永遠に己の世界に浸ってくれ。
今俺の顔をみられたら、不甲斐なくて堪ったもんじゃない。