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夜が更け、葉月はベッドに横たわりながら、蒼から借りた伝承の本を何度も読み返していた。そこには、時計が時を超える力を持つとされる古い言い伝えが記されていたが、具体的な使い方や目的については曖昧だった。
「この時計が現代に戻る鍵だとしたら…」
葉月は時計を手に取り、何度か試してみたが、特に何も起こらなかった。やはり、簡単には使いこなせるものではないのかもしれない。
そのとき、扉が静かにノックされた。
「入っていいか?」
玲の声だった。葉月は少し驚いたが、扉を開けた。
「玲さん…」
玲は無表情で部屋に入り、葉月の手にある時計をじっと見つめた。
「お前がその時計をどうやって手に入れたのか、まだ信じられない。」
葉月は困ったように笑い、時計を見つめた。
「私だって、どうしてこんなことになったのか分からないわ。でも、この時計が私をここに導いたのは間違いないみたい。」
玲はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「俺はずっとこの時計の力を信じていなかった。ただの家宝だと思っていたからな。でも、こうしてお前が現れたことで、何かが変わるのかもしれない。」
葉月は玲の意外な言葉に驚いた。彼は冷たく見えて、実は深く考えていたのだ。
玲は窓の外を見つめながら、静かに続けた。
「俺たち北原家は、この時計に振り回されてきた。何世代にもわたって、この時計が持つとされる力に期待してきたが、誰もその真実を知ることはできなかった。だから俺は、この時計の存在に嫌気が差していたんだ。」
葉月は玲の複雑な思いを感じ取り、何と言っていいか分からなかった。ただ、彼の心にある重いものが少し見えた気がした。
「でも、お前が現れたことで、少しは期待してもいいのかもしれないな。」
玲の言葉に、葉月の胸は少しだけ温かくなった。彼は冷たく振る舞っているが、その奥には柔らかい部分があることを知ったからだ。
その夜、葉月は再び時計を手に取り、玲の言葉を思い出しながら静かに眠りについた。
翌朝、蒼が部屋に訪れ、葉月に一つの提案をした。
「葉月さん、今日、少し出かけてみないか?この時計についてもっと知るために、ある場所に行きたいと思う。」
「ある場所?」
「時計にまつわる伝承が語り継がれている場所だ。そこに行けば、何か手がかりが得られるかもしれない。」
葉月はその提案に頷いた。玲も一緒に行くことになり、三人は早速出発の準備を始めた。
時計の秘密を探るための新たな旅が始まろうとしていた。この先に待つ真実が何であれ、葉月はその運命に立ち向かう決意を固めた。