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スマホの画面には雅史からの着信だと表示されていた。
「はい」
『あ、俺。あのさ、離婚の条件の具体的な話……なんだけど』
「……はい」
そういえば具体的なことはまだ何も決めていなかった、と思い出した。
養育費の金額や慰謝料のこと、今ある我が家の財産のことなどを話さないと進まないのに。
『慰謝料って払う必要ある?』
「えっ!」
まさかの雅史の質問に、返事ができなかった。
『別に弁護士がいて、そう言われたわけじゃないんだろ?』
「それは……」
『まぁ、うちの金はほとんど杏奈が管理してるんだし?いくら払えるかくらいわかると思うけど。俺が浮気したのだって原因は杏奈にもあるんだし』
「…………」
カッと頭に血が逆流してくる感覚がした。
目の前がチカチカしてくる。
一度の謝罪もなくそのうえ、慰謝料を払わないと言い出す夫に、怒りを通り越して呆れてしまう。
_____落ち着いて、ここで感情的になったら負けな気がする
『いらないよな?ってかそんな余裕ないよな?うちの家計』
「待って。弁護士さんに聞いてみる」
『は?そんなことしたら余計に金がかかるんじゃないの?弁護士費用って高いんだろ?』
「……ご心配なく。そういう相談に無料で対応してくれるところもあるみたいだから。わかったら連絡します」
雅史の返事を待たず、そこで電話を切った。
「なによ、なによなによ、なんでそんなこと言い出すの!」
足元にあったクッションを蹴飛ばした。
「おかーたん?」
「え?あ、ごめん、だめだよね、クッションを蹴飛ばしたりしたら」
「…ん……、おとーたんは?おとーたんはもう帰ってくるの?」
「あ、うん、どうだろうね。お仕事、終わったかな?」
「サッカーしたいな、おとーたんと」
うつむいた圭太の手には、少し汚れているけど本格的なサッカーボールがあった。
「あれ?圭太はサッカーボールなんて持ってたっけ?」
私は買った記憶がなかった。
「おとーたんのお友だちにもらったよ」
そういえば、少し前に友達がサッカーをやっているという話を聞いたことがあった。
サッカーしたいな、と小さく呟いた圭太の頭をそっと撫でた。
_____圭太にとっては、雅史の浮気もそのせいで自分がけがをしてしまったことも、関係ないのだろうな
夫としての雅史は許せないけれど、私のその感情で圭太から父親を奪ってもいいのだろうかというジレンマで、胸が苦しくなった。