余命宣告。
それは、されるとしたら殆どの人が人生後半でされるものだと思っているだろう。
僕もその一人だった。
まさか、僕が人生においてごく|僅《わず》かな少数派に振り分けられるなんて、あの頃は思っても見なかった。
僕は、余命宣告をされたあの日から「生きる」ということに執着するようになった。ある意味呪いをかけられた様に。
海は溺れるかもしれないし、サメに襲われるかもしれない。
サッカー部ではボールが当たって打ち所が悪く死ぬかもしれないし、サッカーゴールが倒れてくるかもしれない。
いつの間にか、僕は死の匂いを感じなくてもいいところまで感じるようになった。
至るところで死の匂いを感じてしまうので、夏休みはどこにも行っていない。
”今”を生きることに懸命になりすぎて、僕は目の前のことしか見れない人間になってしまった。
「…赫乃!」
「赫乃!」
「んぇっ?」
友達の顔が目の前にある。
授業中なのに後ろを向いて話しかけてくる。内申点とか気にしないタイプだ。
呼ばれていたことに気づかないなんて、最近の僕はどうにかしているのだろうか。
「今日放課後暇?」
「ぜんっぜん暇じゃない」
即答。
今日は僕にとって4ヶ月に1回しかない一大イベントがある。それを休むわけにはいかない。
僕だって本当は行きたい。その気持ちを押し殺して断った。
「残念、いつものメンツで遊びに行きたかったんだけど」
「また誘ってくれ」
「今度こそ、な」
友達が話を切り上げた瞬間。
「こら、そこ!」
少し声量が大きかったのだろうか。いつもはバレないのに。
授業後、友達と先生に叱られながらも僕は今日の一大イベントのことを考えていた。
それ程、そのイベントは生きることを強く望む僕にとって大切なのだ。
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